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丁寧さを欠く福島第一原発を伝えるということ

吉川彰浩一般社団法人AFW 代表理事
一般人も見に行ける福島第一原発 ただし理解に行きつくかは当人次第

世界を震撼させた福島第一原発事故から5年8ヶ月が経過しました。当時誰もが福島第一原発に関心を寄せ、大丈夫なのだろうかを超え、分からぬ恐怖感から「離れる・距離をとる」という選択をされたことと思います。

全国的に生まれた自主避難はそれを象徴するものですし、見ること知ることすら苦痛と情報からの距離も取られた人もいます。

今に至り、私達はその事故が起きた場所に対してどれほどの知識を持つことが出来たでしょうか。知ることが出来る環境は作られたでしょうか。歴史的事故であり現在進行形で事故収束から廃炉という言葉に変え、壊れた原発は存在し続けています。

社会は知ることが出来る環境を持ち得ているのか?

これから皆さんに4つの質問をします。とても簡単な質問です。ですが私達生活者にとって知れることが重要ではないかと筆者は考えています。

1.福島第一原発で発生する汚染水から海は守られていますか?

2.福島第一原発の解体に伴い発生する放射性物質の飛散は大気中にどこまで広がっていますか?

3.廃炉で発生する放射性廃棄物のゴミはどういったものか?どう処分されていくか知っていますか?

4.廃炉が何をすることか知っていますか?どうなったら終わりですか?

これらについて皆さんが知ろうとした時、知れる環境整備が成されていないからこそ、福島第一原発のブラックボックス化が改善されることはありません。

さぁ図書館で調べてみよう・・・ありません。東京電力のHPを調べてみよう・・・・相当知らべる技術をもっていれば可能です、気軽にヒットはしません。メディア情報をネットで検索してみよう・・・・生活者のために報道があるわけではなく、いくら調べても理解におよびません。

解決手段としての東京電力独断による視察開放は正しいのか

今、東京電力は伝わらないなら見てもらおうと「視察」の一般開放を行っています。こちら高校生が廃炉作業見学 復興の課題実感が報じられたことでも見て取れます。

筆者が代表を務める一般社団法人AFWでも一般の方と一緒に福島第一原発を視察しています。 

ここで筆者はある事実をもって、東京電力が丁寧さを欠いたまま、事故のあった原子力発電所を私物化しているとお伝えします。

AFWのHP上での一般の方への視察呼びかけを消してほしい

東京電力からのHP削除依頼は、前述した高校生にも見せる判断をした企業が、これまで2万3000人を超えて見せている企業が、原子力事故を防げなかった立場として、求めてよいものなのかと思います。

AFWでは壊れた原発と隣り合って暮らす私達が、事実を知れる環境整備のため、福島第一原発が誰でも知れるよう「福島第一原発の現状を知りたい・必要」とする方々へ呼びかけをしています。

それは事故があった場所だから行っていることです。そして原発事故後の社会において原子力発電所が公開されていくことは存在する以上必要なことであると考えています。

さて、筆者は何故かもお聞きしました。回答はとても単純でした「誰でも入れる分けではない、誰でも入れると思った人から多くの問い合わせが来て処理しきれず困っている」とのことでした。

「ではどういった人なら入れるのですか?」と聞くと「原則的には廃炉に必要な技術者、研究者、関連機関・企業・行政など、例外的に団体ということを条件に福島県の方を優先している、視察出来るかどうかは当社の判断で許可をする」とのこと。

現在3ヶ月以上待ちの状況も聞くと、「単純にキャパシティの問題ではないか」と思いますし、「事故当事者の権限で許可も却下も出来る」ということも分かります。

また、現在調整中ではありますが「いつも指定の場所だけでなく、視察なのですからこちらから指定した場所を見せていただけませんか?社会にお伝えするためです」についても、「防護マスクや防護服を着ることになり、被ばく線量も上がります。お受けすることは難しいです」とのことです。

筆者は14年に渡り原発で働いていましたし、放射線従事者としての教育も受けています、なんなら原発事故後の発電所(10km離れた福島第二原子力発電所ですが)の状態でも働いています。決められた手続きを行うかは東京電力の判断になりますし、その分煩雑な手順でご迷惑をおかけしますが、許されない現状に府には落ちない気持ちでいます。そこをお願いしますと言えば「一般人ですから」と回答を頂きます。

ニュース媒体であるYahoo!ニュース個人のオーサーを務め、生活者目線での廃炉現場と社会とを繋ぐ「一般社団法人AFW」を運営している筆者ではありますが、東京電力にとっては断れる存在のままです。

そうした事実をもって私物化していると筆者は感じてしまう分けです。

法令整備し、伝えるという点を強化していくことが必要

こちら福島第一原発ツアー化とおざなりになる被災地。観光地化していく前に環境整備が必要。でもお伝えしたように視察に行ったとしても現状が理解できるとは限りません。

筆者がアテンドしている視察では事前学習を必須としているのは、これまでの視察者が「海がどうやって守られているのか分かりましたか?」「放射性廃棄物の管理や処理について分かりましたか?」「大気への放射性物質の飛散がどうなっているか分かりましたか?」に、ただ視察しただけでは参加者のほとんどが「そう聞かれると分からない」と答えたからです。

その反面こういった意見は多く聞きます。「イメージと違って安全な状態になっていた」「思ったよりも綺麗だった」「大変な現場だと思う、現場の方には感謝したい」

約2万3000人が現地を視察したのにも関わらず、現状が社会に伝わらぬのはこうしたことが原因です。人に説明できるまでの理解に行きつかぬまま終わっているということです。

公開性は必要、ルールを作ろう

東京電力が主体の視察開放のやり方は多くの疑念を生みます。東京電力にとって改善を伝える広報として使えるという点です。良くなったが感覚的に理解できる一方、現場の課題や生活者へのリスクは伝わりきりません。

監督官庁である経済産業省は、今従来の発電所の一般開放のルールを福島第一原発に適用したままです。事故があった場所の公開を事故を防げなかった側の判断により公開ということが許されているのは、法の整備も追いついていないからです。

確かにテロ防止の観点から悪意ある人を入れるということは防いでいかなくてはいけませんが、だからといって公開に向けた法の整備を進めず、視察受け入れキャパシティの問題から、一般が入れないというのはいかがということです。

また、ただ見せてお終い、課題やリスクについては知ろうとするものに任せるといったやり方も褒められたものではありません。視察前に事前講義は一応行われていますが、視察に訪れた方が汚染水がどういった経路で海へ流れて出ていて、どういった対処がされているかも伝えることが出来ないまま、帰らすということに至っています。

見せるのであれば、分からない方の目線に立った事前学習やアフターフォローはあってしかりです。良くなっただけ伝わるようでは視察者をプロパガンダに利用していると疑念を持たれかねません。

「見世物じゃねえぞ!」

現在廃炉現場では約6000人の方が働いています。先だって視察をした際に投げかけられた言葉は身に沁みました。視察という名の東京電力に指定された現場のご苦労を知れない良いところばかりの見学の一コマ、すれ違った作業員の方の声です。

筆者は事故後も経験した現場上がりです。痛いほど分かります。暑さ寒さを耐えながら、放射線被ばくをし、安全な状態を作り上げていく日々は辛いものです。その横で、お客様扱いで場違いに存在する視察者に対して「俺たちの辛い場所は見させないくせに」と思うことは当たり前です。 

限られた条件下なら安全は担保でき、高校生でも見ることが出来る場所がある。今日も人知れずそれは現場の名の知らぬ人の汗によって保たれたに過ぎません。

彼らが今日にでもいなくなれば、進んだ改善はあっという間に崩れます。

「やる気がしない、何のために働いているか分からない」

こちらは現在働く人達の本音として多く聞く言葉です。確かに社会に責任をもって取り組んでいる人もいます。でもそれは対外的に言うセリフです。筆者は作業員の方や現地東電社員が暮らす地域に暮らしています。仕事上彼らともよくやり取りもします。筆者は元東電社員ですから、後輩、先輩が多く連絡をくれます。

会社はいいことしか伝えてくれない。課題があるから俺たちは汗をかいているのにと・・・・。それは広報というものの本質がもたらしているものです。営利企業にとっての広報とは、皆さんが働いている会社の広報担当だったらどうするかということです。

筆者はいつも言います。廃炉が上手くいかないと原子力事故で被災した地域や被災された方々の安心が生まれない。誰かの不安を一つでも減らし、幸せを作れるようになる土台の仕事をしているんだ、胸を張って欲しいと。

今、福島第一原発に関わる社会への伝え方は丁寧さを欠いています。その丁寧さは生活者目線と現場で汗をかく人達からの目線です。これが欠けたまま行けば、作り上げられるのは誤った福島第一原発のイメージと理解です。

「もはや原発事故直後とは違う」それは理解は出来ます、いたって簡単な事実から。数千人の及ぶ方々が現場で5年8ヶ月も汗をかいて働いてきたのですから。

伝わらぬことを焦り、丁寧さを欠き自滅するような伝え方を選ぶことなく、課題があるからこその現場であると、社会に伝える努力を丁寧に築き上げることが必要です。

一般社団法人AFW 代表理事

1980年生まれ。元東京電力社員、福島第一、第二原子力発電所に勤務。「次世代に託すことが出来るふるさとを創造する」をモットーに、一般社団法人AFWを設立。福島第一原発と隣合う暮らしの中で、福島第一原発の廃炉現場と地域(社会)とを繋ぐ取組を行っている。福島県内外の中学・高校・大学向けに廃炉現場理解講義や廃炉から社会課題を考える講義を展開。福島県双葉郡浪江町町民の視点を含め、原発事故被災地域のガイド・講話なども務める。双葉郡楢葉町で友人が運営する古民家を協働運営しながら、交流人口・関係人口拡大にも取り組む。福島県を楽しむイベント等も企画。春・夏は田んぼづくりに勤しんでいる。

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