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2012年衆議院選挙における各政党のマニフェストのなかのネット選挙

西田亮介社会学者/日本大学危機管理学部教授、東京工業大学特任教授

「ネット選挙」(正確には「ネット選挙運動」)を可能にする、公職選挙法の改正案について、与野党協議で合意に至らず、それぞれ別個に法案が提出される見通しとなった。

「【ネット選挙解禁】民主とみんな、法案を共同提出- MSN産経ニュース」

http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130301/stt13030114090003-n1.htm

有料バナー広告をどこまで認めるか、電子メールの解禁範囲をめぐった対立が残されており、自民党内部での合意がぐらついているという報道も行われているが、現在の政治環境のもとではよほどのことがない限り、与党案は通るはずである。ウェブサイトの利用については第3者含めて全面的に解禁するということで与野党の合意が得られたはずであるから、なんらかの範囲でネット選挙が解禁される可能性が高い。

しかし、今回なぜ与野党はネット選挙の解禁を求めるようになったのだろうか。その理念と目的はどこにあるのだろうか。これらについての議論がなされないままに、どの技術をどこまで解禁するかということが議論されているので、ゴールがよく見えない。政治家や政党のビジョンの不在が議論の混迷を呼んでいるといってもいいだろう。

実際、このエントリ末尾のように2012年の代表的な政党のマニフェストを並べてみると、そのことがよく分かる。みんなの党は例外的に「多様な民意を政治に反映させる」ということを掲げていたが、他の政党はなぜネット選挙を推進するのかということが不透明である。各政党においても、技術論に終止しており、十分にネット選挙の意味がきちんと論じられていない。

筆者の個人的な見解では、ネット選挙は暗黙に、従来の公職選挙法を始めとした選挙制度とは大きく異なった、漸進的改良主義とでも呼ぶべきインターネットの設計思想の導入を迫っている。ここに合意できるか否かが問われている。

ネット選挙は日本における情報と政治の関係を大きく変える、第一歩となる可能性を秘めている。議論の動向を注視したい。

・自民党

300 ネット選挙の解禁

Facebook、Twitter、ブログなどの普及に鑑み、有権者へ の候補者情報の提供、国民の政治への参加意識向上等を図るため、インターネット等を利用した選挙運動を解禁します。

(自民党,2012,『J-ファイル2012 自民党総合政策集』

http://jimin.ncss.nifty.com/pdf/j_file2012.pdf.)

・公明党

18歳選挙権を実現します。

インターネットを使った選挙運動の解禁を実現します。(公明党,2012,『衆院選重点政策manifesto2012』

http://www.komei.or.jp/policy/various_policies/pdf/manifesto2012.pdf.)

・日本維新の会

ネットを利用した選挙活動の解禁

(日本維新の会,2012,『維新八策(各論)VER1.01』

http://j-ishin.jp/pdf/ishinhassaku.pdf

・民主党

6.政治改革・国会改革を断行し、国民の信頼を取り戻す

○企業・団体献金を禁止する。

○国会議員関係政治団体の収支報告書をインターネットで一括掲載する。

○国会議員の関係政治団体の収支報告書の開示期間を3年間から5年間に延長する。

○インターネット選挙運動の解禁をすすめる。

(民主党,2012,『政権政策Manifesto』

http://www.dpj.or.jp/global/downloads/manifesto2012.txt.)

・みんなの党

7.多様な民意を政治に反映させるため、インターネット選挙を解禁

選挙期間中でもインターネット(フェイスブックやツイッター等)を使った選挙運動が、候補者本人や政党、第三者でもできるよう法律を改正。候補者本人の有料広告は、法定選挙費用内で可能とする。

個人認証の精緻化や秘密投票の確保がなされるようになった将来には、パソコンやスマートフォンを使ったインターネット投票を実現し、その技術を世界へと売り込む。

(みんなの党,2012,『アジェンダ』

http://www.your-party.jp/policy/manifest.html#manifest05.)

・共産党

また、戸別訪問の禁止をはじめ、選挙期間中のビラ、ポスターの配布規制、インターネットを使った選挙活動規制など「禁止・規制法」としての性格をもっている公職選挙法を根本的に改め、主権者である国民が気軽に多面的に選挙に参加できる制度に変えることを要求します。

世界の8割以上の国で実施されている18歳選挙権の実現をめざします。

(共産党,2012,『2012年総選挙政策 各分野政策 35、国会改革・選挙制度改革』

http://www.jcp.or.jp/web_policy/2012/11/2012-35.html.)

・社民党

インターネットは候補者の、候補者情報の充実、速報性、多様な情報の発信、有権者への直接の情報提供、時間的・場所的制約のなさ、有権者と候補者の双方向型の政治、金のかかわらない選挙の実現に資することから、インターネットを使った選挙運動を解禁します。また、各選挙委員会のウェブサイトに、政見放送と選挙公報を掲載します。インターネット選挙解禁に当たっては、視覚障がい者の方などへの対応に万全を期します。

(社民党,2012,『選挙公約』

http://www5.sdp.or.jp/policy/policy/election/2012/data/manifesto_all.pdf.)

社会学者/日本大学危機管理学部教授、東京工業大学特任教授

博士(政策・メディア)。専門は社会学。慶應義塾大学総合政策学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。同後期博士課程単位取得退学。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科助教(有期・研究奨励Ⅱ)、独立行政法人中小企業基盤整備機構経営支援情報センターリサーチャー、立命館大学大学院特別招聘准教授、東京工業大学准教授等を経て2024年日本大学に着任。『メディアと自民党』『情報武装する政治』『コロナ危機の社会学』『ネット選挙』『無業社会』(工藤啓氏と共著)など著書多数。省庁、地方自治体、業界団体等で広報関係の有識者会議等を構成。偽情報対策や放送政策も詳しい。10年以上各種コメンテーターを務める。

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