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野球大国キューバが東京五輪に出られない!? 王者が直面する史上最悪の危機

横尾弘一野球ジャーナリスト
ため息が出るほど強かった“赤い稲妻”キューバは復活できるのか!?

 現地時間11月2日にメキシコ・グアダラハラで開幕する第2回プレミア12は、2020年東京五輪の予選を兼ねている。世界ランキング上位12チームが3グループに分かれてオープニング・ラウンドが行なわれ、各グループ上位2チームの計6チームが来日してファイナル・ラウンドを戦う。アメリカ大陸とアジア・オセアニアの最上位チームに東京五輪の出場権が与えられる大会は、グループA(メキシコ)にアメリカ、メキシコ、オランダ、ドミニカ共和国、グループB(台湾)に日本、チャイニーズ・タイペイ、ベネズエラ、プエルトリコ、グループC(韓国)に韓国、キューバ、オーストラリア、カナダが入った。

 カナダが沖縄で調整するように、各チームが大会に備えてキャンプを張っているが、気になるのは台湾で仕上げているキューバである。国際大会がアマチュアに限られていた時代は「赤い稲妻」の異名を持ち、1997年のインターコンチネンタルカップ準決勝まで国際大会151連勝の金字塔を打ち立てた野球大国も、2005年のワールドカップでの金メダルを最後に世界の頂点から遠ざかっている。

 ワールド・ベースボール・クラシックでも、2006年の第1回大会こそ日本と優勝を争ったが、第2回以降はベスト4にさえ進出していない。この低迷の原因は、主力選手の相次ぐ亡命である。ただ、フィデル・カストロ議長の徹底した社会主義政策が2011年に終わりを迎えてからは、キューバ政府も柔軟な姿勢となり、一時は亡命した選手も一定期間を経ればキューバ代表に復帰できる方針が示された。それでも、自由な環境を求めて亡命する選手は減少するどころか、最近では未成年の選手が家族ぐるみで亡命するケースも増えているという。キューバのスポーツ事情に精通する全日本野球協会の柴田 穣・国際事業委員は、その背景をこう説明する。

「昨年12月に、東京都U-17高校選抜のキューバ遠征に随行しました。その際、キューバの選抜チームには、かつてのキューバ代表の主力投手ノルヘ・ベラの息子もいました。18歳で、すでにストレートは98マイル(約157キロ)をマークしている逸材で、ノルヘからも日本のチームを紹介してほしいと言われた。しかし、ほどなく亡命したと聞きました。U-18、U-15とアンダーのカテゴリーでも世界大会が行なわれ、他国の自由な環境を目の当たりにすると、少しでも有利な条件になるよう若いうちに亡命を企てる。例えば、アメリカで高校に通えば、ドラフトの対象になりますからね。この亡命の低年齢化は、5~10年先の代表チームの戦力ダウンにもつながるため、深刻に受け止められています」

起死回生のMLBとの覚書もトランプ大統領に潰される

 東京五輪でメダルを逃す、いや、五輪の舞台に立てない可能性も少なくないという現状に直面したキューバ政府は、起死回生の一手を打つ。昨年12月にメジャー・リーグ機構(MLB)と選手の移籍に関する覚書を締結した。簡単に言えば、アルフレド・デスパイネやジュリスベル・グラシアルが福岡ソフトバンクでプレーしているように、MLB球団でも政府公認でプレーできるようにするものだ。この覚書では年齢やキューバ国内でのプレー年数をもとに選手をプロ扱い、アマチュア扱いに分類し、それによって年俸や契約年数を決めるなど細かなルールも盛り込まれた。そして、今年4月には移籍候補34名のリストがMLB側に提出されていたという。柴田氏が続ける。

「実は、そのリストにはデスパイネやグラシアルも含まれていると言われ、福岡ソフトバンクは事実確認に奔走したようです。これはキューバ独特のいい加減さなのでしょうが、リストには将来有望な若手が並んでおり、政府も本気だったわけです。MLBとしても、これまでのように亡命した選手と高額な契約を結ばなくてもいいというメリットがあるため、このシーズンオフから発効するのが注目されていた。ところが、アメリカのドナルド・トランプ大統領が7月頃に潰してしまったのです」

 それと並行して、過去に亡命した選手にも、亡命の方法によっては復帰を認める。実際、亡命後の2014年にロサンゼルス・ドジャースと契約したが、度重なるチーム内でのトラブルから2018年に解雇となったエリスベル・アルエバルエナは、今季から国内リーグに復帰し、好調を持続してプレミア12の代表にも選出された。だが、同じような立場にある元巨人のレスリー・アンダーソンや元オリックスのユニエスキー・ベタンコートは、復帰を希望したものの連絡が途絶えているようだ。

 こうした現状に、オマール・リナレスら黄金時代を知る関係者は「プレミア12では勝てないだろう」と失望しているという。ベスト6入りして来日するために、韓国でのオープニング・ラウンドを勝ち抜くことはできるのか。キューバ代表は、かつてない危機に直面している。

(写真=Paul Henry)

野球ジャーナリスト

1965年、東京生まれ。立教大学卒業後、出版社勤務を経て、99年よりフリーランスに。社会人野球情報誌『グランドスラム』で日本代表や国際大会の取材を続けるほか、数多くの野球関連媒体での執筆活動および媒体の発行に携わる。“野球とともに生きる”がモットー。著書に、『落合戦記』『四番、ピッチャー、背番号1』『都市対抗野球に明日はあるか』『第1回選択希望選手』(すべてダイヤモンド社刊)など。

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