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2020年の高校野球を回顧する(3) もし、交流試合がトーナメントだったら

楊順行スポーツライター
素戔嗚神社に奉納されていた絵馬。国士舘も交流試合に出場した(撮影/筆者)

 新型コロナウイルスの感染拡大により、センバツに続いて、地方大会を含む全国高校野球選手権も中止となった2020年。センバツが中止になったとき、日本高野連・八田英一会長は「球児たちには救済策を実施したい」と約束した。それが、第92回選抜高校野球大会の出場32校を甲子園に招待して1試合ずつを行う「2020年甲子園高校野球交流試合」として実現が決定したのは、6月10日のことだった。

 5月20日、選手権が中止に至った理由としては、大会が2週間以上の長期に及び、日本各地からの集団の宿泊は、感染リスクが高まることなどが挙げられていた。だが5月25日に非常事態宣言が解除され、イベント開催制限が段階的に緩和されたことなどにより、「安全に実施できる環境が整った」(八田会長)。むろん、新型コロナウイルス感染のリスクはゼロではない。それでも・関東以西のチームは公共交通機関を使わず、地元から貸し切りバスで移動する・新幹線や航空機利用の北海道、東北のチームは、関西到着後バスを用意する・宿泊は原則として最大2泊……など、感染拡大防止に配慮したガイドラインに沿って実施されることになる。 

甲子園は高校生を待っていた

 入場料などの大会収入がないため、運営費は日本高野連の積立金が充てられるが、開催の大きな後押しとなったのが阪神甲子園球場の受け入れ態勢だった。夏の選手権が予定されていた8月10〜25日が空いたままでも、阪神の試合を入れ込むことなく「しばらくこの状態で空けておくので、もしなにか高野連で使うのであれば、お待ちしています」。こうした配慮が、救済策を模索していた日本高野連の思いに合致したということだ。

 7月8日には、オンライン方式の組み合わせ抽選会で対戦カードが決定。試合順は、各地方で開催される独自大会の日程とのかねあいも含め、招待校の事情を考慮して柔軟に決めた。ベンチ入りメンバーは、通常の18人から20人に2人増。通常のセンバツなら出場できない1年生も出場可能ではあるが、「3年生に一人でも多く参加してほしい」というのが日本高野連・小倉好正事務局長の心情だ。公式戦扱いのため、1週間500球以内の投球数制限が適用されるが、ほかに通常の大会と違うのは、

・9回の時点で同点の場合は10回からタイブレーク

・原則として無観客で、観戦は控え部員や保護者、学校関係者のみ

 などだ。

 8月10日の開幕日。第1日第1試合に先立ち、大分商の川瀬堅斗主将と、花咲徳栄(埼玉)の井上朋也主将が史上初めて2校合同で選手宣誓を行い、その間、ほかの招待校の選手集合写真が大型ビジョンに映し出された。これを皮切りに、2019年夏の決勝で激突した履正社(大阪)と星稜(石川)が3季連続で当たったり、東海大相模(神奈川)と大阪桐蔭という東西の実力校が初めて甲子園で対戦するなどの話題があって、16試合は無事に終了。センバツに21世紀枠で出場するはずが、新年度から異動でチームを離れた磐城(福島)・木村保前監督は、特例で試合前のノックが認められ、万感の思いでバットを振った。

 16試合の対戦結果は以下のとおり。

花咲徳栄 3対1 大分商

明徳義塾 6対5 鳥取城北

広島新庄 4対2 天理

創成館 4対0 平田

明豊 4対2 県岐阜商

中京大中京 4対3 智弁学園

加藤学園 3対1 鹿児島城西

履正社 10対1 星稜

国士舘 4対3 磐城

倉敷商 6対1 仙台育英

明石商 3対2 桐生第一

帯広農 4対1 健大高崎

鶴岡東 5対3 日本航空石川

大阪桐蔭 4対2 東海大相模

尽誠学園 8対1 智弁和歌山

山梨学院 8対3 白樺学園

優勝候補は中京大中京? 大阪桐蔭?

 こうやってまとめていて考えた。交流試合だから1試合ぽっきりで終わったが、勝ち上がりチームが2回戦以降も戦うという架空のトーナメントを想像したらどうだろう。勝ち上がり順で2回戦を行うとしたら花咲徳栄×明徳義塾、広島新庄×創成館、明豊×中京大中京……などと、なかなかおもしろそうなカードになる。ベスト8で大阪桐蔭と智弁和歌山が当たったりして……。

 実は私、センバツが行われていたはずの3月下旬、あるサイトに「もし大会があれば、ベスト8はここ!」という原稿をアップした。当該地区の秋季地区大会順位によって、前回のトーナメント表に出場32校を機械的に割り振り、展開を予想したものだ。交流試合の試合順に基づく仮想トーナメントとは異なるが、個人的なベスト8の予想は明石商、履正社、花咲徳栄、天理、智弁和歌山、中京大中京、大阪桐蔭、健大高崎。どうです? ちょっと見てみたいでしょう。

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は63回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて54季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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