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「頑張る」や「覚悟を決める」は思考停止ワード!? 仕事の質は「解像度」で決まる

佐渡島庸平コルク代表
(写真:アフロ)

「もっと覚悟を決めないと」

新人マンガ家と打ち合わせをしていると、この覚悟という言葉を定期的に耳にする。マンガにもっと真剣に向き合うことが必要で、その覚悟が足りていないから、自分の作品が良くならないのではないかという意味だ。

ぼくも昔はそんな風に考えていて、「もっと覚悟を決めよう」と発破をかけたりしていた。

でも、果たして、そうなのだろうか?

最近は、考えが変わりつつある。

自分にはこれしかないと自分を追い込み、前へと突き進んでいくことは、時に大きな成果をもらたらすかもしれない。でも、それは余裕が失われることにもなる。焦りが募り、むしろ結果から遠のいてしまうのではないだろうか。

最近のぼくは、自分の中で覚悟という言葉が思い浮かんだら一呼吸置くようにしている。

上手くいかない理由は、"覚悟"ではない

足りないのは、覚悟ではなく、解像度だ。

解像度が低いまま、前に進もうとしてるから覚悟で乗り切ろうとしてしまう。どうやって解像度をあげればいいのか、という問いに、覚悟という言葉を置き換える。

「覚悟」や「コミットする」といった言葉を使ってしまう時、それは多くの場合、次にやることが何も思いついていない状況だ。気持ちだけは強いかもしれないが、達成したい対象への解像度が低いため、具体的なアクションもわからない。それでは上手くいくはずがない。

新人マンガ家であれば、自分が描きたいマンガの解像度が高くなってくると、絵を工夫したいのか、間を工夫したいのか、と欲しいものがわかる。そして、欲しいものを補うために、どんなアクションが必要なのかを必死に考えるようになる。自分で思いつかなければ、知ってそうな人を探すし、相談も、もっと具体的なものになるはずだ。

「覚悟」を決めようとしている人の相談は、全てを解決する魔法みたいなものを求めている。だから誰に相談しても、なんか違った、となってしまう。

解像度が高い人の相談は具体的で、答える側も協力しやすい。

登りたい山を遠くから眺めている状態だと、「怖い。絶対に無理」と思うかもしれない。でも、地図を見て、どんな山道なのかを詳しく知れば、準備に何が必要かがわかってくる。そして、現地に赴けば、どんな山も、一歩を踏み出すことでしか前に進まない。情報を集めて、一歩ずつ進むことが解像度を高めることだ。

とはいえ、登山と違い、マンガ家として成功するための地図はない。それに、マンガ家とひとえにいっても、登りたい山は人それぞれに違う。そのため、向かうべきところの地図を自分でしっかりと作る必要があって、ぼくら編集者の仕事はその手伝いだと思っている。他人だから、相手の立ち位置がよくわかる。

覚悟が必要と思った時、大切なのは解像度をあげること。自分が登ろうとしている対象に対して、もっと詳しく調べたり、多面的に見たり、誰かに相談したりして、解像度を高めようと思うと動きだす。

これは、「頑張る」が思考停止に繋がることと似ている。「覚悟」も思考停止ワードだ。

僕が編集を担当したマンガの『ドラゴン桜2』では、桜木は生徒たちに「頑張る」を口にすることを禁じる。

「頑張る」は精神的興奮で課題克服を図ろうとする勢いだけの感嘆符でしかない。だから、「頑張る」と言う言葉を使わずに、「なんのために、何をするか」を考えて話すことを習慣にしようと、桜木は言う。

「覚悟を決める」や「頑張る」といった言葉が、具体性とともに使われれば問題ない。でも、多くは、勢いだけの言葉になっているように思う。

自分の目指しているところの解像度が低い状態であれば、そのことを素直にさらけ出して、周りに相談したほうがいい。「覚悟を決めます」「頑張ります」といった言葉に逃げ込んで、自分を追い込んでも、大したものは生まれないと思う。

覚悟という言葉を使っていけないのではなく、覚悟が足りないと思ったら、少し立ち止まって見ること。それが大切なのだと思った。

(筆者noteより加筆・修正のうえ転載)

コルク代表

コルク代表・佐渡島が、「コンテンツのDJ」として自分の好きを届けていきます。 / 2002年講談社入社。週刊モーニング編集部にて、『ドラゴン桜』(三田紀房)、『働きマン』(安野モヨコ)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)などの編集を担当する。2012年講談社退社後、クリエイターのエージェント会社、コルクを創業。著名作家陣とエージェント契約を結び、作品編集、著作権管理、ファンコミュニティ形成・運営などを行う。従来の出版流通の形の先にあるインターネット時代のエンターテイメントのモデル構築を目指している。

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