炭素国境調整措置に、日本はどう対処すべきか:カーボンプライシング論議の行方
この2月に、菅義偉内閣の下で、カーボンプライシング(炭素の価格付け)の議論が口火を切った。1つの議論の場は、中央環境審議会(環境相の諮問機関)に、2018年7月に設置された地球環境部会カーボンプライシングの活用に関する小委員会。もう1つは、2021年2月に経済産業省が設置した、世界全体でのカーボンニュートラル実現のための経済的手法等のあり方に関する研究会である。
わが国におけるカーボンプライシングの議論についての経緯は、拙稿「安倍政権で静かに進む『もう1つの増税計画』」や、「菅内閣でついに動き出す『炭素の価格付け』論議」に委ねたい。
今月の議論は、2020年10月26日に菅首相の所信表明演説で2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを宣言したことに端を発している。そして、12月25日に成長戦略会議で取りまとめられた「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」(PDFファイル)で、「成長戦略に資するカーボンプライシング」の検討に踏み込んだ。ここでのカーボンプライシングは、主に炭素税と排出量取引が対象となる。
もちろん、カーボンプライシングに消極的とされる経済界に配慮しての議論である。
しかし、わが国において、カーボンプライシングの議論に踏み込まざるを得ない国際情勢がある。その1つには、2020年7月に欧州連合(EU)首脳会議で、炭素国境調整措置(国際炭素税)の導入やEU域内排出量取引制度の拡充などで償還財源を賄う「復興基金」の設置に合意したことがある。
さらには、2021年1月にアメリカで、地球環境問題を重視する民主党のバイデン大統領が就任したことである。バイデン大統領は、大統領選挙の公約の中で炭素国境調整措置に相当するアイディアに言及していた。
炭素国境調整措置(国境炭素調整措置ともいう)とは何か。それは、輸入品に対してその製造に伴うCO2排出量に見合う炭素税を輸入時点で賦課したり、輸出時に炭素税を減免したりすることである。
炭素国境調整措置は、今のところ、EUが他より先んじて具体化に向けて検討を進めている。むやみに輸入品に対して炭素税を課すと、輸入時点で関税を課したも同然の行為となり、自由貿易を重んじるWTO(世界貿易機関)ルールに抵触する可能性もある。
しかし、EU域内ばかりで炭素税を重課すれば、EU加盟国の企業がEU域外の企業よりも不利となる。だから、炭素国境調整措置を何らかの形で導入する可能性がある。
EUで炭素国境調整措置が導入されて、日本企業の製品がその対象となることもありえる。なぜなら、日本では、炭素税はごくわずかしか課されていないからである。日本で炭素税といえる税は、地球温暖化対策のための税(略称:温対税)で、CO2・1トン当たり289円である。その水準は、欧州諸国よりも低い。
もちろん、炭素税以外の手段で、日本企業は地球温暖化防止の取組みをしているが、そのアピールが欧州諸国にどこまで通用するか、心許ないところがある。
そうなると、もしEUが、日本企業にも影響がある形で何らかの炭素国境調整措置を講じようとしたならば、そのときに日本はどう対処するか、腹案を持っている必要があろう。
では、日本はどう対処すべきか。それは、
この記事は有料です。
慶大教授・土居ゼミ「税・社会保障の今さら聞けない基礎知識」のバックナンバーをお申し込みください。
慶大教授・土居ゼミ「税・社会保障の今さら聞けない基礎知識」のバックナンバー 2021年2月
税込550円(記事2本)
※すでに購入済みの方はログインしてください。