電話料金の家計負担を多数の視点で確認すると
諸般用語解説
生活必需品と化した携帯電話だが、その使用料金への注目が高まっている。実問題としてはどれほどの負担を家計に与えているのか。総務省の家計調査などの値を元に数量化していく。
まずは各種用語解説。主なものを確認していく。大よそ家計調査の定義。
・世帯消費支出…税金や社会保険料を除外した、「世帯維持に必要な支出」
・携帯電話…従来型携帯電話とスマートフォンの双方
・固定電話通信料…固定電話に係わる電話料金。IP電話やテレホンカードなども含む
・移動電話通信料…携帯電話に係わる電話料金。PHSなども含む。携帯電話のアプリケーション、特にゲームに係わる課金に関しては別途該当項目が無いことから、電話料金に内包されると判断して良い(ゲームへの支出は別の大区分内にあり、携帯関連とは別に仕切り分けされている)
・電話通信料…今件では固定電話通信料と携帯電話通信料の合算。
・総世帯…全部の世帯。単身世帯も高齢者世帯もすべて。
・総世帯のうち勤労者世帯…総世帯のうち、世帯主が勤労者の世帯。大よそ現役の就業者が居る世帯と見て良い。見方を変えれば、大体は非就業の年金生活者以外の世帯(厳密には世帯主が役員の場合も勤労者世帯には該当しない)
移動電話通信料のみでのはなく、電話通信料全体での計算を一部項目で行うのは、概して電話の利用に関して、固定電話から移動電話へのシフトが生じているため。固定電話を取りやめて移動電話のみとした場合、その世帯では「移動電話の支払いが増えた」ことに違いは無いが、同時に「固定電話の支払いが減った」ことになるため、家計における負担の考察の上では、不公平感が生じるためである。
漸増中の負担、だがこの数年は横ばい
それでは早速、まずは世帯消費支出に占める電話通信料の比率を算出する。
大よそ2011年ぐらいまでは漸増の動き。全体として平均で均した場合、各世帯における電話通信料の負担が大きくなっていることを意味する。もっともこの数年は値が横ばいに移行しているが、これは電話通信料があまり増加しなくなったのに加え、世帯消費支出が漸減していたものが持ち直しの動きを示したことによるもの。
また単なる総世帯と、総世帯のうち勤労者世帯との間には小さからぬ差が出ている。後者の方が負担比率は高い。これは総世帯には勤労者世帯以外に、「年金生活をしている高齢者が世帯主の世帯」も含まれているから。勤労者世帯では携帯電話の所有率が高く、そしてより料金が高くつくスマートフォンを利用している事例が多い。一方、「年金生活をしている高齢者が世帯主の世帯」では携帯電話の保有率は低く、そして保有していてもスマートフォンよりは(利用料金の安い)従来型携帯電話の利用率が高い。総世帯よりも勤労者世帯に限った方が、電話通信料が高くつくため、比率も大きなものとなる。
実際、固定・移動電話どちらにしても、原則として利用する以上は支払いが発生することに目をつけ、購入(=支払い)頻度を元に概算の世帯普及率を算出してその動向を確認すると、固定電話普及率の減退度合いや移動電話の普及率上昇の傾向は同じであるが、勤労者世帯の方が(高齢者が世帯主の世帯も含む)総世帯よりも高い移動電話普及率・低い固定電話普及率を示している。つまり、「高齢者は固定電話を維持し続け、携帯電話の利用は遅れている」「就業世代は積極的に移動電話を利用し、固定電話の撤去をしている」のが確認できる。
移動電話の普及率が高い勤労者世帯に限った方が、電話通信料の負担が大きくなるのも当然の話ではある。
また移動電話の世帯普及率を見ると、勤労者世帯では2008年以降ほぼ横ばいだが、総世帯ではそれ以降もじわりとながら増加している。このことから、総世帯のうち勤労者世帯「以外」の世帯、概して年金生活者世帯において、携帯電話の浸透が進んでいることが想起される。
勤労者世帯の「割合」は漸減中
電話通信料は今世紀初頭からの比較ならばともかく、ここ数年は世帯消費支出に占める比率はさほど変化していない。世帯ベースでの普及率は勤労者世帯ではあまり変化は無く、年金生活者世帯で増えている。これが、昨今における携帯電話料金の負担増に係わる声の増加に対するヒントとなる。
次に示すのは家計調査のデータを元にした、総世帯数に占める勤労者世帯数比率の増加。見方を変えれば、この世帯比率以外の世帯は、大よそ年金生活世帯と見て良い(実際には上記の通り、役員世帯なども含まれる)。
高齢化に伴い、勤労者世帯の比率は減少し、高齢者・年金生活者世帯(≒低年収)は増加中。さらにその世帯における移動電話の普及率は漸増している。携帯電話に関して、その料金の高さに頭を抱える人が増えるのも当然の話ではある。
年収区分毎に見ていくと
移動電話通信料、つまり携帯電話料金の負担が重い理由の一つには、「携帯電話を利用する際に必要となる出費は、どのような使い方をしても、年収がどれほどの人でも、最低利用料金がそこそこの額になる」との点がある。いわばエンゲル係数のような発想に基づくもの。そしてもちろん使い方次第では青天井に違いは無いが、相応の使い方をしていれば、一定幅の額に収まる。
そこで世帯年収区分別に、平均の年間移動電話通信料と、その額が世帯消費支出に占める比率を算出したのが次のグラフ。
低年収ほど通信料も低く、負担割合も低め。そして年収が上昇するに連れて通信料も増えていく。年収が一定以上になると、年収の増加率が通信料の増加率を上回るため、負担比率は逆に減る。
ただし今件は携帯電話を所有していない層も含めた、全世帯に占める平均値であることに注意しなければならない。低所得世帯、特に高齢者の居る世帯は移動電話を持っていない、所有していても運用コストが廉価で済む従来型携帯電話のみの所有となるため、移動電話通信料そのものも低いものとなる。後述する勤労者世帯との差を見る限りでは、高齢者の居る世帯の携帯電話、とりわけ料金が高めとなるスマートフォンの所有率は相当低いものと見て良い。実際、他の調査結果でもそれを裏付ける値は出ている。
例えば5年間隔で実施される全国消費実態調査の最新版の結果は次の通り。若年層世帯ほどスマートフォンの、高齢層世帯ほど従来型携帯電話の普及率が高くなる。
これが総世帯のうち勤労者世帯となると、多くは現役世代の世帯となるため、相応に移動電話の所有率も高く、平均値としての移動電話通信料も底上げされる。年収の平均も総世帯と比べると上がっているが、移動電話の通信料の上昇分はそれ以上のものとなり、低所得世帯ほど負担が重い結果が出てしまう。
世帯消費支出に占める移動電話通信料の負担に関しては、勤労者世帯では最大で大よそ1%ポイントほどの差が、年収によって生じる事になる。2014年の年収区分の勤労者世帯の最下区分「350万円以下」における平均消費支出は195万9506円。その世帯で8万1545円の出費は結構な額に違いは無い。
「携帯電話料金の負担が大きい」とは要するに……!?
携帯電話、特にスマートフォンの普及は、インターネットをインフラとして活用する観点では大いに喜ぶべき状況。しかしエンゲル係数の食費同様、年収などの経済上の安定感の度合いに関わらず、一定額の支出が発生してしまうため、低所得層では負担が大きくなる。
また、年収が年金のみで、貯蓄の切り崩しを合わせて生活している高齢者世帯の多分でも、年収との比較となるため、比率は大きめのものとなり、大きな負担を感じてしまう。現在、高齢者の居る世帯も多分に含む総世帯において、特に低年収の世帯で負担比率が低いのは、ひとえに保有者そのものが少ない、世帯比率が低いからに他ならない。
シンプルにまとめると、昨今の移動電話通信料の負担増「と感じる」原因は「低所得者層にも携帯電話、特に高コストのスマートフォンの普及が進んでいる」「高齢層世帯(≒低収入)への普及が進んでいる」ことが挙げられる。さらに後者に該当する高齢層世帯そのものが比率の上で増加しているため、割高を訴える声が大きくなっていることも挙げられる。そして、消費動向調査の結果(「スマートフォンとタブレット型端末の普及率推移をグラフ化してみる」)からも明らかな通り、世帯内の利用台数の増加も負担増につながっているものと考えられる。
今後携帯電話、特にスマートフォンの普及率がますます向上するに連れ、これまで所有していなかった世帯の多分における、経済的な高負担の問題が、さらに増加することは容易に想像できる。比較的廉価な利用コストで済む、いわゆる「ガラホ」の普及促進や、(携帯電話などによるインターネット普及の後押しを必須とするのなら)低所得者向けの補助制度の立案も、検討すべきかもしれない。
■関連記事: