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新型コロナ封じ込めに無人島隔離も行うインドネシア 初感染者は日本人感染者と接触歴

米元文秋ジャーナリスト
無人島への隔離のため海軍病院船に収容されたクルーズ船員=インドネシア海軍提供

 インドネシア国内で初の新型コロナウイルス感染が確認された―。ジョコ・ウィドド大統領が3月2日、直々に発表した。「感染が確認された2人はインドネシアに滞在したことがある日本人感染者と接触していた」との情報が衝撃を広げた。シンガポールなどの周辺国で感染が続出する中、これまでは感染者の公式確認がなかったインドネシアは、帰国させたクルーズ船員を無人島へ一時隔離している。同じ島国だがウイルス封じ込めに失敗したように見える日本とは異なる手法で、「ウイルスとの戦い」を進めようとしている。

陽性はジャカルタ近郊の母娘

 インドネシア政府によると、新型コロナウイルスの陽性が確認されたのは、首都ジャカルタ近郊西ジャワ州デポック市に住むインドネシア人の母(64)と娘(31)だ。インドネシア訪問歴のある日本人女性(41)の感染を確認した、とのマレーシア保健省の情報に基づき、インドネシア政府の対策チームが訪問先などを調査していた。

 日本人女性はマレーシアで働いており、1月に日本、2月上旬にインドネシアへの渡航歴があった。17日から発熱し、クアラルンプール市内の病院に入院後の27日に感染が判明したという。

 調査によると、インドネシア人の娘は2月14日に、ジャカルタのクラブで開かれたダンスイベントに参加した。クラブには、この日本人女性も含む外国人もいた。16日から、せき、息苦しさ、発熱などの症状が現れ、26日にデポックの病院で投薬を受けた。母は20日に娘と接触、22日から同様の症状が出た。母娘はその後、ジャカルタの病院に入院している。

 3月2日、テラワン・アグス・プトラント保健相は「2人は隔離されているが、容体は良好だ」と記者団に語った。大統領は「政府は新型コロナウイルスに対処するため、100以上の病院を準備している。国際基準に適合した設備を持っている」と強調した。

ダイヤモンド・プリンセス船員ら250人超収容

 東西約5000キロの広大な海域に連なる1万4000以上の島々で構成されるインドネシア。首都ジャカルタ北方にはプラウスリブと呼ばれる小さな島々が散らばっている。その一つが、隔離の現場となっている無人島「スバル」だ。東西の幅数百メートルの緑に包まれたこの島に計250人超が収容された。

 インドネシア政府によると、まず、同ウイルス感染問題に絡み各地で寄港を拒否され、マラッカ海峡付近にたどり着いたクルーズ船「ワールドドリーム」のインドネシア人乗組員のうち188人が、2月28日に送り込まれた。

 続いて3月2日には、同ウイルスの集団感染が起きた横浜港の「ダイヤモンド・プリンセス」のインドネシア人乗組員69人も移送された。なお、同国人乗組員は全部で78人いるが、うち9人は感染を確認され、東京や千葉の医療施設で治療を受けるなどしている。

海軍病院船で移送

 ワールドドリームは台湾で乗客の下船を拒否され、2月上旬に香港で、乗客乗員約3600人を乗せたまま、検疫のために足止めされていた船だ。2月9日になって、日本人数人を含む乗客乗員全員に下船が許可された、と報じられた。

 その後、報道が途絶え気味になったが、同船は乗組員だけで航海を続けたもようだ。インドネシア保健省の2月21日の発表によると、乗客1人の感染情報があったことから、関係国に寄港を断られたという。マラッカ海峡周辺のリアウ諸島海域にあるビンタン島の沖に到着したが、インドネシアも寄港を拒んだ。

 とは言え、インドネシア海軍によると、同船乗組員1104人のうち220人はインドネシア人だ。基幹的な業務を担う32人を除いた188人(うち女性16人)の「退避作戦」が実施されることになった。

 作戦は、海軍の病院船「DR. スハルソ」(基準排水量1万1300トン)を投入する大がかりなものだった。ヘリコプターやホバークラフトの運用も可能とされるこの病院船は、ジャワ島東部のスラバヤから北西に向け、1000キロ以上を航海し、ワールドドリーム付近に到着。188人を収容した後、数百キロ南東に戻り、スバル島周辺で揚陸艇を発進させ、全員を島に上陸させた。

 国家防災庁(BNPB)によると、羽田からチャーター機で帰国したダイヤモンド・プリンセス乗組員69人(うち女性2人)を、西ジャワ州インドラマユの港からスバル島に運んだのも、この病院船だ。

政権のアピール

 大々的な無人島隔離作戦には、ジョコ・ウィドド政権として、感染阻止の構えをアピールする狙いもうかがえる。

 スバル島には、国軍司令官や国家警察長官が自ら視察に訪れた。ダイヤモンド・プリンセス乗組員の移送に関するニュースには、大統領や外相らがたびたび登場し、国民を守る姿勢をアピールしている。

 無人島には、感染予防以外にも利点がある。先に中国湖北省武漢市周辺から留学生らインドネシア国民238人を帰国させた際は、リアウ諸島州ナトゥナ諸島の島に収容して経過観察を行った。この際は、収容に反対する地元住民数が抗議デモを行うなどして緊張が高まったが、無人島では、こうした事態は回避しやすい。

島にはカラオケ設備も

 地元メディアが住民の話として伝えたところによると、島は以前、薬物使用者らのリハビリ場所として使われていたことがある。寮のような宿泊施設があり、乗組員らの経過観察場所として使われる。

 保健省などは、スバル島での隔離期間について、14日間を想定している。ダイヤモンド・プリンセスでは集団感染が発生しており、感染率が極めて高いため、ワールドドリームの乗組員とは区域を分離している。

 国家防災庁(BNPB)当局者は「経過観察施設にはエアコンやテレビ、カラオケ設備、洗濯機もある。家族と連絡が取れるよう、電話会社の基地局も設置している」と述べた。

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ジャーナリスト

インドネシアや日本を徘徊する記者。共同通信のベオグラード、ジャカルタ、シンガポールの各特派員として、旧ユーゴスラビアやアルバニア、インドネシア、シンガポール、マレーシアなどを担当。こだわってきたテーマは民族・宗教問題。コソボやアチェの独立紛争など、衝突の現場を歩いてきた。アジア取材に集中すべく独立。あと20数年でGDPが日本を抜き去るとも予想される近未来大国インドネシアを軸に、東南アジア島嶼部の国々をウォッチする。日本人の視野から外れがちな「もう一つのアジア」のざわめきを伝えたい。

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