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【落合博満の視点vol.40】8か月で49発!! 花巻東高・佐々木麟太郎が備える長距離砲の資質

横尾弘一野球ジャーナリスト
183cm・118kgの体格に加え、佐々木麟太郎は長距離砲の資質を備えている。

 大谷翔平(ロサンゼルス・エンゼルス)の二刀流は今季の野球界を沸きに沸かせたが、その大谷が選手としての土台を築いた花巻東高では、またスケールの大きなスラッガーが頭角を現した。同校の佐々木 洋監督の長男・佐々木麟太郎である。

 今春の入学直後から実戦で目立つ活躍を見せた佐々木は、すぐにスポーツメディアを賑わせたが、夏の岩手県大会は決勝で盛岡大附高に敗れ、3年時の大谷と同じく甲子園の土を踏むことはできなかった。それでも、秋は県大会を制すると、東北大会初戦(二回戦)で豪快な一発を放ち、仙台育英高などライバルを蹴散らして見事に優勝。来春の甲子園出場を確実にし、明治神宮野球大会への出場権も得る。

 すでに47本塁打をマークしていた佐々木は、国学院久我山高との一回戦で1回裏二死から第1打席に立つと、会心の一発をライトスタンドまで運ぶ。広陵高との準決勝に9対10で敗れるも、8回表に一時は同点となる3ラン本塁打を放ち、入学から8か月で49本塁打という驚異的な数字を残した。

 183cm・118kgという高校生離れした体格もさることながら、佐々木がこれだけの本塁打を量産できるのはなぜなのか。神宮大会の映像で佐々木のスイングをチェックした落合博満は、「打つ時の手が前に出ている」という表現でスイングの長所を挙げた。

バリー・ボンズのフォロースルーを参考にして

 打者としてレベルアップするための条件に、落合は「大きく速いスイングを身につける」ことを挙げる。速いスイングとは、トップの位置から最短距離でミートポイントに振り出す軌道を指す。また、大きなスイングとはフォロースルーを大きく取ることを意味する。

「日本では、コンパクトなスイングを教える指導者が多いけれど、このスイングの欠点はミート直後に手首を返してしまうため、フォロースルーが体に巻きつくように小さくなる。これでは打球にドライブがかかってしまうし、いい角度で上がった打球も外野フェンスの手前で失速する。つまり、スイングのスピードが抑制され、打球に十分な力が伝わらない」

 そこで、落合は若い選手に打撃指導をする際は、「バットを投手に向かって放り投げるイメージで」とフォロースルーを大きく取ることを意識させたり、ノックを打たせて「手を前に出す」感覚を体に覚えさせようとする。実際、そのアドバイスでスイングを修正し、長打が増えた社会人選手は「長打力とはパワーではないことがよくわかった」と言う。

佐々木麟太郎が参考にしているというバリー・ボンズのフォロースルー。左手が離れてしまうほど弧が大きい。
佐々木麟太郎が参考にしているというバリー・ボンズのフォロースルー。左手が離れてしまうほど弧が大きい。写真:ロイター/アフロ

 佐々木が、すでにその理想的なスイングを身につけているのは、メジャー・リーグ歴代1位の通算762本塁打をマークしたバリー・ボンズのタイミングの取り方やフォロースルーを参考にしているからだろう。動画サイトなどでボンズのスイングを検索すれば、印象的な本塁打のシーンが多く、左手がバットから離れてしまうほど大きなフォロースルーを見ることができる。その左手も、バットから離れるまでは打球を“押す”感覚で伸びているのだ。

 神宮大会の活躍で、佐々木は今後も大注目の中で高校生活を過ごすことになる。だが、通算本塁打数など数字だけに囚われることなく、のびのびと長所を磨き上げ、心身のタフさも身につけてもらいたい。「長距離砲の素質がある」と、落合も太鼓判を押すのだから。

(タイトル写真=松橋隆樹)

野球ジャーナリスト

1965年、東京生まれ。立教大学卒業後、出版社勤務を経て、99年よりフリーランスに。社会人野球情報誌『グランドスラム』で日本代表や国際大会の取材を続けるほか、数多くの野球関連媒体での執筆活動および媒体の発行に携わる。“野球とともに生きる”がモットー。著書に、『落合戦記』『四番、ピッチャー、背番号1』『都市対抗野球に明日はあるか』『第1回選択希望選手』(すべてダイヤモンド社刊)など。

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