スペイン総選挙でポデモス躍進:欧州政治に「フォースの覚醒」
2年前には存在すらしなかった政党ポデモスが、スペイン総選挙で69議席を獲得して第三党に浮上した。「あまりにも早くピークに達しすぎて息切れした」と言われていたポデモスだが、選挙前の巻き返しは見事だった。
ファイナンシャル・タイムズは、ポデモスの『REMONTADA』(カムバック)は党首パブロ・イグレシアスの個人的魅力に負うところがあると書いた。実際、彼は選挙戦でがぜん力を発揮するタイプの人だと思う。
「左派は庶民に語りかけていない。庶民に届く言葉を発さなければ左派は勝てない」
と言い続けてきたイグレシアスの演説内容を読むと、政治における言葉の重要さを痛感する。
英国でいえば、チャーチル、サッチャー、ブレアなど、歴史に残る政治家を語る時、まず人々が口にするのは彼らが残した言葉だ。
例えば、選挙前のテレビの党首討論中継では、シウダダノスの美男党首のまるで20年前のブレアを思わせるようなキラキラした瞳の前では、「パブロ・イグレシアスはなんとなく貧乏臭くて、こんな人に経済を任せたら国が崩壊するという感じ」(バルセロナ在住の義理の姪っ子評)だったという。
だが、イグレシアスは安定のパブロ節を聞かせたそうだ。
テレジェニックなシウダダノスの党首にぼうっとなっていた姪と大家のおばちゃんは、この時のイグレシアスの迫力で我に返ったそうだ。
ガーディアン紙のライター、オーウェン・ジョーンズがポデモスの選挙運動の応援にかけつけた時の映像を見ると、「ポデモスは若者に人気」と言われるわりには、集会に集まっているのは労働者風の中高年が多いということに驚く。会場整理にあたっているボランティアは若者ばかりだが、椅子に座って演説を聞いている人たちの年齢層は幅広い。
大学生や大学教員や若きアクティヴィストたちがポデモスの運動の核になっているのは事実だが、多くの地べたの人々がそれを支持しているのがわかる。これは英国の労働党首ジェレミー・コービンにも共通することで、メディアはやたらと「若い層に支持されて…」と言いたがるが、わたしの居住する街にも熱心にコービンを支持している中高年労働者は少なくない。
そもそも、欧州で躍進している左派ムーヴメントは、幅広い年齢層の庶民を取り込んでいるからこそ成功しているのだ。「若い層に」「若者が」というメディアの表現は、「一部の若者に支持されているだけのメインストリームにはなれない勢力」というイメージづけなのではないかと思う。
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イグレシアスと英国労働党首のジェレミー・コービンはよく比較される。これについて、イグレシアス本人はこう話している。
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今回のスペイン総選挙では、新興2党が二大政党制を終わらせたと話題になったが、 ポデモスに続いて第4党になったシウダダノスは、政治腐敗根絶や労働者の権利擁護という点ではポデモスと通じる理念もある。が、「移民にはヘルスケアを使わせない」「ブルカ使用禁止」みたいな主張も唱えていて、リベラルなイメージ&親市場&昨今のヨーロッパでウケる「本音は排外」の要素もしっかり取り入れているという、トレンドのツボを押さえた政党のように見える。
これに比べれば、ポデモスの「反緊縮」はもうトレンドとは言い難い。ギリシャのシリザが国民を裏切り、公約を反故にして緊縮政策を受け入れて以来、どちらかと言えば斜陽しているコンセプトだ。それはシリザの姉妹党を公言していたポデモスの失速にも繋がった。
しかし、欧州政治の焦点や人々の関心事が格差や貧困、緊縮といった社会経済的な問題から、難民問題やテロの脅威、EU存続の危機などの社会文化的な問題に移行していると言われる中でのポデモスの大健闘は、緊縮のあおりを食っている人々がいきなり金の心配を忘れて排外デモに加わるわけではないということを示している。
寧ろ左派は、経済をこそ訴えていかねばならない。というのは、コービンもスティグリッツやピケティなどをアドバイザーに迎えて優先課題にしてきたところだし、イグレシアスも市場の全体主義を批判し「経済にデモクラシーを」と主張して選挙戦を戦った。
今年、「左派も支持を勝ち取ることができる」ということを英国のコービンとスペインのポデモスが証明した。
ここから彼らが立ち向かわねばならないのは、どうやってそれを維持するかということだ。コービンは大政党をまとめるという問題で四苦八苦しているし、ポデモスには連立というトリッキーな課題が待ち受けている。
コービンが独裁的指導者になって労働党をまとめようとしたらコアな支持層は幻滅するだろうし、ポデモスが他党と連立してさらなる中道化の道を邁進すれば「結局はシリザと同じ」と庶民を怒らせるだろう。
欧州に新たな政治のフォース〈勢力)が覚醒したのは確かだ。
次の彼らのハードルは「運営」だ。