時間が逆行する「反宇宙」とは?その実在を示唆する新説が登場!
どうも!宇宙ヤバイch中の人のキャベチです。
今回は「ミラーユニバースの実在と宇宙の加速膨張」というテーマで解説していきます。
ミラーユニバース(反宇宙)という宇宙が、私たちの住む宇宙と対を成すように存在するという説が囁かれることがあります。
さらにミラーユニバースが実在すると、私たちの住む宇宙の加速膨張を自然に説明でき、ダークエネルギーが不要になるという新説が2024年6月に発表されました。
ここでは新たに提唱された説を交えつつ、ミラーユニバースという仮説的な宇宙について解説していきます。
●ミラーユニバースについて
鏡の中の世界というのは、SFやファンタジーの中でパラレルワールドの1種として非常に親しまれているモチーフです。
例えば、数学者のルイス・キャロルが「不思議の国のアリス」の続編として書いた「鏡の国のアリス」などが有名です。
宇宙物理学でも、私たちの宇宙を鏡に映したようなもう一つの宇宙「ミラー・ユニバース」が存在するという主張があります。
○存在の根拠・メリット
これはまだ仮説の段階ですが、宇宙物理学者がミラー・ユニバースが存在すると考える根拠は、これが存在すれば、「CPT対称性」を保つことができるということです。
- 「素粒子の電荷(charge)を反対にする 」
- 「鏡に映したように位置関係(parity)を反転する」
- 「時間(time)の向きを逆転する」
CPT対称性とは、この3つの変換を同時に行っても物理法則は変化しないという原理です。
現代物理学では「CPT対称性」は全ての物理現象において保持される基本的性質とされています。
しかし、現在の標準的な宇宙モデルではこのCPT対称性に反する場合があることが分かりました。
このような場合でも対称性が維持されるためには、私たちの宇宙とは異なる別の宇宙、つまりミラーユニバースが存在する必要があります。
もしミラーユニバースが存在するとすれば、現代の宇宙論における最大級の謎である、反物質の謎が解決できます。
反物質とは物質を構成する粒子に対して電荷などといった一部の性質のみが反対である、反粒子でできた物質のことです。
例えばマイナスの電荷を持った電子の反粒子はプラスの電荷をもつ陽電子であり、そのような反粒子でできた物質を反物質と呼びます。
先述のCPT対称性によると、宇宙誕生時には同数の物質と反物質が生成されたはずです。
しかし、現在見つかっている反物質の量は物質に対して圧倒的に少ないことが分かっています。
そして、物質と反物質が衝突すると、その質量が100%光子などのエネルギーに変わる、「対消滅」と呼ばれる現象を起こします。
宇宙の初めに粒子と反粒子が同数つくられたとすると、いずれはすべての粒子が反粒子と対消滅して宇宙は光子だけになっていたはずです。
しかし、実際はそのようになっていませんし、この宇宙には未だ多くの物質が存在しています。
では反物質はどこにいったのでしょうか?
これはミラー・ユニバースを考えることで問題を解決することができます。
○どんな世界なのか?
ここまで、ミラー・ユニバースが存在すると主張される根拠を紹介してきましたが、仮にミラー・ユニバースが本当に存在するとしたら、それはどのようなものなのでしょうか?
イメージとしては、右に行くほど時間が進んでいることを示しているこの図において、「ビッグバンを頂点とした、私たちの宇宙とは逆向きに存在している宇宙」が、ミラー・ユニバースとされているものです。
つまりビックバンを境界として鏡に映したように私たちの宇宙と向かい合っている「もう1つの宇宙」です。
ミラー・ユニバースでは私たちの宇宙から見ると時間が逆方向に進んでいるように見えます。
しかしミラーユニバースの中では原因と結果の順序は正しいままであり、あくまで時間はビックバンから離れる方向に流れます。
したがって、ミラー・ユニバースでもビックバンという原因があり、その後に膨張する宇宙という結果があることになります。
CPT対称性の原理によると、時間反転しているミラー・ユニバースでは粒子の電荷が私たちの宇宙とは逆になっているはずです。
電荷だけが反対でその他の性質が同じ粒子は、動画の序盤で触れた反粒子にあたります。
すなわち、ミラー・ユニバースとは反物質の宇宙であり、 私たちの宇宙から失われた反物質は、このミラー・ユニバースに見出すことができます。
●新説について
インド工科大学の研究者は、ミラーユニバースが実在すると、私たちの住む宇宙の加速膨張を自然に説明でき、ダークエネルギーが不要になるという新説を、2024年6月に発表しました。
この宇宙は「加速膨張」しているという事実は、「Ia型超新星爆発」という現象を観測することで判明しました。
Ia型超新星爆発は、太陽のような中程度以下の質量を持つ恒星が寿命を迎えた後に進化する「白色矮星」という天体が起こす大爆発です。
1998年、Ia型超新星は宇宙膨張が一定と仮定した場合の明るさの予想よりも暗く、つまり遠い距離にあることが判明しました。
これは宇宙の膨張が一定ではなく、加速している証拠です。
当時、理論的には重力によって空間膨張は減速していると予想されていたため、この発見は驚くべきものでした。
実際、加速膨張の発見は2011年にノーベル物理学賞を受賞しています。
加速膨張の発見以来、ダークマターを含むあらゆる物質による重力を押し返すほどの力で宇宙を膨張させる「ダークエネルギー」の存在が広く信じられるようになりました。
現状ダークエネルギーは、一般相対性理論をもとに構築された標準的な宇宙モデルにも組み込まれている、広く信じられている一般的な概念であるものの、その正体は全くと言っていいほど不明のままです。
ミラーユニバースと加速膨張の関係を導いた新説は非常に難解な理論であり、僕自身詳細に理解できてない可能性があります。
本記事末尾に原著論文を記載しているので、より詳細で正確な情報が知りたい方はご参照ください。
予防線を張ったうえでざっくりと説明すると、宇宙とミラーユニバースはビッグバンで同時に誕生し、その瞬間から量子もつれの関係にあるそうです。
そんな関係にあるミラーユニバースは、私たちの宇宙にエネルギーをもたらすそうです。
このミラーユニバース由来のエネルギーこそが宇宙膨張を加速させているというのです。
つまりミラーユニバースが実在するだけで、ダークエネルギーを必要とせずに宇宙の加速膨張を説明可能ということになります。
●ミラーユニバースは検証可能?
では、ミラー・ユニバースの存在は検証可能なのでしょうか?
結論から言うとミラー・ユニバースはビックバンの向こう側に存在するため、直接観測するのは不可能だと考えられます。
現在観測可能な最も過去の事象はビックバンの約38万年後の宇宙マイクロ波背景放射で、これより前は光では原理的に観測できません。
しかし、ミラーユニバースが存在する間接的な証拠は、現在の宇宙で観測できる可能性が残されています。
実際、2020年5月にはNASAが南極で行った「ANITA」と呼ばれる実験で、地球から宇宙に向かって放出された高エネルギーニュートリノが検出されたとの報告がありました。
ニュートリノは素粒子の一種であり、他の粒子と相互作用を起こしにくいため、地球のあらゆる物質をすりぬけて宇宙へと戻っていくことが多いです。
ですが高エネルギーのニュートリノの場合、地球上の物質と衝突を起こす可能性が高まり、通常は宇宙から地球へやってくる方向に運動しているものしか検出できないと考えられていました。
そんな中、ANITAでは、なんと二度にわたって、地球から宇宙の方向に移動する高エネルギーニュートリノが検出されたとのことです。
つまりこの通常の向きと逆方向に運動する高エネルギーニュートリノの検出が、時間反転するニュートリノの存在を示しており、つまりはミラー・ユニバースの証拠であるという可能性があるのです。
しかし、この発見はまだ科学的な事実としては認められていません。南極大陸には他にも多くの検出装置が設置されていますが、他には同じような報告が無いため何らかのエラーの可能性もあります。
空想の産物だと思っていた「鏡の中の世界」が現実のものとして存在するかもしれないというのは不思議な感じですが、私たちの住む宇宙の外には、もしかしたら想像を超える世界が存在するかもしれません。