いま物価上昇を加味した実質賃金をみることに違和感はないか
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厚生労働省が7月7日に発表した5月の毎月勤労統計調査(速報、従業員5人以上の事業所)によると、1人あたりの賃金は物価変動を考慮した実質で前年同月比1.2%減った。マイナスは14か月連続となる(7日付日本経済新聞)。
この記事に違和感がある。賃金が実質で前年同月比1.2%減少という数値だけ見て、賃金は伸びていないと結論づけてはいまいか。
基本給にあたる所定内給与は25万2132円で前年同月比1.8%増えており、1995年2月以来の増加幅となっているのである。本来であればこちらの数字を強調すべきである。
バブル崩壊前であれば、物価上昇に応じて賃金も増加するというのは当然のようにあった。だから実質賃金で見る必要性もあったかと思う。ところがバブル崩壊後は物価も賃金も低迷したことで、実質賃金も低迷することとなる。
しかし、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大により世界経済が大きく低迷したあと、脱コロナによって経済が正常化に向けて動いたタイミングで、ロシアによるウクライナ侵攻があり、これによって世界の物価を取り巻く環境が一変した。
これは欧米だけの話ではなく、2022年4月には日本の消費者物価指数(除く生鮮)も日銀の物価目標の2%を超えてきたのである。
失われた30年間にみられなかった現象が起きている。日銀はこれをコストプッシュによるもので一時的としていたが、実際には日本人の物価感も大きく変化してきたのである。
その結果、価格転嫁の動きが強まり、本来の意味での日本での物価の上昇が起きてきた。企業も価格転嫁とともに賃金の引き上げも視野に入れ、その動きが物価の急騰とはややタイムラグを伴いながら出てきたのである。
30年もの間、物価が低迷していたが、その物価が突然に動き出したことをどう捉えるべきか。これは一時的と捉えるべきか、それとも物価の本質に変化があるのか。その動きは実質賃金より名目賃金の動きで捉えるべきではないのか。
さらに日本経済新聞がまとめた2023年夏のボーナス調査最終集計(6月30日時点)によると、全産業の平均支給額が前年比2.60%増の89万4285円だった。2年連続で過去最高を更新したという。
賃上げの動きは大企業だけとの指摘もあるが、賃金上昇はむしろ拡がりをみせつつあるように思える。物価が急ピッチで上昇してしまったことで、実質賃金の比較では賃金の上昇の動向がはっきりみえなくなってしまう。いまみるべきは実質ではなく名目なのではなかろうか。