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物価上昇の懸念は強く…2022年11月景気ウォッチャー調査

不破雷蔵グラフ化・さぐる ジャーナブロガー 検証・解説者/FP  
物価上昇が景況感に与える影響は大きい(写真:アフロ)

現状は下落、先行きも下落

内閣府は2022年12月8日付で2022年11月時点における景気動向の調査「景気ウォッチャー調査」(※)の結果を発表した。その内容によれば現状判断DI(※)は前回月比で下落、先行き判断DIも下落した。結果報告書によると基調判断は「景気は、持ち直しの動きがみられる。先行きについては、持ち直しへの期待がある一方、価格上昇の影響などに対する懸念がみられる」と示された。

2022年11月分の調査結果をまとめると次の通り。

・現状判断DIは前回月比マイナス1.8ポイントの48.1。

 →原数値では「変わらない」「やや悪くなっている」「悪くなっている」が増加、「よくなっている」「ややよくなっている」が減少。原数値DIは49.7。

 →詳細項目は「小売関連」「飲食関連」「サービス関連」が下落。「飲食関連」のマイナス13.1ポイントが最大の下げ幅。基準値の50.0を超えている詳細項目は「サービス関連」のみ。

・先行き判断DIは前回月比でマイナス1.3ポイントの45.1。

 →原数値では「変わらない」「やや悪くなる」が増加、「よくなる」「ややよくなる」「悪くなる」が減少。原数値DIは46.4。

 →詳細項目は「製造業」「非製造業」が上昇。「雇用関連」のプラス2.9ポイントが最大の上げ幅。基準値の50.0を超えている詳細項目は無し。

現状判断DI・先行き判断DIの推移は次の通り。

↑ 景気の現状判断DI(全体)
↑ 景気の現状判断DI(全体)

↑ 景気の先行き判断DI(全体)
↑ 景気の先行き判断DI(全体)

現状判断DIは昨今では海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化を受け、基準値の50.0以下を示して低迷中だった。2020年10月では新型コロナウイルスの流行による落ち込みから持ち直しを続け、ついに基準値を超える値を示したものの、再流行の影響を受けて11月では再び失速し基準値割れし、以降2021年1月までは下落を継続していた。直近月となる2022年11月では景況感は物価上昇が本格的なものとなり、圧迫感を実感させていることから、前月比で落ち込むこととなった。

先行き判断DIは海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化から、昨今では急速に下落していたが、2019年10月以降は消費税率引き上げ後の景況感の悪化からの立ち直りが早期に生じるとの思惑を持つ人の多さにより、前回月比でプラスを示していた。もっとも12月は前回月比でわずかながらもマイナスとなり、早くも失速。2020年2月以降は新型コロナウイルスの影響拡大懸念で大きく下落し、4月を底に5月では大きく持ち直したものの、6月では新型コロナウイルスの感染再拡大の懸念から再び下落、7月以降は持ち直しを見せて10月では基準値までもう少しのところまで戻していた。ところが現状判断DI同様に11月は大きく下落。

直近の2022年11月では現状判断同様に物価上昇、具体的には原油をはじめとする資源価格の高騰、半導体などの原材料や部品の供給不足、そしてロシアによるウクライナへの侵略戦争に対する不安があり、景況感は後退の動きを示している。

DIの動きの中身

次に、現状・先行きそれぞれのDIについて、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。

↑ 景気の現状判断DI(~2022年11月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)
↑ 景気の現状判断DI(~2022年11月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)

昨今では新型コロナウイルスの再流行が数字の上で明確化されるに従い景況感は大幅に悪化。その後、新型コロナウイルスのオミクロン変異株の影響による新規感染者数がワクチン接種の進展などで減少を示していることで、景況感の回復の動きが見られた。しかし7月に入るとロシアによるウクライナへの侵略戦争の影響でコスト上昇が現実のものとなり、さらに新型コロナウイルスのBA.4およびBA.5変異株の影響による新規感染者数の急増が景況感の足を引っ張り、大きな下落。今回月の11月はその大幅下落から少しずつ持ち直しを見せた動きから転じた下落を示している。

なお今回月で基準値を超えている現状判断DIの詳細項目は「サービス関連」のみ。

続いて先行き判断DI。

↑ 景気の先行き判断DI(~2022年11月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)
↑ 景気の先行き判断DI(~2022年11月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)

今回月で基準値を超えている先行き判断DIの詳細項目は皆無。新型コロナウイルスのBA.4およびBA.5変異株の猛威に対する不安はピークを過ぎ、人の流れの活性化への期待はあるものの、物価上昇、具体的には半導体を中心とした部品や原材料の不足、原油をはじめとした資源価格の高騰、そしてロシアのウクライナへの侵略戦争への懸念が景況感の足を引っ張っており、下落してしまっている。

物価上昇への不安

報告書では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での統括的な内容、そして地域ごとに細分化した内容を公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に関する事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。

■現状

・多くの物が値上がりしているため、買い控えも一部みられるが、客単価上昇で売上が微増している(コンビニ)。

・インバウンドの利用が大幅に増え、朝食の利用も約8割が訪日旅行客というケースもある。訪日客は、中国以外の韓国や台湾、東南アジアのほか、欧州からも多い。平日でも満室で販売を止める日があるほか、朝食に時間調整が必要となる日も増えている。問題点としては、客室の清掃や料飲サービススタッフの人員確保が挙げられる(都市型ホテル)。

・県内の新型コロナウイルスの新規感染者数が急激に増え、来客数が減少している。また、インフレの進行により生活防衛意識が強まっており、必要最小限の買物に抑えている客が多くなっている(百貨店)。

・何と言っても次々とやってくる原材料の値上がりで、仕入値がどんどん上がっていることで、仕入れのたびに上がっている物さえある。仕方がないとはいえ、利益には響く(一般レストラン)。

■先行き

・インバウンドや全国旅行支援などによる景気回復は確実にくると予測できる。実際に地域クーポンの利用率も想像以上に多く、業績に大きく貢献している(スーパー)。

・全国旅行支援の1か月延長がほぼ確実となり、また、新型コロナウイルス感染症の第8波もピークを迎え、これから1か月くらいで収束していく予測のため、年末年始や1月の旅行需要は増えると推測する。2月、3月まで全国旅行支援が延長された場合は、更に上向きとなる(旅行代理店)。

・来年1~2月にも各種値上げが控えており、今月同様に厳しい状況が続くとみている(一般小売店[書籍])。

・客が新型コロナウイルス感染症にある程度慣れてきたような印象を受けるが、値上げの影響が徐々に出てきている。来店頻度が下がっている常連客もいるため、景気はやや悪くなる(一般レストラン)。

インバウンドに関するポジティブな声もあるが、その一方で商品価格の値上げなどの物価高や、商品の在庫そのものが不足している状況を受け、消費者の買い渋りの動きも見受けられる。

企業動向でも物価上昇・原材料不足・コスト上昇への影響が多々見受けられる。

■現状

・地元完成車メーカーの国内生産は、依然として生産能力の8割程度にとどまっているが、単価はアップしており、回復が続いている。このため、系列の地元部品メーカーの受注も増加傾向で、工場の稼働はおおむね定時操業に近づいている(金融業)。

・円安は輸出にプラスとなっていたが、徐々に海外の業者が日本の製品を買い控えるようになり、効果が薄れてきた。さらに、国内での物価上昇が激しくなり、円安による悪影響が強くなっている(電気機械器具製造業)。

■先行き

・産業機械やオートバイ関連では国内外共に旺盛な需要が続いており、受注は順調に推移するとみている。しかし、主原料価格の高止まりや半導体不足の影響が広がることで、受注した分を作り込めるかが鍵になると考える(一般機械器具製造業)。

・今後更なるエネルギー価格と人件費の高騰により製造原価が押し上げられ、利益が圧縮され、企業も財布のひもが固くなると予測している(精密機械器具製造業)。

単価アップで業績回復のところもあるが、物価高・原材料不足・コスト上昇が大きなマイナス要素となっている状況。

雇用関連では現状を再認識できる結果が出ている。

■現状

・行楽時期に入り、当地周辺は観光地なので、かなり来訪客があったものの、日帰り旅行の傾向が多い。求人については、販売や小売店の秋冬物に対応するスタッフ募集などの人員確保に活発さがみられる。製造に関しては、横並びで動きは変わらない。建築関係では増改築や解体による新築が目立っている(人材派遣会社)。

■先行き

・物価高、円安などの関係で採用の動きは思ったより活発化しておらず、もう少しこの状態が続いていくと予想される(民間職業紹介機関)。

業種別で求人の傾向に違いが見られるのは興味深い。また、建築業界における「増改築や解体による新築が目立っている」は注目に値する。他方、軟調な現状がさらに継続するとの声も見受けられる。

リーマンショックや東日本大震災の時以上に景況感の足を引っ張る形となった新型コロナウイルスだが、結局のところ警戒すべき流行の沈静化とならない限り、経済そのもの、そして景況感に大きな足かせとなり続けるのには違いない。恐らくは通常のインフルエンザと同等の扱われ方がされるレベルの環境に落ち着くのが収束点として判断されるのだろう。あるいは社会様式そのものを大きく変えたまま、通常化するのかもしれない。世界的な規模の疫病なだけに、ワクチンなどによる平常化への動きを願いたいものだが。

さらにロシアによるウクライナへの侵略戦争は日本が直接手を出して状況を改善できる類のものではない。物価上昇の大きな要因となっていることもあり、景況感に与える悪影響は大きなものとなる。景況感の悪化を押しとどめ、改善へと向かわせる間接的な対応を、関係各方面に望みたいものである。

上記は今記事のダイジェストニュース動画(筆者作成)。併せてご視聴いただければ幸いである。

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※景気ウォッチャー調査

※DI

内閣府が毎月発表している、毎月月末に調査が行われ、翌月に統計値や各種分析が発表される、日本全体および地域ごとの景気動向を的確・迅速に把握するための調査。北海道、東北、北関東、南関東、甲信越、東海、北陸、近畿、中国、四国、九州、沖縄の12地域を対象とし、経済活動の動向を敏感に反映する傾向が強い業種などから2050人を選定し、調査の対象としている。分析と解説には主にDI(diffusion index・景気動向指数。3か月前との比較を用いて指数的に計算される。50%が「悪化」「回復」の境目・基準値で、例えば全員が「(3か月前と比べて)回復している」と答えれば100%、全員が「悪化している」と答えれば0%となる。本文中に用いられている値は原則として、季節動向の修正が加えられた季節調整済みの値である)が用いられている。現場の声を反映しているため、市場心理・マインドが確認しやすい統計である。

(注)本文中のグラフや図表は特記事項の無い限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。

(注)本文中の写真は特記事項の無い限り、本文で記述されている資料を基に筆者が作成の上で撮影したもの、あるいは筆者が取材で撮影したものです。

(注)記事題名、本文、グラフ中などで使われている数字は、その場において最適と思われる表示となるよう、小数点以下任意の桁を四捨五入した上で表記している場合があります。そのため、表示上の数字の合計値が完全には一致しないことがあります。

(注)グラフの体裁を整える、数字の動きを見やすくするためにグラフの軸の端の値をゼロではないプラスの値にした場合、注意をうながすためにその値を丸などで囲む場合があります。

(注)グラフ中では体裁を整えるために項目などの表記(送り仮名など)を一部省略、変更している場合があります。また「~」を「-」と表現する場合があります。

(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。

(注)「(大)震災」は特記や詳細表記の無い限り、東日本大震災を意味します。

(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。

グラフ化・さぐる ジャーナブロガー 検証・解説者/FP  

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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