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【落合博満の視点vol.61】新監督が一番に実行しなければならないこととは

横尾弘一野球ジャーナリスト
川上哲治、西本幸雄(写真)ら昭和の名将は新監督で優勝を果たしている。(写真:岡沢克郎/アフロ)

 プロ野球では埼玉西武で松井稼頭央、千葉ロッテで吉井理人、阪神で岡田彰布、広島で新井貴浩が来季から指揮を執ることになった。岡田を除く3名は、初めて監督業を担う。新監督が就任するタイミングはチームの再建や活性化が望まれているものだが、その要望に応え、監督として成功を収めるために不可欠なことは何か。2004年に中日で監督に就任し、8年間で日本シリーズ進出5回の黄金時代を築いた落合博満はこう語る。

「就任直後の秋季キャンプを見て、いいものは持っているけど練習量が足りない選手が多いと感じた。だから、戦力外通告はせず、全員に1年間の猶予を与え、一人ひとりが10%の実力アップをしてくれれば優勝させると言った。そして、翌春のキャンプから徹底的に鍛え、5年ぶりにリーグ優勝することができた。そこから2011年まで、Aクラスをキープすることができたわけだけど、すべては2004年に優勝できたからだと考えている。もし優勝できなかったら、どこよりもキツい練習をさせられた選手たちが『これだけやってもダメなんだ』と感じ、私のやり方を信じられなくなっただろう」

 落合が言うように、新監督の1年目に優勝したチームは常勝に進化していくケースが多い。1961年に巨人の監督に就任した川上哲治は、その年に優勝すると1965~73年に9連覇を達成。1986年から西武を率いた森祇晶は、9年間で8回優勝させている。時間をかけて阪急や近鉄を強化した西本幸雄も、1960年に大毎(現・千葉ロッテ)を1年目で優勝に導いた。現代でも、2002年の原 辰徳(巨人)、2015年の工藤公康(福岡ソフトバンク)、昨年の中嶋 聡(オリックス)と、1年目に優勝した監督は、その後も目立つ実績を残している。

 だからこそ、1年目の落合は大きな連敗だけは避けられる戦いを展開。エースだった川上憲伸で貯金が作れるよう、登板間隔や対戦相手、球場までも考慮するなど、派手さはなくてもコツコツと白星を積み上げられる試合運びを実践していたという。そして、リーグ優勝したことにより、選手たちが自信をつけたのと同時に、「これだけ練習をやれば負けるわけがない」というプライドを抱いていったのが大きかったのだ。黄金時代に果たした落合の手腕とは、一つひとつの局面における采配以上に、選手に強烈なプライドを植えつけたことなのだろう。

立浪監督の2年目には大いに注目できる

 では、1年目に勝てなかった監督はお先真っ暗なのかと言えば、そうとも限らない。

「監督の交代で、ある程度はチーム内の空気が変わる。だから、選手たちに『これなら勝てる』と思わせられればチャンスはある」

 落合のほかにも、そう語る監督経験者は多い。例えば、東京ヤクルトの高津臣吾監督は、就任した2020年こそ最下位に沈むも、翌2021年は弱点を解消してV字回復の優勝を果たす。その中で選手が力をつけていることは、今季の連覇で証明したと言っていい。同じように、1975年から76年の長嶋茂雄(巨人)は徹底した戦力補強、2000年から01年の梨田昌孝(大阪近鉄)は打線の強化で前年の最下位から一気にペナントを手にしている。

 こうしたデータを見ていくと、注目されるのは2023年の立浪和義(中日)監督だ。2013年から低迷が続くチームの“切り札”と期待されて就任し、厳しさを打ち出しながら岡林勇希を最多安打のタイトル獲得まで成長させた。ただ、接戦を落として最下位になり、指揮官としての評価は来季に持ち越したと言っていい。そんな中で、阿部寿樹や京田陽太を放出するなどオフには血の入れ替えを断行しており、ファンも来季へ大きな期待感を抱いているはずだ。

 このように、新たな指揮官が一番に成し遂げなければならないのは“チームを勝たせること”であり、その方法は数多あれど、勝てる監督の共通点は「選手を好き嫌いで使わないこと」に尽きるという。

野球ジャーナリスト

1965年、東京生まれ。立教大学卒業後、出版社勤務を経て、99年よりフリーランスに。社会人野球情報誌『グランドスラム』で日本代表や国際大会の取材を続けるほか、数多くの野球関連媒体での執筆活動および媒体の発行に携わる。“野球とともに生きる”がモットー。著書に、『落合戦記』『四番、ピッチャー、背番号1』『都市対抗野球に明日はあるか』『第1回選択希望選手』(すべてダイヤモンド社刊)など。

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