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いい「問い」こそが、企画をおもしろくする 人気番組やマンガ作品に不可欠な問いの立て方とは

佐渡島庸平コルク代表
(写真:アフロ)

「企画」とは何なのか?

すごく雑に定義すると、企画は面白みがあり、人を巻き込める「仮説」だと思う。

そして、企画にも、仮説と同じように、いい「問い」が必要になる。すぐにでも解きたくなる「問い」を含んでいる「仮説」が「企画」だ。

先日、『世界の果てまでイッテQ!』のプロデューサーの人と話す機会があり、「問い」の面白さが企画をよくするのだと改めて感じた。

イッテQといえば、民放バラエティのなかで屈指の人気番組だが、番組開始当初はうまくいかなかったらしい。

当時の放送内容は、世界の秘境に出向き、現地でビックリするものを見つけて、スタジオにいる人たちにクイズを出すというものだった。問いは、最後に見つけるものだった。ただ、その構成だと、秘境めぐりの旅番組にクイズ要素が少し加わったくらいで、視聴者の興味を惹きつけることができずにいた。

そんな追い詰められた企画会議の中で、ふと「東京タワーって、いくつのボルトでできてるんだ?」という問いが湧き上がった。

それはどれだけ検索しても、詳しい人に聞いてもわからない問いだった。自分で、実際に現地に行って、目でみて、めんどくさがらずに調べないとわからない。「問い」を先に考えて、その答えを探るために現地に出向くという構成に変えてみてはどうだろうか。問いを探す様子ではなく、視聴者も知りたい問いを、解いていく様子が面白いのではないか。

そんな風にして企画会議は盛り上がり、「ホタルイカの光で勉強できるのか?」「宝石は買うのと探すのどっちが安い?」といった問いも生まれた。

出演者も視聴者も答えがわからず、問いについて一緒に考えていく。「問い」を企画の頭に打ち立てたことで、イッテQは人気番組へと変わっていった。

このイッテQの「問い」は、インターネットの外にあることがポイントだ。

いい「問い」とは、まだ誰も解こうとしたことがない問い

いい「問い」とは、まだ誰も解こうとしたことがない問いだ。

いま、インターネットで検索をすれば、何らかの答えが見つかる。答えがみつからない問いを立てる。問いを使って、インターネットの外に出て、現実を観察する。誰も解いていない問いを考えているとき、僕らは夢中になるし、世間もそれに興味を持つ。そして、その問いを解くことがきっかけで、ネットの中にはその情報が溢れる。

いい企画は、ネットの外にあり、ネットの中の拡張する。

これは、マンガや小説の企画でも同じことが言える。

いい作品には、いい問いが必ずある。

僕がこれまで連載を立ち上げてきた作品でもそうだった。

『宇宙兄弟』であれば、「絆」だ。

連載を開始する前、作者の小山宙哉が考える「いい絆」とはどんなものか教えてほしいと問いかけた。

主要な登場人物だけでも、ムッタとヒビト、ムッタとシャロン、ヒビトとアズマ。色んな形の絆が描かれている。

いま振り返ると、問いが普遍的すぎて、つい解きたくなる問いと普遍的な問いの組み合わせの方が、企画としては強かったと思う。宇宙飛行士が主人公という設定は、時代と合致しているけど、そこに問いはない。『宇宙兄弟』の面白さは、ネットには答えが載っていない「絆」というものに対して、小山宙哉の実感が描かれているからに尽きる。

いい問いは、「もしも」を考えていると見つかることもある。

『インベスターZ』は、もしも高校生が部活でファンドを運用していたら、どうなるのか? 『ドラゴン桜2』では、もしも入試制度が変わったら、前作からやり方をどう変化させるのか? そんな「もしも」から問いが生まれ、物語が生まれている。

インターネットで調べたときに、何もヒットしない。それは、マーケティングの場合、可能性が少ないことを指すのかもしれないが、創作の場合、無限の可能性があることを意味している。

問いによって、ネットの外に出たい。

(筆者noteより加筆・修正のうえ転載)

コルク代表

コルク代表・佐渡島が、「コンテンツのDJ」として自分の好きを届けていきます。 / 2002年講談社入社。週刊モーニング編集部にて、『ドラゴン桜』(三田紀房)、『働きマン』(安野モヨコ)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)などの編集を担当する。2012年講談社退社後、クリエイターのエージェント会社、コルクを創業。著名作家陣とエージェント契約を結び、作品編集、著作権管理、ファンコミュニティ形成・運営などを行う。従来の出版流通の形の先にあるインターネット時代のエンターテイメントのモデル構築を目指している。

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