【浦和レッズ】MF大久保智明 一段上のアタッカーへ、飛躍すべき時 横浜FM渡辺皓太から刺激も
5月14日にあったJ1第13節ガンバ大阪戦は、左利きのアタッカーにとってターニングポイントとなりうる試合だった。今季リーグ戦11試合目にして初のベンチスタートだったMF大久保智明は、途中出場で大仕事をやってのけた。
後半開始からピッチに立つと、1-1で迎えた51分、右CKの二次攻撃からDFアレクサンダー・ショルツが巧みにパス。これをゴール前で受けた大久保は、相手DFを背負いながら迷わず左足で流し込んだ。もう1人のDFにも寄せられたが、まったく躊躇しなかった。
試合後、大久保はその瞬間の判断についてこう語った。
「ショルツがフリックした時点で自分に来ると思った。今まではシュートを打つ前にゴールを見過ぎたり、チャンスだと思いすぎて判断が遅れたりすることがあったけど、今日は迷わず振り抜いた。外してもいいからというか、打たなきゃ始まらない。きょうはよくチャレンジできたと思う」
大久保のゴールで2-1と勝ち越した浦和は、その後もう1点を加え、3-1で逆転勝利を収めた。5月6日にAFCチャンピオンズリーグ決勝を制して3度目のアジア王者に輝いたが、10日にあったJ1サガン鳥栖戦は0-2で敗れ、公式戦14試合ぶりの黒星を喫していた。だからこそ、G大阪戦の勝利は非常に大きな意味合いを持つものだった。
「ACLが終わって、また一勝できたというのはチームの自信にもなる。メンバーが変わっても勝てるというところを見せれたと思うので、ここからまたどんどん競争も激しくなる」 リーグ戦でうまく仕切り直しができたという手応えをにじませた。
■浦和の特別指定選手だった大学3,4年生時に負傷…プロ1年目のキャンプは「一般人みたいな脚だった」
現在24歳の大久保はプロ3年目。中央大学3年だった2019年7月に、21年加入の内定を浦和からもらった。同年8月、特別指定を受けて浦和のトレーニングに参加。左利きでキレのあるドリブルは目を引き、9月のYBCルヴァンカップ鹿島戦でベンチ入りも果たした。ところが、その時期の練習中に左ヒザ骨挫傷のケガを負った。
しばらくは我慢できる痛みだったが、大学に戻ってインカレを目指している間に悪化。翌20年1月に浦和の沖縄キャンプに参加した頃はまったく動けず、そうこうしている最中に世界がコロナ禍に突入し、チーム活動がストップした。この時期のひざの状態はかなり悪く、リハビリもできないほど。ヒザの痛みの動作確認すら禁じられた約1カ月間は、日常生活でも痛みを感じるほどだったという。
それでも時間をかけて自然治癒したことで、状態は良化した。しかし、半年間休んでいた反動で大学リーグでも不調が続き、20年10月に右足首を捻挫。検査でねずみがあることが判明し、除去手術を受けた。
21年にレッズに正式に加入した後はケガをすることはなかったが、プロ1年目の最初の沖縄キャンプでは「一般人みたいな脚だった。よくこれで参加できているねっていうぐらいの足。左右両方とも細いし、力強さもないし、張りもなかった」という。
即戦力として期待されながら、プロ1年目になかなか出場機会を得ることができなかったのは、19年から続いたケガの影響が抜けきっていなかったからだ。
そのため、リカルドロドリゲス監督が就任して1年目の21年は、シーズン後半から徐々に出場機会を得るようになったものの、そのほとんどが途中出場。プレータイムも長くなかった。
「21年はケガはなかったけど、今思うとまだ感覚の部分が戻っていなかった。判断もスピード感もついていけなかったし、僕自身も自分の頭で描いてるのとプレーの感覚が違うと感じていた」
■22年6月から先発の座をつかんだ
その時期を乗り越えて迎えた22年は、前半こそ21年と同様に出場機会の確保に苦しんだが、調子を上げた6月以降は先発で起用されるようになり、13試合に先発した。
こうして迎えたのプロ3年目の23年。マチェイ・スコルジャ監督の信頼を得た大久保は、第11節までJ1リーグ全試合に先発。ACL決勝の2試合も先発し、チームの3度目アジア制覇に貢献した。
一方で、先発のポジションを得たからこそ出てきた課題がある。得点である。リーグ戦では21年1得点、22年も1得点。今季については「「22年の途中から感覚も良くなってきているけど、まだまだシンプルに能力を上げなきゃいけない」と表情を引き締める。
■東京ヴェルディの育成組織で同期だったMF渡辺皓太から刺激をうけている
常に刺激を受けている存在がいる。東京ヴェルディの育成組織時代にチームメートだった横浜F・マリノスのMF渡辺皓太だ。U-21日本代表として出た2018年アジア大会で準優勝に貢献し、2019年のコパアメリカではA代表に初選出された(出場機会なし)。横浜FMでは既にリーグ優勝を2度経験している。
「ACLで優勝できたのは大きいですが、コータに追いついたとは思わない。彼は常に先を走っている。いつまでたっても追いつかないと思うんですけど、常に自分がまだまだ足りないと気づかせてくれる人でもある。自分もリーグタイトルを取りたいし、個人的には代表で一緒にやりたい、いつか一緒にプレーしたいと思っている」
■興梠からハッパ「若いヤツがもっと頑張らないと」
スコルジャ監督には「12ゴール取れ」と言われている。21年はリーグ1得点、22年も1得点。今季もまだ1得点だが、まだ20試合ある。そのために日々のトレーニングで居残りのシュート練習をするのはもちろん、試合の中ではFW興梠慎三の近くでプレーするシーンを増やすことで得点を取りたいという思いがある。大久保の基本ポジションは2列目のサイドだが、より内側、より中央レーンに近いエリアでビッグチャンスを作っていくことで、自然とゴールが生まれると考えている。
現在24歳。7月には25歳になる。
「昨年や一昨年は試合に出ていればOKとか、ちょっとドリブルしたらOKでしたけど、今は結果を出せなかったらダメ。周りもそう見ているし、自覚もある」
興梠からは「若いヤツがもっと頑張らないと」とハッパをかけられている。
「25歳はチームの中心でやってなきゃおかしい。先輩の下でやるというのではなく、自分が引っ張らなきゃいけない」
ドリブルのキレ味は一級品。試合の終盤でもスプリントできる無尽蔵のスタミナもある。ゴール前で迷いのないプレーができればもう一段階上に行けるはず。今こそ、殻を打ち破る時が来ている。