半世紀余りに渡る賃貸住宅の家賃の動向を探る
公営を大きく上回る民間賃貸の家賃
戸建・分譲住宅建設のムーブメントは続いているが、住まいの需要として賃貸住宅は未だ民間・公営共に大きな需要を持ち、その需要に応えるべく供給が行われている。賃貸住宅を借りる際に気になる最大の要素は「家賃」。
その相場は昔と今でどのような変化を示しているのだろうか。家賃相場に目を留めるのは新たな住宅を借りる際の、「その当時の」価格であり、過去と現在を比較する機会はほとんどない。「昔と比べて今はどうだろうか」と指摘され、初めて時系列上の変化に記憶をめぐらす人も多いはずだ。
次のグラフは総務省統計局が公開している「小売物価統計調査 調査結果」を元に、東京都区部における1坪あたり・1か月分の家賃の平均動向を追いかけたもの。
最古のデータ、1959年当時は民間で337円・公営で332円とほぼ同水準。その後民間の賃貸住宅は1967年に急上昇、その後も急勾配で上昇を続け、1990年後半にようやく上昇機運が止まる。この時期の上昇理由は多様なものがあるが、大きなものとしてはベトナム戦争特需に伴う住宅ブームの到来で、賃貸相場も連動して上昇したことが考えられる。一方公営住宅は1975年前後に上昇カーブがややキツめになったが、民間と比べれば安値のままで推移し、やはり1995年以降は横ばい、一時期は減少傾向まで示す。
昨今は民間はやや値を下げ、他方で公営は漸次上昇中。しかし両者間の差異は大きなことに違いは無い。
消費者物価指数を考慮する
上記値はあくまでも額面での比較。各時期の物価は反映されていない。そこで各年の家賃に消費者物価指数を勘案し、直近の2016年の相場に換算した上でグラフを再構築する。例えばこの換算では1959年の民間賃貸住宅の家賃は1917円(実測値は337円)、これは「1959年の物価が2016年と同水準の場合、民間賃貸住宅の平均家賃は1917円(1坪当たり)」になることを意味する。なお「公営住宅・都市再生機構住宅の家賃の平均」は2014年分で調査・データ公開を終了している。
民間賃貸住宅では住宅ブームの1960年代、特に60年代後半において、大規模な家賃の「実質」値上げが起きている。その後は1980年前半までほぼ横ばいを見せたものの、バブル時代の到来と共に一段階上昇し、あとは穏やかな値上げが漸次行われている。
一方で公営住宅ではこの50年で実質2倍足らずの値上げに留まっている。その値上げ時期も1970年後半から1990年後半までのに限定されている。公営賃貸住宅の居住年数が長めになりやすいことも一因だが、良心的な相場には違いない。もっとも今世紀においては、少しずつではあるものの上昇を示しているのが気になるところ。
ちなみに公営・民間の家賃相場の比率推移を見ると、1959年時点ではほぼ1対1だったものの、住宅ブームに合わせて公民間で差異が開いていく。これはこの時期に多数建設された公団住宅(団地)が、主に所得が低めな人向けに作られたものであることが一因。
その後バブル時代にまでは4割台にまで差が縮まるものの、あとはほぼ一定水準にある。直近分までデータを取得可能な都道府県住宅に限れば、今世紀に入ってからはほぼ民間の1/5程度に収まっている。
昨今では新造ラッシュで供給過多の感もあり、民間の賃貸家賃動向はほぼ横ばい、むしろやや値下がりの動きすら見られる。他方公営賃貸では環境の整備が進み、質がさらに押し上げられたこともあり、横ばい、さらには一部で上昇の動きを示している。これらの流れが今後継続し、公民間の差が縮まっていくのか否か、見据えていきたい所だ。
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