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脳転移したメラノーマの治療法 - 免疫チェックポイント阻害薬と放射線療法の組み合わせに期待

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:イメージマート)

【メラノーマ脳転移に対する免疫療法の可能性】

メラノーマは皮膚がんの一種で、他の臓器への転移が起こりやすいのが特徴です。特に脳への転移は頻度が高く、予後不良の原因となっています。しかし近年、免疫チェックポイント阻害薬(免疫療法の一種)の登場により、メラノーマ脳転移患者の生存期間が延長されつつあります。

免疫チェックポイント阻害薬は、がん細胞が免疫細胞(Tリンパ球)による攻撃を回避する仕組み(免疫チェックポイント)をブロックすることで、免疫システムを活性化し、がん細胞を攻撃します。代表的な薬剤としてはイピリムマブ(抗CTLA-4抗体)ニボルマブ(抗PD-1抗体)などがあります。

これまでの研究から、免疫チェックポイント阻害薬は全身の転移巣だけでなく、脳転移巣に対しても一定の効果があることが分かってきました。ただし、単剤での効果は限定的で、放射線療法との併用でより高い治療効果が期待できるようです。

【放射線療法との併用で高まる免疫療法の効果】

メラノーマ脳転移に対する治療法として、定位放射線照射(ピンポイントで高線量の放射線を照射する方法)が広く用いられています。この治療法は局所制御に優れていますが、全身の転移巣には効果が及びません。一方、免疫チェックポイント阻害薬は全身の転移巣に効果を発揮しますが、脳転移巣に対する効果は限定的です。

そこで近年注目されているのが、定位放射線照射と免疫チェックポイント阻害薬の併用療法です。放射線照射によってがん細胞が破壊されると、がん抗原が放出されて免疫応答が活性化されます。この効果を免疫チェックポイント阻害薬が増強することで、脳転移巣だけでなく全身の転移巣に対する治療効果が高まると考えられています。

実際、後ろ向き研究ではありますが、定位放射線照射と免疫チェックポイント阻害薬の併用療法を受けた患者群は、放射線照射単独群と比較して全生存期間が有意に延長していました。また、興味深いことに、併用療法による重篤な有害事象の増加は見られませんでした。

【メラノーマ脳転移治療の展望と課題】

メラノーマ脳転移に対する免疫療法は、生存期間の延長が期待できる有望な治療法ですが、いくつかの課題も残されています。まず、症状を有する大きな脳転移巣に対する効果は限定的であること。また、ステロイド薬の使用が免疫チェックポイント阻害薬の効果を減弱させる可能性があることです。

今後は、免疫療法と放射線療法の至適な併用法や、ステロイド薬に代わる脳浮腫の治療法の開発などが求められます。また、治療効果や有害事象のリスクを予測するためのバイオマーカーの探索も重要な課題と言えるでしょう。

メラノーマは、皮膚の色素細胞(メラノサイト)由来のがんで、日光への過剰な暴露が主な原因と考えられています。予防には、紫外線対策が欠かせません。日傘や帽子、UVカット効果の高い衣服の着用、日焼け止めクリームの使用などを心がけましょう。また、自分の皮膚の状態を定期的にチェックし、早期発見・早期治療につなげることが大切です。

メラノーマ脳転移に対する免疫療法は、患者さんに新たな治療の選択肢をもたらしつつあります。今後のさらなる研究の発展が期待されます。

参考文献:

1. Tawbi HA et al. N Engl J Med. 2018;379(8):722-730.

2. Long GV et al. Lancet Oncol. 2018;19(5):672-681.

3. Kaidar-Person O et al. Anticancer Drugs. 2017;28(6):669-675.

4. J Cancer. 2024 May 5;15(11):3495-3509. doi: 10.7150/jca.93306.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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