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アトピー性皮膚炎治療の最前線!教育・心理的アプローチで症状改善を実現

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
grokにて筆者作成

【アトピー性皮膚炎への新しいアプローチ】

アトピー性皮膚炎は、かゆみや乾燥、発赤などの症状を伴う慢性的な皮膚疾患です。日本では人口の約10~20%が罹患しているとされ、多くの人々の生活に影響を与えています。従来の治療法である保湿剤や外用ステロイド薬に加えて、近年注目を集めているのが教育的・心理的介入です。

最新のコクランレビューによると、個別および集団での教育的介入が、アトピー性皮膚炎の症状改善に効果があることがわかってきました。特に、集団での教育プログラムは、症状の重症度を軽減し、患者さんの自覚症状を改善する可能性が高いことが明らかになりました。

例えば、SCORADスコア(アトピー性皮膚炎の重症度を測定する指標)を用いた研究では、集団教育を受けた患者さんは、通常のケアのみを受けた患者さんと比べて、長期的に症状が改善する傾向が見られました。また、患者さんの自己報告による症状評価でも、同様の改善効果が確認されています。

これらの結果は、アトピー性皮膚炎の治療において、薬物療法だけでなく、患者さんへの適切な情報提供や教育が重要であることを示しています。日本の医療現場でも、このようなアプローチを積極的に取り入れていくべきでしょう。ただし、教育的介入の効果は個人差が大きいため、患者さん一人ひとりのニーズに合わせたプログラムの開発が求められます。

NapkinAIにて筆者作成
NapkinAIにて筆者作成

【テクノロジーを活用した新しい教育方法】

インターネットやスマートフォンの普及に伴い、テクノロジーを活用した教育的介入も注目されています。コクランレビューでは、オンラインプログラムやスマートフォンアプリを使用した介入も従来の対面式の教育と同程度の効果があることがわかりました。

特に、長期的な症状コントロールの改善や心理的ウェルビーングの向上に効果があるようです。例えば、「Eczema Care Online」と呼ばれるウェブベースの介入プログラムを使用した研究では、52週間後の追跡調査で症状の改善が見られました。このプログラムでは、保湿剤や外用ステロイド薬の適切な使用方法、刺激物や引き金となる要因の回避、掻破行動の最小化、感情のコントロールなどについて学ぶことができます。

日本でも、アトピー性皮膚炎の患者さん向けのスマートフォンアプリやウェブサイトが増えてきています。これらのツールを上手に活用することで、より効果的な自己管理が可能になるかもしれません。ただし、オンラインツールの使用には、情報セキュリティやプライバシーの問題にも注意を払う必要があります。

【心理的アプローチの可能性】

アトピー性皮膚炎の症状改善には、心理的なアプローチも効果があることがわかってきました。コクランレビューでは、特に習慣反転療法と呼ばれる方法が注目されています。

習慣反転療法は、無意識に行っている掻破行動を意識的に別の行動に置き換える方法です。研究結果によると、この方法を用いることで、症状の重症度が軽減する可能性があります。具体的には、かゆみを感じたときに、掻く代わりに手を握りしめたり、かゆい部位を軽く押さえたりするなどの代替行動を行います。

また、リラクゼーション技法や統合的な心身アプローチなども、症状の改善や生活の質の向上に役立つ可能性があります。例えば、プログレッシブ筋弛緩法(体の各部位の筋肉を順番に緊張させてから弛緩させる方法)や、ボディマインドスピリットアプローチ(身体、心理、精神的側面を統合的にケアする方法)などが研究されています。

これらの心理的アプローチは、特にストレス管理や不安の軽減に効果があるとされていますが、症状の直接的な改善効果については、さらなる研究が必要とされています。

NapkinAIにて筆者作成
NapkinAIにて筆者作成

【教育的・心理的介入の実践と課題】

教育的・心理的介入の実践には、いくつかの課題があります。まず、介入の内容や頻度、期間については、まだ明確な基準が確立されていません。コクランレビューで分析された研究では、介入の期間は1回のセッションから12ヶ月間のプログラムまで多岐にわたっていました。

また、これらの介入を行う医療従事者の訓練も重要な課題です。特に、心理的アプローチを実践するためには、専門的なトレーニングが必要となる場合があります。日本の医療現場では、皮膚科医や看護師が心理的アプローチの基礎を学ぶ機会を増やしていく必要があるでしょう。

さらに、教育的・心理的介入の費用対効果についても検討が必要です。コクランレビューでは、これらの介入が医療費の削減につながる可能性が示唆されていますが、日本の医療制度における具体的な分析はまだ十分に行われていません。

【今後の展望】

教育的・心理的介入は、アトピー性皮膚炎の新しい治療アプローチとして期待されています。しかし、これらの方法が従来の治療に取って代わるものではなく、あくまでも補完的な役割を果たすものであることを忘れてはいけません。

今後は、日本人患者を対象とした大規模な臨床試験の実施や、長期的な効果の検証が求められます。また、個々の患者さんのニーズに合わせたテーラーメイドの介入プログラムの開発も重要な課題となるでしょう。

アトピー性皮膚炎は、症状だけでなく心理的な負担も大きい疾患です。そのため、身体的な治療と併せて、心理的なケアも重要になってきます。日本の皮膚科診療においても、これらの教育的・心理的アプローチを積極的に取り入れることで、より包括的な治療が可能になると期待されています。

最適な治療法は、個々の患者さんの状況によって異なります。そのため、皮膚科専門医との相談のもと、自分に合った治療法を選択することが大切です。教育的・心理的介入を含む総合的なアプローチが、アトピー性皮膚炎に悩む多くの方々の助けになることを願っています。

アトピー性皮膚炎でお悩みの方は、まずは皮膚科専門医に相談することをおすすめします。適切な診断と治療計画のもと、これらの新しいアプローチを取り入れることで、より良い症状管理が可能になるかもしれません。また、患者さん自身も積極的に学び、自己管理能力を高めていくことが、長期的な症状コントロールにつながります。

参考文献:

Singleton H, et al. Educational and psychological interventions for managing atopic dermatitis (eczema). Cochrane Database of Systematic Reviews 2024, Issue 8. Art. No.: CD014932. DOI: 10.1002/14651858.CD014932.pub2.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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