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【体操】NHK杯女子 混戦制するのは渡部葉月か宮田笙子か 高1・岸里奈、21歳・深沢こころにも注目

矢内由美子サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター
体操NHK杯女子は渡部葉月(左)と宮田笙子の2人が優勝争いの軸となる(写真:松尾/アフロスポーツ)

  体操の個人総合で競うNHK杯女子は5月20日に東京体育館で行われる。4月の全日本個人総合選手権の得点を持ち点とし、合計点でタイトルを争う。上位4人が9月30日からベルギー・アントワープで行われる世界選手権の代表に決まる今大会。1位から4位までの持ち点差がわずか0・299点という大接戦を制するのは誰か。注目選手のコメントを紹介する。

■渡部葉月(筑波大1年) 全日本選手権との2冠を目指す、平均台の世界女王

安定感抜群の平均台を見せる渡部葉月
安定感抜群の平均台を見せる渡部葉月写真:松尾/アフロスポーツ

 昨年、英国リバプールで行われた世界選手権の種目別平均台で、日本女子史上最年少の18歳で金メダルに輝いた渡部葉月。勢いに乗る大学1年生は、4月の全日本個人総合選手権で初優勝を飾った。NHK杯は個人総合2冠の懸かる試合だ。

昨年の世界選手権種目別平均台で金メダルに輝いた渡部葉月
昨年の世界選手権種目別平均台で金メダルに輝いた渡部葉月写真:ロイター/アフロ

―現在(5月19日)の状態は?

渡部「あまり調子が上がっていません。世界選手権の代表選考も僅差だから、それもあって不安とか焦りも多いです」

――去年との違いはいかがですか?

「去年は追う側だったのが追われる側になり、プレッシャーが違うと感じます」

――全日本選手権後に修正したところは?

「段違い平行棒の倒立の角度が全日本選手権では甘かったので、試合でも狙えるように、通し練習でも狙ってやっていました」

―公式練習では平均台のしゃがみターンの練習をしていたが?

「ターンも日によって調子が良い時と悪い時と波が大きいです」

―今までにない重圧ですか?

「重圧というよりは、僅差だから安心できないとか、調子が上がらなくい焦りだったりとか、そっちの方が多いです」

―NHK杯の抱負を聞かせてください。

「今回は追われる立場なのですが、自分のやるべきことに集中して、大きなミスだけじゃなくて細かい減点もされないように丁寧な演技をして、しっかりと1位を守って代表に入りたいと思います」

■宮田笙子(順天堂大1年) 右足の痛みと闘いながらNHK杯連覇を狙う

バネを生かしたゆかの演技はダイナミック
バネを生かしたゆかの演技はダイナミック写真:松尾/アフロスポーツ

 昨年はNHK杯を初制覇して世界選手権に初出場した宮田笙子。女子個人総合で8位と健闘したほか、種目別平均台では銅メダルに輝いて渡部葉月とともに表彰台に上がるなど、女子の新エースとしての地位を築いた。

 今年1月、右足に痛みが出た。検査のために4カ所の病院をまわると、右かかとの疲労骨折が判明。練習を積めないまま臨んだ4月の全日本個人総合選手権は予選6位と出遅れたものの、決勝ではさすがの演技を見せて2位まで順位を上げた。NHK杯は連覇が懸かる。

2022年世界選手権女子個人総合決勝での宮田笙子の跳馬の演技
2022年世界選手権女子個人総合決勝での宮田笙子の跳馬の演技写真:YUTAKA/アフロスポーツ

―現在(5月19日)の調子は?

宮田「全日本選手権後は練習を積めてこられたのですが、その影響で足に負担が出てきました。1週間前ぐらいから足の状態が悪くなり、会場練習では痛みが我慢できないような状態ではありました。でも、やってきたことは全日本選手権の時よりは自信があるので、思い切ってできたらいいなと思います。痛いのは足首。かかとをかばっている影響です」

―パリに向かっていく中での覚悟は?

「去年の世界選手権を経て、代表になることは当たり前で、その後をちゃんとやらないといけないと思っています。ケガがあるから余裕はないのですが、今は(全日本選手権)2位で代表入りのライン(4位以内)に入ってきているので、自分らしく楽しんでできればいいかなと思っています。今年の世界選手権はパリ五輪の(団体)出場権に向かって大事になってくると思うので、自分がしっかり周りを引っ張っていけるようにするのが、自分に必要なことだと思います」

―NHK杯の抱負を教えてください。

「代表に入るということが今の足の状態を考えた上での一番の目標です。ちゃんと代表に入るということを前提に優勝を狙えることが一番です」

■岸里奈(戸田市スポーツセンター) 全日本選手権3位と躍進中の高校1年生 ゆかに注目

平均台の演技をする岸里奈。ターンを若干苦手としているが、ジャンプ技で見せる高い柔軟性は素晴らしい
平均台の演技をする岸里奈。ターンを若干苦手としているが、ジャンプ技で見せる高い柔軟性は素晴らしい写真:松尾/アフロスポーツ

 自身2度目の出場だった4月の全日本個人総合選手権で3位になった期待の新鋭。岸里奈は跳馬とゆかの2種目で全体トップの点を出し、22年の11位から大きく順位を上げて脚光を浴びた。身長147センチと小柄ながら抜群の脚力を持ち、ゆかでは大技「シリバス(後方かかえ込み2回宙2回ひねり」や「後方伸身3回ひねり」など、跳躍系の技を得意としている。

岸里奈の跳馬。脚力を生かし、ユルチェンコ2回ひねりで高得点を狙える
岸里奈の跳馬。脚力を生かし、ユルチェンコ2回ひねりで高得点を狙える写真:西村尚己/アフロスポーツ

―全日本選手権3位という結果は自信になりましたか?

「そうですね。新しい技を成功したことに自信を持ってきています。今年から入れた新しい技は、ゆかの『シリバス』と『3回ひねり』、段違い平行棒の『マロニーハーフ』です」

―シリバスの完成度は上がりましたか?

「前は一度失敗してから2本目に立つくらいだったんですけど、今は1本目から立てるようになって、結構上がってきたかなと思います」

―ゆかの演技で意識していることを教えてください。

「曲は柔らかい感じではなく、キメがはっきりしていると思います。そのキメを、目線なども使ってアピールできたらいいなと思います。以前は曲をあまり聴かず、小さい頃はただ動いて手やつま先を意識していたんですけど、顔も体の一部なので、だんだん大人になるともっと意識しなきゃいけないところだと気づきました」

―まとまった綺麗な演技とは?

「私は空中の姿勢が大事かなと思っています。着地も両足でしっかり止められる意識があると良いかなと思います」

―NHK杯の目標と代表入りへの思いを聞かせてください。

「NHK杯は優勝を狙って、あとは結果だけでなく、まとまった演技をすることと魅力的な演技をすることが大事だと思っています。綺麗さを重視した演技をしたいなと思います」

■深沢こころ(筑波大4年)世界選手権の女子主将 段違い平行棒は必見

大人の表現力を身につけている深沢こころ
大人の表現力を身につけている深沢こころ写真:松尾/アフロスポーツ

 深沢こころは、昨年の世界選手権に初出場。身長160センチ、長い手足を生かしたダイナミックな技さばきを見せる段違い平行棒を得意とし、世界選手権では女子団体の主将も務めた。4月の全日本個人総合選手権は筑波大の後輩でもある首位の渡部葉月とわずか0・299点差で4位。表彰台は十分に射程内だ。

深沢こころの段違い平行棒は、上下バーの移動技が見せ場だ
深沢こころの段違い平行棒は、上下バーの移動技が見せ場だ写真:ロイター/アフロ

―全日本選手権では大人の魅力が感じられる演技だった。

深沢「出場選手の中で最年長に近い年齢ですから、ゆかでは大人の魅力を音楽に合わせて見せられたらいいと思ってきました」

―今春に筑波大に入学してきた渡部選手が優勝したが?

「もちろん、ライバルとして刺激は受けるんですけど、純粋にチームメートとして嬉しいというのと、お互いに努力しているのを見ているからこその嬉しさもあります」

―去年は種目別で世界選手権の代表になったが、個人総合で出たいという意識は強いですか?

「(日本が不得意としてきた)段違い平行棒が得意なので、全種目で貢献して、さらに段違い平行棒で日本をメダル争いまで引っ張っていけるようになりたいと思っています」

サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター

北海道大学卒業後、スポーツ新聞記者を経て、06年からフリーのスポーツライターとして取材活動を始める。サッカー日本代表、Jリーグのほか、体操、スピードスケートなど五輪種目を取材。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。スポーツグラフィックナンバー「Olympic Road」コラム連載中。

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