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“BIG BOSS”新庄剛志監督が備えている『勝てる指揮官の条件』

横尾弘一野球ジャーナリスト
好発進した新庄剛志監督(左)は、王 貞治氏(右)のように常勝チームを作れるか。(写真:アフロ)

 北海道日本ハムの監督に就任した新庄剛志は、11月4日の就任会見からファンやメディアの注目を浴びている。賛否が渦巻きそうだと予測された空気も、好意的なものが占めていると言っていい。テレビのワイドショーでコメンテーターを務めている経済や政治分野の評論家も、「新たなリーダー像を作るだろう」と新庄監督の動向に注目している。

 では、新庄監督はすっかり低迷してしまったファイターズを立て直すことができるのか。2004年から2011年まで中日を8年間率いて、リーグ優勝4回、日本一1回と黄金時代を築いた落合博満の経験と考え方に沿えば、新庄監督は勝てる指揮官の条件を満たしている。

 スポーツ界には「名選手、名監督にあらず」という格言があるが、落合は「日本のプロ野球界は、これには当てはまらないでしょう」と言う。

「プロ野球が誕生したばかりの時代は別として、日本では現役時代に高い実績を残した人が監督としても成功しているケースが大半だから」

 古くは「青バット」の大下 弘が、1年目の途中に解任されたのが象徴的に語り継がれた。長嶋茂雄と王 貞治も最初は苦労したが、2回目の就任(王は福岡ダイエー)では目立つ結果を残している。一方で、選手としては実績がほとんどない監督では上田利治が知られている。だが、2018年に東北楽天で監督代行を務めた平石洋介が翌2019年に監督に就任する際、一軍でマークした安打数が上田の56を下回る37で、2リーグ制後の野手出身監督としては現役時代の最少実績を更新した。つまり、落合が言うように名選手ではなかった監督はそれほど誕生していないのだ。

 また、落合は「特に最近の若い選手は、指導者を現役時代の数字で値踏みするから、実績はあるに越したことはないし、ある種のカリスマ性も必要かもしれない」と見ており、新庄監督はこの点でも指揮官に適した人材である。

新庄監督と落合監督の最大の共通点とは……

 ただ、落合は自身の経験を踏まえてこう語る。

「自分がやってみてわかったけれど、監督という仕事は本当に特別。二軍監督やコーチの経験が必要と言う人もいるが、私自身はそうは思わない。選手会長やキャプテンを務めた人が適任かと言えば、それもあまり関係ない。現役時代はチャランポランで、『あいつが指導者になったら選手がかわいそう』と評された人がいい指導者になった例はあるし、反対に現役時代から『将来の監督』と目された人が、監督としては失敗してしまった例もある。とにかく、監督という仕事はやってみなければわからない」

 それでも、就任からしばらく経てば「失敗しそうな監督はわかる」そうだ。

「プロ野球界にいる人間は、選手時代は多かれ少なかれ『俺が、俺が』という面を持っている。それを監督になっても消せない人は、たいがい失敗する。『主役は選手』と言いながら、スポットライトを浴びる主力選手に嫉妬したり、『コーチを信頼している』という言葉とは裏腹に、ピッチャー、バッティング、トレーニング……何から何まで首を突っ込み、自分でやらなきゃ気が済まない人も厳しいと思う」

 新庄監督は奇抜な出で立ちや興味深い発言で、連日メディアに取り上げられている。だが、これは目立とう精神ではなく、野村克也監督がボヤきでメディアを賑わせたように、計算ずくの行動だろう。そして、「ケガをしたら一般人。そういう選手はいらない」など、プロとして当たり前だが、忘れがちなことをあらためて言葉にしている。

 そして、新庄監督は1年目の落合監督との共通点を早くも示している。それは、自身が現役時代に体験した指導者の教えや実になったアドバイスを取り入れていることだ。

 落合監督が、2004年の春季キャンプ初日に紅白戦を実施したのは語り草になっている。その時、落合は「私たちの現役時代には、同じことをしたチームがあった。それを真似ただけなのに、周りの人たちが勉強不足で知らないだけ」と涼しい顔。実際、視察に訪れた川上哲治、広岡達朗、関根潤三といった野球界の先輩たちは、「昔のいい練習をしっかり採り入れている。落合はきっと勝つよ」と笑顔でコメントしていた。また、ペナントレースが開幕してチームが不測の事態に見舞われると、西武に黄金時代を築いた森 祇晶らに相談して解決していた。

 新庄も「島野育夫さんの教え」とグラウンド整備を監督、コーチで行なったり、随所に恩師から学んだ考え方を実践しているのがわかる。落合と正反対の立場になるのは、落合が編成面も含めた全権監督だったのに対して、現在の北海道日本ハムは監督と編成部門の責任者が異なる点だ。

 このように、新庄監督には名指揮官になれる条件が揃っているのだが、来年2月の春季キャンプでファイターズはどんな姿を見せてくれるだろう。

野球ジャーナリスト

1965年、東京生まれ。立教大学卒業後、出版社勤務を経て、99年よりフリーランスに。社会人野球情報誌『グランドスラム』で日本代表や国際大会の取材を続けるほか、数多くの野球関連媒体での執筆活動および媒体の発行に携わる。“野球とともに生きる”がモットー。著書に、『落合戦記』『四番、ピッチャー、背番号1』『都市対抗野球に明日はあるか』『第1回選択希望選手』(すべてダイヤモンド社刊)など。

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