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米大統領選「王手」をかけたバイデン氏に裁判闘争で立ちはだかるトランプ大統領

木村正人在英国際ジャーナリスト
マスク着用でコロナ対策を前面に打ち出した米民主党バイデン候補(写真:ロイター/アフロ)

獲得した選挙人はバイデン氏253人、トランプ氏214人

[ロンドン発]3日投票が行われた米大統領選は野党・民主党候補ジョー・バイデン前副大統領が非白人・ヒスパニック・女性・若者の支持を集めて共和党ドナルド・トランプ大統領を破る見通しが強まってきました。アメリカ50州とワシントン特別区に振り分けられた選挙人538人の過半数270人が当選ラインです。

米紙ニューヨーク・タイムズの報道(日本時間5日正午現在)ではバイデン氏は勝敗のカギを握るフロリダ州(選挙人数29人)を落としたものの、ミシガン州(同16人)、ウィスコンシン州(同10人)を奪還し、獲得した選挙人数で253人とトランプ氏の214人をリードしています。

バイデン氏はあと17人の選挙人を獲得すれば当選確定です。これを受けて、バイデン氏は「開票が終わったら、私たちが勝利していると確信している」「これは私1人の勝利ではない。アメリカ国民の勝利になる」とツイートしました。

これに対してトランプ氏はバイデン氏の勝利を阻止するため「選挙に不正があった」として法廷闘争に打って出ました。投票日のあと3日間に届いた郵便投票を集計するペンシルベニア州に対して連邦最高裁で異議を唱え、ウィスコンシン州で再集計を求めるなどの方針を発表しました。

戦前の予想はバイデン氏の圧勝でした。大統領選の予想では定評がある米統計分析ニュースサイト「ファイブサーティーエイト(米選挙人団の選挙人538に由来)する」はバイデン氏が勝つ確率を89%、トランプ氏10%と予想。

英誌エコノミストの予想はバイデン氏が勝つ確率97%、トランプ氏は3%。獲得する選挙人数はバイデン氏356人、トランプ氏182人でした。無党派政治サイト「270toWin」は獲得選挙人数をバイデン氏341人、トランプ氏197人と予想しました。

フロリダ州はトランプ氏51.2%、バイデン氏47.8%

戦前のバイデン楽勝ムードに冷水を浴びせたのがフロリダ州の開票結果です。1964年から2016年にかけ過去14回の米大統領選では、フロリダ州を制した候補者が13回も大統領選を制しています。96%の開票でトランプ氏51.2%、バイデン氏47.8%でトランプ氏勝利が決まった時、4年前の悪夢が頭をよぎりました。

フロリダ州はアメリカの中でも極めつけの激戦州です。人口は過去60年間で激増。キューバ人、退職者、オーランドのテーマパークで働くサービス産業従事者の流入はアメリカの縮図とも言える経済的・政治的な多様性をもたらしています。現在、支持層はわずかに共和党寄りです。

米紙ワシントン・ポストの出口調査によると、4年前の大統領選ではフロリダ州のヒスパニック系の62%が民主党候補ヒラリー・クリントン元国務長官を支持し、トランプ氏への支持はわずか35%。しかし今回、バイデン氏への支持は予備的な出口調査の結果、47~52%にとどまりました。

一言でヒスパニック系と言ってもキューバ系のトランプ氏支持はバイデン氏支持より2桁多く、プエルトリコ系は圧倒的にバイデン氏に投票していました。トランプ氏勝利の要因は、フロリダ州の有権者の多くは高等教育の学位を持たない白人層で、トランプ氏はこの層の支持を前回に続き今回も取り付けたことです。

バイデン氏はラストベルトのミシガン州とウィスコンシン州を奪還

バイデン氏の優勢がはっきりしてきたのは、産業空洞化が進んだ中西部ラストベルト(さびついた旧工業地帯)のウィスコンシン州、ミシガン州を奪還してからです。ラストベルトの開票状況を見ておきましょう。○は民主党の地盤、◎は前回トランプ氏に奪われたものの今回取り返した民主党の地盤です。

○ニューヨーク州 バイデン氏58.3%、トランプ氏40.4%(開票84%)

○ペンシルベニア州 トランプ氏50.8%、バイデン氏47.9%(同88%)

オハイオ州 トランプ氏53.3%、バイデン氏45.2%(同90%)

インディアナ州 トランプ氏58.6%、バイデン氏39.2%(同88%)

◎ミシガン州 バイデン氏50.3%、トランプ氏48.1%(同98%)

○イリノイ州 バイデン氏55.2%、トランプ氏42.9%(同81%)

◎ウィスコンシン州 バイデン氏49.4%、トランプ氏48.8%(同98%)

ウィスコンシン州、ミシガン州では前回、仕事を失った元工場労働者らがグローバル化を推進した民主党への忠誠心を捨て「アメリカ第一主義」のトランプ氏支持に回りました。今回バイデン氏は人種間格差や新型コロナウイルス・パンデミックや医療制度に懸念を抱く有権者、アフリカ系の支持を集めました。

問題はペンシルベニア州(選挙人数20人)を奪還できるか否か。それがかなわない場合は共和党地盤のアリゾナ州(同11人)やジョージア州(同16人)を落とせるかどうかにかかっています。ニューヨーク・タイムズ紙の出口調査からトランプ支持層とバイデン支持層の違いを見ておきましょう。

米紙ニューヨーク・タイムズのデータをもとに作成
米紙ニューヨーク・タイムズのデータをもとに作成

新型コロナウイルス・パンデミックがなければ株価を上昇させたトランプ氏がおそらく再選していたでしょう。しかしコロナで状況は一変。今のところ、マスク着用でコロナ対策を前面に打ち出したバイデン氏の選挙戦略がトランプ氏の経済最優先より功を奏しているようです。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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