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【落合博満の視点vol.44】新庄剛志監督の北海道日本ハムに見る「キャンプの練習で一番大切なこと」

横尾弘一野球ジャーナリスト
落合博満監督の春季キャンプ。ベテラン以外は15:00以降に猛練習を課していた。

 プロ野球12球団のキャンプは第3クールに入り、実戦形式の練習の中でメンバーが絞り込まれている。一方では、さらなる成長を目的に体力強化や基本的な動作を反復する若手もいるが、最近は各々が課題の克服に励む時間をはじめ、選手が自主的に取り組む練習が増えたという印象だ。

 そうした傾向に、落合博満は常に警鐘を鳴らしている。

「プロの世界で、選手は個人事業主。何が起きても自己責任なのだから、はじめから自分で考えてやりなさいという方法は間違ってはいない。ただ、その世界を生きていくための基本的なやり方や知恵は授けてやらなければわからないのだから、ある程度までは指導者が責任を持って教える必要があるだろう。そこは、どうしても『やらせる』ことになるわけで、何でもかんでも『やらせる』のを否定はできないんだ」

 実際、落合が大成できたのも「若い頃に徹底的にやらされた練習のおかげ」だという。当時はオフシーズンも明確化されておらず、12~1月でもコーチに呼び出され、トレーニングや基本練習をやらされるのは珍しくなかったという。春季キャンプのメニューもしかりだ。

「コーチに呼び出されれば、『またかよ』とは思っていたよ。けれど、オフの正しい過ごし方だってわかっていないんだ。若い頃に自己管理しろと言われても、しっかりできる選手なんていない。指導者から『やらされる』のは悪いことばかりじゃないだろう」

 そんな落合だからこそ、2004年に中日で監督に就いた時は、山本昌や立浪和義(現・中日監督)、谷繁元信らキャンプの過ごし方から必要な練習をわかっているベテランのメニューはほぼ空欄にした(写真を参照)。また、守備のサインプレーや連係など全体で行なうもの以外はできるだけ選手の自主性に任せた。ただ、「上手くなって一年でも長く現役生活を送りたいヤツは来いよ」と選手の向上心をくすぐりながらも、守り勝つ野球の中心になるであろう井端弘和、荒木雅博、森野将彦にはノックの雨を降らせている。

指導者が必要だと感じた練習を“やらせる”メリット

 当時は、中日の近くでキャンプをしている横浜(現・横浜DeNA)や東京ヤクルトの練習をひと通り取材してから中日のグラウンドに足を運んでも、十分に練習を取材することができた。落合監督は、それだけ長時間の練習を“やらせて”いたのだが、結果的に8年連続でAクラス入りし、常に優勝を争う戦いを繰り広げたことで、次第に選手たちが「負けたくない」という思いで自主的に厳しい練習に取り組むようになった。

「負けるのが嫌だから、自分に必要なことを必死に考えて練習する。それが本当の意味の自主性でしょう。監督やコーチは、選手の意識をそこまで持っていってやらなければ」

 落合監督はその考え方や方法論を理解してもらうため、2004年のペナントレースだけは絶対に優勝しなければならないと思っていたという。

「もし、2004年に負けていれば、『あれだけ練習したのに結果が出なかった』と、もう私の言うことは聞かなくなったんじゃないか。ただ、私は優勝できるだけの練習をやらせたから、勝つことは確信していたんだけどね」

 やはり、春季キャンプでは、監督がペナントレースを制することができると確信できるまで、徹底して選手を鍛え上げなければならないのだ。その角度から見ていくと、北海道日本ハムのキャンプは若い選手がしっかり力をつけているという印象だ。

 BIG BOSSこと新庄剛志は、落合監督とはまったく異なるキャラクターだが、練習内容や選手に課している課題に共通点が多い。そして、メディアも使って選手に的確なメッセージを送り、その取り組みや習熟度をきっちりと把握しているように映る。時には、言葉巧みに選手に必要だと思われる練習を“やらせて”いるのだろう。

 もちろん、優勝するにはペナントレースにおける采配力がものを言うわけで、その部分はやはり未知数である。それでも、チーム作りという点では理想的であり、選手たちが自ら動ければ面白い戦いを見せてくれるという期待も持てる。まずは、オープン戦での試合運びをじっくり観察してみたい。

野球ジャーナリスト

1965年、東京生まれ。立教大学卒業後、出版社勤務を経て、99年よりフリーランスに。社会人野球情報誌『グランドスラム』で日本代表や国際大会の取材を続けるほか、数多くの野球関連媒体での執筆活動および媒体の発行に携わる。“野球とともに生きる”がモットー。著書に、『落合戦記』『四番、ピッチャー、背番号1』『都市対抗野球に明日はあるか』『第1回選択希望選手』(すべてダイヤモンド社刊)など。

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