Yahoo!ニュース

ベテラン堀江翔太がチームを「怒らなあかん」条件とは。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
(写真:つのだよしお/アフロ)

 ファンが心配したのは後半29分頃。埼玉パナソニックワイルドナイツの堀江翔太が、夜空の下にうずくまった。

 4月21日、東京・秩父宮ラグビー場。国内リーグワン1部・最終節に、後半11分から出場した。

 強靭でしなやかな体躯でタックル、ジャッカルを重ねながら、記録上は同31分に一時的な交代を余儀なくされる。止血のためだ。

 その約4分後に戻るや、またも「(接点が)空いていた」からと好ジャッカルを決める。試合は東芝ブレイブルーパス東京に34―22で勝利。その後は鼻の周りにテーピングを施し、取材に応じた。

「ちょっと…鼻血か」

 ひとたびこう話し、離れた場所に置いていたキャリーケースからティッシュを取り出すこともあった。その折、スタッフに新しいマスクを手渡され、口元を覆った。

 怪我の状況については、妙に大らかに話す。

「ここ(頬)を触っても響かんかったので、大丈夫かなと」

 日本代表として過去3度、ワールドカップに出た堀江は、昨季、36歳にしてリーグワンの初代MVPに輝いている。37歳のいまも存在感を示す。

 チームの連勝記録が止まったことについても、改めて口にした。

 以下、共同取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

——堀江さんが投じられた頃は、ちょうどブレイブルーパスが勢いを取り戻していました。

「向こうも点数、取らなあかんから、少しボールを動かしてきましたよね。そこでタックルが受け(身)、受け(身)になって…」

 目下首位のワイルドナイツは序盤、エリアゲームで優位に立ちながら向こうの反則を誘発。前半を19―0とリードした。

 この日は、堀江の言う通り「向こう」には「点数、取らなあかん」という事情があった。

 上位4強によるプレーオフ進出のため、4位の横浜キヤノンイーグルスと1あった勝点の差を、1点でも多く覆したかった。勝利によって得られる4はもちろん、3トライ差以上をつけて得られる1も欲しかった。

 それでもワイルドナイツは、堅陣を敷いてその望みを叶えさせなかった。

 一時は自分たちのエラーでブレイブルーパスにチャンスを与えたが、ピンチを迎えるたびに堅陣を敷いた。大きな突破を許した直後も、各人がその地点まで戻って防御ラインを敷いた。我慢した。

「反則なしにディフェンスができたのは大きい。で、トライされても隅っこ…と」

 さかのぼって15日、第15節で静岡ブルーレヴズに25―44と大敗。スクラムで後手に回り、今季初黒星を喫した。

 何より、昨季の不戦敗2試合を除いたリーグ戦およびプレーオフでの無敗記録が、47で止まった。

 今度のブレイブルーパス戦に向け、チームは、この負けを肥やしにできた。堀江の談話が、それを明らかにした。

——前節の敗戦を受けて。

「もちろん、セットプレー、スクラムでいかれた(苦しんだ)部分もいっぱいあったので、どうやったらよく組めるかも修正した。…修正することもたくさん修正しながら、勝ちたい姿勢をさらに。その姿勢がないと、スキル、技術があっても活かせないので」

——堀江さんはどうチームにアプローチしたか。

「僕は、言わないです。(リーダーに)任せてます。僕の声というのは、力が大きいので、あまり僕が引っ張りすぎると、全部、(チームの意向が)僕のほうにいってしまう。それでは力にならない。ぐっと我慢しながら、様子をうかがって、プレーして、アティチュード(態度)は出そうかな、とは。…きょうも、血ぃ出しながらプレーしたので、いい感じで姿勢、見せられたかなと思います!」

——では、ブレイブルーパス戦までの仲間たちの準備状況は。

「よかったです。めちゃくちゃ、よかったですね。一番、いい練習をしていた。これはいけるなと。

 ただただ強度が上がるだけではなく、プレーひとつひとつの質、コミュニケーション、取り組む姿勢が見えた。これ(練習の質)が見えんかったら怒らなあかんと思ってたんですけど。そこらへんは(ブルーレヴズとの)試合後も何も言わんかったですし、ロビー(・ディーンズ監督)さんも多分、一歩、引きながら、行動をうかがっていて、結局、練習後、何も言わずに離れて行った。その練習の雰囲気を見て、大丈夫だったと(感じたのだろう)」

 事実、この週で唯一の本格的な練習日となった19日、ディーンズはグラウンド上で静観していた。堀江は、5月からのプレーオフを見据える。

「ああいう負けで気づかされるのはあまりよくないんですけど、負けてただで転ばんのはいい。あと2戦、しっかりとああいう(質の高い)練習を常にやって、順調に勝っていきたい」

——その意味では、ブルーレヴズ戦前までの練習では…。

「何かこう、なぁなぁになっていたというか、ミスであったり、自分の役目がわからないままでやったりした感じはありましたね。『いけるやろ』みたいな感じはあったと思う。ここからはそんなこと、言っていられない。全力で毎練習、毎練習、どうよくなるか、どう成長するか。個人個人、セルフマネージメントしないと」

——今季途中から、堀江さんは「いつか負けることもある」かもしれないとお話ししていました。いざそうなったことにはどう感じますか、

「記者の皆さんから『4年何カ月ぶり(の黒星)』という数字が出てきて、あ、そんなに勝ってたんやと。客観的に、凄いなと思います。僕がキャプテンの時(2016年まで)、どうやって優勝してたっけなと。普通に負けてたよな? …という話を後輩ともして」

——今後のチームの成長は。

「若手と坂手(淳史キャプテン)中心にチームが成長している。僕は坂手に付いていっているだけです。ああせい、こうせい、どうのこうのと言わなくて。坂手、内田(啓介)、(金田)瑛司、山沢(拓也)、(松田)力也、長田(智希)もそうですが、キーになるような奴らが色々とやっている。(野口)竜司も後ろからまとめてくれるし、各ポジションの若手のリーダーが中心になって、どうせなあかんかをやってくれる。いいんじゃないですか。成長をやめなければ、もしこれが下がってきたとしても、一番下には行かないと思います」

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

すぐ人に話したくなるラグビー余話

税込550円/月初月無料投稿頻度:週1回程度(不定期)

有力選手やコーチのエピソードから、知る人ぞ知るあの人のインタビューまで。「ラグビーが好きでよかった」と思える話を伝えます。仕事や学業に置き換えられる話もある、かもしれません。もちろん、いわゆる「書くべきこと」からも逃げません。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

向風見也の最近の記事