先送りされた就活ルール廃止。現実化に備えて学生、大学、企業はどうすべきか?

(ペイレスイメージズ/アフロ)

経団連会長の発言をきっかけに「就活ルール」廃止が議論になっていましたが、政府も調整に乗り出し、9月21日に「今後、経団連など産業界と大学による3者協議の場で議論し、現行ルールの継続を決定する」という先送りの方向性が報じられました。

2021年度春入社に向けた採用活動からは経団連ではなく政府が、企業にルール遵守を呼びかけることになりそうです。

経団連加盟企業でないためにこれまでは無関係でいられた外資系や新興企業も対象となるという点では、規制の強化と言えます。しかし罰則があるわけでもなく、経団連の「仲間内のルール」でなくなることで、より拘束力が低下しそうです。

また、今回は先送りにされましたが、いずれは就活ルールはもとより、その前提である新卒一括採用という日本に独自のシステム自体がなくなっていくものと思われます。その理由と、学生、大学、企業が取るべき備えについて考察します。

制度疲労を起こしている「新卒一括採用」

■今の大学2年生を対象に就活ルール廃止は早すぎる

写真提供:ぱくたそ(www.pakutaso.com)
写真提供:ぱくたそ(www.pakutaso.com)

筆者は、大きな方向性としては就活ルール廃止に賛成です。それは、就活ルールの存在理由である新卒一括採用というシステムが時代に合わなくなっているからです。

ただ、経団連の中西会長が示した2021年入社から、というのは早すぎるように思います。新しい採用・就活のあり方に対応していくには、学生も大学も企業も就職・採用についてのマインド・チェンジが必要で、2021年入社組、つまり今の大学2年生やその指導者、採用企業にそれを求めても、到底間に合わないでしょう。

■日本社会が新卒一括採用から得てきたメリット

新卒者の採用が今後どうなっていくかを考える前に、なぜ新卒一括採用が続けられてきたのか、そのメリットを確認しておきたいと思います。

『若者と労働』(濱口桂一郎著 中央公論新社)によれば、欧米の企業と、終身雇用を前提としてきた日本の企業とでは、採用のシステムが全く違っています。

欧米は「欠員補充方式」で、必要なときに、必要な資格、能力、経験のある人を、必要な数だけ採用します。対する日本の「新卒定期採用方式」では、年度替わりの4月1日付けで、あらかじめ選抜しておいた前年度の新規学卒者を一斉に採用します。

日本でも昨今は転職者が増え、企業は新卒一括採用と中途採用を併用するのが普通になってきた感があります。ですが元々は、新卒採用で頭数を揃え、社内教育と異動によって各部署に必要な人員を補充するというのが、基本だったわけです。

そのようなシステムの下では、以下のようなメリットが享受できました。

(1)低い若者の失業率

欧米の欠員補充方式は、経験の浅い若者に不利です。そのため、在学中または卒業後にインターンをするなどして少しでも経験を積む必要があります。また、中等・高等教育で職業的知識や技能を身につけていることが期待されますので、選択したコースや専攻内容によって採用されやすさは異なるでしょう。そのため、卒業してから職が得られるまでどのくらい時間がかかるかは、かなり個人差があるのです。

日本の場合、1980年代までは大学卒業と同時にほとんど誰もが正社員になれるのが普通でした。就職氷河期を迎え、大学を出ても非正規社員になったりニートになったりする若者が増えたわけですが、それでも諸外国と比べると若者の失業率は低い方で(※)、これはやはり具体的な能力や経験よりも卒業年度重視で、ある意味機械的に大量採用が行われるシステムのおかげだと言えるでしょう。

※総務省の「労働力調査」によると2017年の完全失業率は15~19歳で4.0%、20~24歳で4.7%。一方で、国際労働機関(ILO)が2017年11月に発表した同年の若年(15~24歳)労働者の失業率は世界全体で13.1%、地域別では北米で10.4%、北・南・西ヨーロッパで18.2%、東アジアで10.4%などとなっている。

(2)若者を安く雇える

欧米の欠員補充方式は、その職務とポストに見合った賃金で人を雇います。

日本では、最終学歴が同じであれば、新卒の初任給は全員一律です(最近は、IT企業のエンジニア採用を中心に、その原則に反する会社も出てきていますが)。

加えて、日本の企業の場合は年功序列、定期昇給という慣行があり、基本的には長く勤め続ければ給料が上がっていくという前提があります。

そうなると、新卒採用時の給料が最低レベルに設定されることになり、能力が高い人でも新卒入社である限り安い給料で雇うことが可能なのです。

(3)採用活動・就職活動のスケジュールが立てやすい

「就活ルール」とダイレクトに関係するところですが、採用活動を行う企業、特に毎年数十~数百名の新卒採用を行うような大企業にとっては、同じ時期にまとめて採用活動や内定・入社者の研修を行えることは、大きなメリットでしょう。研修内容も、基本的に「全員が初心者」という前提で一律の内容を提供すれば良いので効率的です。

就職活動を行う学生やその指導をする大学も、スケジュールの見通しが立てやすく効率的に活動できる上、周囲の動きに合わせて活動すれば良いという安心感が大きいでしょう。

(4)会社人間を育てやすい

新卒採用は個々人の専門スキルや経験を重視して行うわけではないので、仕事に必要な知識や技術は会社で教えるという前提があります。新入社員は他社で働いた経験もないので、ビジネスマナーや仕事の進め方なども含め、その会社のやり方を素直に身につけていくでしょう。企業にとって非常に扱いやすい社員になっていくわけです。

また、「○年入社組」という言い方に象徴されるような同期意識が強くなり、同期の中で誰が早く出世するかといった競争意識や、「あいつが頑張ってるから、自分も頑張ろう」というようなモチベーションの向上に役に立つでしょう。

■新卒一括採用のメリットがメリットでなくなりつつある現状

写真提供:足成(http://www.ashinari.com/)
写真提供:足成(http://www.ashinari.com/)

このようにさまざまなメリットがあった新卒一括採用ですが、現在では制度疲労を起こしており、これらのメリットが消滅したりデメリットに反転する状況が増えています。

例えば、「(2)若者を安く雇える」の項で一部のIT企業がエンジニアの採用を中心に「初任給は全員一律」という慣行を廃止していることに言及しました。優秀なITエンジニアに関しては、新卒なら安く雇えるというメリットがなくなりつつあるということです。

ITエンジニアのような特別な職種以外は、今までどおり、なるべく自頭の良い若者を安く雇い入れて自社で教育すればよい、と考える向きもあるでしょう。しかし、途中で転職していく若手も多い状況を考えると、給料は安く抑えられても、投入した教育コストが回収できない可能性が大いにあります。

大企業にとって「(3)採用活動・就職活動のスケジュールが立てやすい」というメリットは相変わらず大きいでしょうが、上記のようなことを考えると、毎年4月に未経験の若者を大量に採用することが本当に必要なのか、欠員補充方式の中途採用ではダメなのか、そろそろ再考すべきではないかと思います。

また、毎年数名しか採用しないような中小企業は、世間の新卒採用スケジュールに合わせることで得られるメリットは薄いはずです。新卒採用をしたいなら採用窓口を常に開けておき、良い学生がいればいつでも内定を出す(その後、辞退されないためのコミュニケーションに労力をかける)、というやり方でも良いのではないでしょうか。

「(4)会社人間を育てやすい」も、ある種の企業にとっては今後もメリットであり続けるでしょう。しかし、多くの企業が「イノベーション」を命題に掲げている今の時代、内向き志向で井の中の蛙のような社員を大量に育てても、目指す方向には行けないでしょう。

不安な学生やニートが増えるという問題をどうするか

上に挙げたのは、どちらかというと学生よりも企業の側が直面している変化です。経済合理性で動く企業は、遅かれ早かれ新卒一括採用というシステムに頼らず、欧米の欠員補充方式に近づいていくことが予想されます。

一方で学生や大学は、一部の優秀層を除いては今のシステムに乗っかっていることで得ているメリットが大きく、そのシステムがなくなっていくと、どうしたら良いかわからない不安から学生生活に混乱をきたしたり、結果的にニートや不本意な非正規雇用者が増えていく可能性があります。

■人生100年時代、卒業時の就職で人生が方向付けられるのは不合理

そうならないためには、就活の結果次第で人生が方向付けられてしまうような社会のあり方を変えていかなければなりません。

人生100年時代と言われる今、キャリアプランをもっと柔軟に長期的に考え、卒業の時点で「これだ」という職業が見つからないなら、とりあえずはアルバイトやインターンをしたり、必要なら学校に入り直したりしてチャンスを探す――、そういったことができる社会にしていく必要があるのではないでしょうか。

そのためには、学生や働く人のマインド・チェンジのほか、企業にはキャリアにブランクのある人なども含め、人材をその能力でフラットに評価する姿勢、行政にはキャリアチェンジやリカレント教育のための社会保障制度の整備などが求められます。

■若者のキャリア観を育て、準備をさせる学校の役割は非常に大きい

学生は、自分のキャリアについて突きつめて考えるのは大学に入ってからで十分、という意識を払拭し、早くから時間をかけて将来について考え、卒業後もより良いキャリアを模索し続ける覚悟が必要になります。

そのために、大学はもちろん中学や高校も含む教育機関の役割は非常に大きいものになるでしょう。

具体的には、中学や高校の時代から興味を持った職業に就くために必要なことを調べる、実際に現場に行ってみる、インターンとして働いてみる、といったことができるよう、学校がサポートすることが必要です。

キャリア教育の内容の刷新が求められる

少子化で入学者の獲得競争が激しくなる中、就職支援に力を入れる大学が増えています。しかし、大学がやるべきキャリア教育とは就職活動のノウハウを教えることにとどまらず、専門教育や教養教育の内容を実社会に結びつけるということではないでしょうか。

内閣府の「平成25年度 我が国と諸外国の若者の意識に関する調査」によると、諸外国に比べて日本の若者は「専門知識を身に付ける」「仕事に必要な技術や能力を身に付ける」ということについて、「学校に通う意義がある(あった)」とする割合が低いです(それぞれ64.1%、55.5%)。

各項目について、「意義がある/あった」と回答した割合(内閣府「平成25年度 我が国と諸外国の若者の意識に関する調査」を元に筆者がグラフを作成)
各項目について、「意義がある/あった」と回答した割合(内閣府「平成25年度 我が国と諸外国の若者の意識に関する調査」を元に筆者がグラフを作成)

実際に、学校での教育内容が仕事で役立つものでないという面もあるでしょう。しかし、「君は大学で◯◯を学んだのだから、この仕事ができると期待している」といったアサインをされることがないために、本当は役立つことを学んでいても、それを実感する機会がないという可能性もあります。

大学での成績や研究内容が就職活動に影響を及ぼさないケースが多いという現状は、先の『若者と労働』では「教育と職業の密接な無関係」と表現されています。社員を様々な部署に異動させながらゼネラリストとして育てていく終身雇用制度の下で、企業にとっての大学の意味は、教育機関ではなく「自頭の良い学生」のフィルタリング機能でした。

そうなると、大学の側も講義の内容が仕事にどのように役に立つかを示したり、学生が目指す職業によってどのような単位を取得するのが良いか、といった指導をしようという動機が弱く、学生も学んでいることと仕事を結びつけようという意識が希薄になるでしょう。上の調査の結果には、そんな複合的な原因があるのではないかと思うのです。

「日本の大学はレジャーランド。学生は勉強しない」と言われたのは1970年代で、今の学生はもっと真面目に勉強していると聞きます。でも、それが就職後に役立っているという実感がないとしたらもったいないことです。

学生は、一生懸命自己分析をし、応募先の企業を研究して共感ポイントを探し、そこでどんな風に貢献したいかを考えて、エントリーシート、グループディスカッション、面接などに臨みます。しかし晴れて採用されると、熱く語った「御社でやりたいこと」とは無関係に配属先が決まってしまう……。そういう状況では就活に真面目に取り組んだ人ほど失望が大きく、それが短期間での離職にもつながっているのではないでしょうか。

そういうミスマッチをなくすためにも、企業は「新卒一括採用→ゼネラリストとして育てる」というルートばかりでなく、専門性や能力をみて入社直後の職種や配属先部署をすり合わせた上で採用する、というやり方を増やすべきだと思います。

大学側は、個々の講義やゼミの内容が実社会でどのように活かされるのか意味付けをして学生に伝えることが、まず必要です。そして実際に意味があるものにするためには、カリキュラムや指導方法を見直すと共に、学生をきちんと評価し、卒業生の能力を保証する。それができるようになると大学の評価向上につながりますし、一旦社会に出た人が必要に応じて大学に戻って学び直す、といった動きも出てくるでしょう。

まとめると、企業は就活ルールをどうすべきかというよりも、新卒一括採用そのものを見直すべき時期に来ています。それを受け、学生も大学も大きくマインド・チェンジが必要で、中学や高校も含めた新たなキャリア教育のあり方への転換点がやって来ているのではないでしょうか。