未知の素粒子の存在を示唆!元素「ガリウム」をめぐる異常と壮大な仮説
どうも!宇宙ヤバイch中の人のキャベチです。
今回は「ガリウムをめぐる異常と壮大な仮説」というテーマを解説していきます。
原子番号31の元素「ガリウム」には、それに関連する理論予測と実験結果が合致しない明確な異常が知られており、「ガリウムアノマリー」と呼ばれています。
現在でも未解決のガリウムアノマリーを解決し得る説明の一つには、未知の素粒子の存在を支持するものもあり、さらにはダークマターの問題の解決にも繋がる可能性があります。
本記事ではガリウムアノマリーが知られるまでの流れとその具体的な内容、そしてそれを解決し得る魅力的な仮説について解説していきます。
●ガリウムアノマリーの概要
ガリウムアノマリーは、ロシアにある素粒子ニュートリノの研究施設にて1989年から続く、SAGE(ソビエト・アメリカ・ガリウム実験)という実験において発見された異常です。
SAGEでは、57トンのガリウムを地下深くで収容し、宇宙線から遮蔽しながらその様子を観察しました。
太陽由来の電子ニュートリノは反応性が極めて低く、岩盤を通過しながら地下深くにあるガリウムまで到来し、時折ガリウム原子内の中性子と結合して陽子に変換し、原子番号31のガリウムを原子番号32のゲルマニウムに変えます。
その後ゲルマニウム原子を数えることで、どの程度のガリウムが変化したのかを調べています。
SAGE実験は当初、太陽由来の電子ニュートリノ検出数が理論予想よりも少ないという、「太陽ニュートリノ問題」を調査するために計画されました。
ニュートリノには3種類あることが知られていますが、電子ニュートリノはその一種です。
しかし太陽ニュートリノ問題は、2015年にノーベル賞を受賞した「ニュートリノ振動」という現象の発見によって最終的に解決されました。
ニュートリノ振動は、あるニュートリノが別の種類のニュートリノに変化する現象です。
太陽で発生した電子ニュートリノが別種のニュートリノに変化したことが、その検出数が予想よりも少なかった理由だと判明しました。
研究者たちは、当初のSAGEの目的だった太陽ニュートリノ問題が解決された後も、ガリウムの変化に関するデータを集め続けました。
その結果、ガリウムが電子ニュートリノと衝突することで生成されるゲルマニウムの生成量は、予想より20%ほど少ないことがわかったのです。
ニュートリノの発生数を理論的に正確に把握していたにも関わらず、何度実験してもこの差が埋まることはなく、この理論と実験結果の不可解な不一致の問題は「ガリウムアノマリー」と呼ばれました。
その後2014年に同じ研究所で始まったBEST(Baksan Experiment on Sterile Transitions)という実験でも、モデルの予想と結果が合致せず、現在でも異常を示し続けています。
具体的に、BESTでは2つの空間にガリウムを収容していますが、一方の空間では予想された量の79%しかゲルマニウムが含まれておらず、もう一方には77%しか含まれていませんでした。
●否定されてきた仮説
ガリウムアノマリーが知られて以来、研究者たちはこの異常を説明するために様々な検証を行ってきました。
具体例として、ゲルマニウムの半減期が検証されました。
1985年に11.43日と測定されたゲルマニウム71の半減期が、実際にはもっと長かったという可能性が浮上しました。
ゲルマニウム-71の半減期が長ければ長いほど、ニュートリノの捕獲率が低くなり、ゲルマニウムの生成率が低くなることが知られています。
よってゲルマニウム71の半減期が予想より長いことが、ガリウムアノマリーの説明になり得るのです。
そんな中で行われた最新の詳細な実験の結果、ゲルマニウム71の半減期は11.468日と測定され、1985年の測定値11.43日に極めて近いことが確認されました。
これにより、ゲルマニウム71の半減期がガリウムアノマリーの原因である可能性は除外されました。
また別の説明として、ニュートリノがガリウムと反応する確率を過大評価していたというものもありました。
実際の反応確率が予想より低ければ、ゲルマニウムの生成率も低くなるため、これもガリウムアノマリーの説明になる可能性がありましたが、2023年9月、この可能性も否定されました。
●ステライルニュートリノ仮説
現在までに否定されずに残っている仮説に、ガリウムアノマリーが、ステライルニュートリノと呼ばれる未知の素粒子の存在を示唆している可能性もあります。
ステライルニュートリノは当初、既知の3つのニュートリノの質量が非常に小さい理由を説明するために提案された、未発見で仮説上の特殊なニュートリノです。
ステライルニュートリノの特徴として、既知の3種類のニュートリノはいずれも電子より数百万倍軽く、弱い力を介して他の素粒子と相互作用するのに対し、ステライルニュートリノは重力によってのみ相互作用し、具体的な質量は不明であるものの、既知のニュートリノより重いと考えられています。
またニュートリノ振動により、既知のニュートリノからステライルニュートリノに変化する可能性があると考えられています。
一部の電子ニュートリノが、ガリウムと相互作用を起こしてゲルマニウムに変化させないステライルニュートリノに変化したと考えれば、ガリウムアノマリーを上手く説明できるのです。
またステライルニュートリノは、宇宙論においても非常に重要な役割を持ちます。
重力的な相互作用によって宇宙の大規模構造にも影響を与えるため、ダークマターの正体であるか、もしくはその一部を構成している可能性があります。
さらにビッグバン直後に原子がどのように形成されたのか、宇宙マイクロ波背景がどのように放射されたのかなど、非常に初期の宇宙の条件にも大きな影響を与えた可能性があります。
ステライルニュートリノを見つけようとする様々な試みは、現時点ではほとんど成功していませんが、仮に実在することがわかれば、物理学や天文学を大きく揺るがす大ニュースとなるはずです。
現在も、ガリウムアノマリーは未解決のままです。
私たちが見逃している重大な何かがそこに眠っている可能性があります。
この問題を解決しようと、現在も様々な角度から研究が続けられています。
何か関連の続報があればまた動画にてご紹介します。