中央銀行の温暖化対応は『ミッション・インポッシブル』?=いったい何ができるのか
中央銀行のミッションと言えば、経済・物価の安定だ。これに金融システムの安定も加えてもいいだろう。ところが、最近になって新たなミッションが加わる可能性が出てきた。気候変動(温暖化)への対応だ。確かに温暖化による災害は経済を揺るがすリスクをはらむが、中央銀行が気候変動を制御するのは「ほぼ不可能で、まさにミッション・インポッシブル」(大手邦銀)という。いったい何ができるのかを考察してみたい。
日銀も気候変動リスクを議論するネットワークに参加
昨年11月末、黒田東彦総裁は「気候変動リスク等にかかる金融当局ネットワーク(NGFS)」に日銀も参加することを公表した。NGFSは、各国の金融監督当局や中央銀行で構成され、気候変動の影響を国際的に議論するネットワークだ。持続的な成長に向けて、気候変動リスクに金融面から対処することを目的とする。日本からはすでに金融庁が参加済みで、日銀も追随することにした。
ただ、監督当局や中央銀行が議論しても、「気候変動リスク」の抑制で新たな秘策があるわけではない。欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁は気候変動との戦いに積極的だが、実際にできるのは自然災害への伝統的な対処だ。つまり、地震・台風時に金融市場や金融システムの安定化のために中央銀行は必要な流動性を供給し、監督当局は法的な側面で金融機関を支援する。これまで各国が災害時にやってきた以上の革新的なことはできない。
理論上、中央銀行が温暖化を阻止できる手段と言えば…
理論上、中央銀行が温暖化を阻止できる手段が一つだけある。それは「利上げ、つまり金融引き締め」だ。温暖化が経済活動に伴って排出される二酸化炭素など温室効果ガスで引き起こされるなら、利上げで経済成長を抑制すればいい。だが、「温暖化を阻止するために経済を不況にするのは、あまりにも非現実的で、どの国にとっても取り得ない選択だろう」(シンクタンクのエコノミスト)と受け止められる。
では、万策尽きてまったく何もできないのか、というとそうではない。効果はほとんど期待できないが、中央銀行として、温暖化対策に貢献するかのような資金供給は可能だ。具体的には、環境対策の事業やプロジェクトの資金を確保するために発行された債券(『グリーンボンド』と称される)を購入することだ。この手の債券は機関投資家などが購入するが、中央銀行も買うことにより、資金供給面で環境対策に貢献する姿勢は打ち出せる。
「環境基盤強化オペ」という資金供給も考えられるのだが
また、「環境基盤強化オペ」という資金供給も考えられる。これは日銀の「成長基盤強化を支援するための資金供給」(成長基盤オペ)の応用編だ。日銀は、金融機関が経済成長に貢献するとみられる事業などに投融資する際、これをバックアップする低利融資を行っている。もとより、効果は不透明なのだが、「成長に貢献する姿勢はアピールできる」(日銀OB)わけで、これの環境版として「環境基盤強化オペ」が考えられるわけだ。
「グリーンボンド」購入や「環境基盤強化オペ」などを通じた資金供給は、それ自体が温暖化対策で画期的な効果を発揮するわけではない。既存の環境対策事業に流れるお金の一部が中央銀行に担われるだけのことだが、対外的には「中央銀行が環境対策に乗り出す姿勢をアピールできる」(同)とは言えるだろう。
物価の安定すら難儀するのに気候変動まで背負い込む中銀
冒頭で指摘したように、気候変動への対応は、中央銀行の手に余る大きな問題だ。そもそも「経済や物価の安定ですら難儀しているのに、気候変動まで背負い込むのは無謀」(大手運用機関のファンドマネージャー)との同情論すら聞かれる。欧州を中心に環境問題への関心が高まる中、「中央銀行も努力姿勢を見せる必要に迫られた」(同)と推測される。今後、中央銀行が温暖化対応で何かやっても、ミッション・インポッシブルとまではいかないまでも過剰期待は禁物であろう。暖かく見守るのが大人の対応かもしれない。(了)