ノーベル平和賞は「アラブの春」を成就させたチュニジア大統領か
ノーベル平和賞の予想では定評があるノルウェーの公共放送局NRKは9日夜、2014年の平和賞受賞者として「アラブの春」を成就させた唯一の成功者であるチュニジアのモンセフ・マルズーキ大統領と労働組合を本命視する記事をウェブサイトに掲載した。
イスラム過激派の脅しにもひるまず、イスラムの女の子にも平等に教育を受ける権利をーと訴えているパキスタンのマララ・ユスフザイさん(17)も最有力候補だが、昨年の選考と同様、若すぎることがネックになっているという。
チュニジアの中部シディブジドで2010年12月、失業中の男性が抗議の焼身自殺を図ったことを引き金に反政府デモが一気に拡大した。終身大統領のベンアリが翌11年1月、サウジアラビアに出国し、23年続いた政権は崩壊した。
制憲議会選が行われ、マルズーキ氏が大統領に選ばれた。フランスに留学して医師になったマルズーキ氏はチュニジアに帰国後、人権運動を進め、何度も弾圧を受けた。世俗主義・リベラル勢力のまとめ役として「ジャスミン革命」に参加した。
昨年5月に来日、日本記者クラブで会見した際、マルズーキ大統領は「ジャスミン革命は国民が主役だった。ソーシャルメディアの力を借りた革命だった」と振り返った。
昨年には野党「民主愛国主義者運動」のベライード党首と野党「人民運動」のブラヒミ制憲国民議会議員が相次いで暗殺されたが、今年1月、マルズーキ大統領らは、独裁体制への逆戻りを許さない歴史的な新憲法の署名にこぎつけた。
野党指導者の暗殺で一時は麻痺状態に陥った政治状況を打開するため、仲介役となったチュニジア労働総連盟(UGTT)も共同受賞の対象になりそうだとNRKは予想している。
「アラブの春」を経験したリビアやエジプトは政情不安に陥り、シリアでは内戦が激化、イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」の台頭を招いた。民主化の道を歩み始めたチュニジアは唯一の「希望の光」として称賛されている。
今年4月、ナイジェリアで276人の女子生徒がイスラム過激派「ボコ・ハラム(西洋の教育は罪)」に拉致された事件では、マララさんはナイジェリアを訪れ、ジョナサン大統領に「あらゆる手を尽くして女子生徒を取り戻して」と訴えた。
選考の会合は7回に及び、なかなか意見の一致をみなかったようだ。平和賞は受賞者の人生を大きく変える。マララさんはまだ若く、受賞は今後の人生の制約になることを選考メンバーは配慮しているとみられる。
NRKが他の有力候補として挙げたのは、クリミア編入を強行したロシアのプーチン大統領を牽制する意味で、政権批判を続けてきたタブロイド紙ノーヴァヤ・ガゼータ。
米国家安全保障局(NSA)の市民監視を内部告発したエドワード・スノーデン氏、アフリカのコンゴ民主共和国でレイプ被害者治療に取り組む病院のDenis Mukwege 院長の名前もある。
ウクライナ危機をめぐる欧州とロシアの関係は微妙で、また、米国を無用に刺激するのを避けるため、ノーヴァヤ・ガゼータ紙とスノーデン氏の受賞はまずないだろう。戦争放棄をうたった日本国憲法9条を守ってきた日本国民というのは最初からあり得ない話だと思う。
チュニジアは10月26日に議会選、11月23日に大統領選を控えており、「アラブの春」をきっかけにする民主化の仕上げを平和賞授与で後押しするとみるのが妥当な読みではと筆者も考える
(おわり)