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カタールW杯で受けた刺激 DF酒井宏樹が浦和レッズで示す覚悟

矢内由美子サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター
浦和レッズで3シーズン目を迎えた酒井宏樹。今季はキャプテンを務める(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

 1月下旬、沖縄・金武町のグラウンド。DF酒井宏樹は、はつらつとした表情と動きでボールを蹴っていた。2012年夏から長らく欧州でプレーし、Jリーグに復帰したのは2021年夏。今年は浦和レッズでの3シーズン目となる。

「自分自身はトレーニングキャンプをするのが久々なので充実感があります。今、32歳ですが、まだまだ走れますし、昨年より一昨年より走れるようになるかもしれないと考えると、すごく楽しみですね」

 酒井によると、シーズンオフの合宿にがっつり参加したのは、柏レイソルに時代の指宿キャンプ以来のこと。実に11年ぶりだ。

「日本代表の活動があったのでヨーロッパにいた時期はフィジカルを鍛える1次合宿には行けず、試合にだけ行くというようなことが続いていました。今年、久々に参加してトレーニングは重要だと実感していますし、こうやって体は作られていくと感じています」

 フィジカルだけでなく心もエネルギーで満たされていることが伝わる。

ACL決勝進出の立役者

 ピッチに立てば闘志を一滴も漏らさず、全身全霊を込めてプレーする。2016年夏から所属したフランス1部の名門・オリンピック・マルセイユでは、厳しい審美眼を持つマルセイユサポーターを虜にした。

 2021年夏に移籍した浦和でもしかり。昨年8月にあったAFCチャンピオンズリーグ(ACL)東地区準決勝の全北現代戦では、1点ビハインドとなっていた延長後半の119分に魂のタックルで敵ボールを奪い、その流れからタッチライン際まで駆け上がってクロスを上げ、キャスパー・ユンカーの同点ゴールにつなげた。浦和はPK戦の末に勝利を収め、決勝に駒を進めた。(※決勝戦は4月29日にアウェー、5月6日にホーム埼玉スタジアムで開催される)

全北現代戦の後半終了間際、驚異的なタックルで相手ボールを奪って持ち上がる酒井宏樹
全北現代戦の後半終了間際、驚異的なタックルで相手ボールを奪って持ち上がる酒井宏樹写真:YUTAKA/アフロスポーツ

クロアチア戦後のミックスゾーンで

 つねに目の前の一戦で勝利することに強い責任感を持ってプレーしているだけに、酒井が直近の試合や大会を超えた領域について積極的に言及することはこれまであまりなかったように思う。

 そんな酒井が、今後への思いをはっきりと口にしたのは、カタールW杯で日本の敗退が決まったクロアチア戦後のミックスゾーンだった。

「ACLもそうですし、こういう大きな舞台でやるっていうのが、やっぱり僕は好きなんだろうな。また戻って来たいという気持ちもあります。やれる限りは常に上を目指したい」

 清々しいという表現がピッタリな表情と口調は、聞いていてハッとするものだった。PK戦の末に大会を去ることになった日本チームの中で、試合直後にとりわけ大粒の涙を流していたのが酒井だったからだ。

PK戦の末にベスト8の道を絶たれた日本。酒井は6番手か7番手のキッカーとして準備していたが
PK戦の末にベスト8の道を絶たれた日本。酒井は6番手か7番手のキッカーとして準備していたが写真:ロイター/アフロ

 クロアチア戦後にピッチで流した涙の意味はひとつではなかったに違いない。ただ、涙が乾いた後に沸き上がった感情は前向きなベクトルだけだった。

「結果は受け止めなければいけないけれど、4年前(2018年ロシアW杯)とは内容が全然違った。だからこそ悔しい思いは強い。クロアチアには劣勢の中でも振り出しに戻す選手がいて、試合を決めるような選手がいた。逆に僕らは1―0を守れなかったし、1―1になってから2―1にすることができなかった。やれているという感覚はなくちゃいけないと思いますが、やられたという感覚は大事にしないといけない」

 より上を見つめているからこそ出てくる言葉が次々と出てきた。

ドイツ戦で右サイドバックとして先発出場。チームの守備はハマらなかったが、1対1の局面では高さと強さを発揮した
ドイツ戦で右サイドバックとして先発出場。チームの守備はハマらなかったが、1対1の局面では高さと強さを発揮した写真:ロイター/アフロ

右太もも裏負傷からスピード復帰でクロアチア戦に出場した

 自身3度目のW杯となったカタール大会での酒井は、右サイドバックとして先発したグループリーグ初戦のドイツ戦で左太もも裏を痛めて無念の途中交代となり、第2戦のコスタリカ戦と第3戦のスペイン戦を欠場した。しかし、懸命なリハビリで急ピッチの回復に成功。仲間たちがグループリーグ突破を決めて決勝トーナメントに勝ち進んでくれたことで、クロアチア戦の後半30分からピッチに戻ることができたのだった。

 ドイツ戦後のミックスゾーンでは「大会期間中にしっかり戻ってこられるように」と話してはいたものの、軽いものではないと見られた負傷からあの短期間で試合に出られるまで回復できたのは驚異と言える。実際、全体練習から離れてリハビリメニューに取り組んでいた約10日間の心境については、後日このように語っている。

「グレード的にはまあまあなケガで、3、4週間かかると言われていましたから、(大会中の復帰は)正直、かなり難しいと思っていました。スペインを倒してベスト16に上がっていく中で、自分だけプレーできないというのは相当もどかしいもので、苦しかった。だから、とにかく1日でも早くという気持ちでやって、本当に最後は気持ちでした。仲間がつなげてくれた決勝トーナメントでしたから、本当に感謝しています」

 W杯という大勝負の舞台裏ではこのような“ギリギリの攻防”があることをあらためて知る後日談だった。

ゴールキックのターゲットとなって攻撃の起点をつくった酒井宏樹
ゴールキックのターゲットとなって攻撃の起点をつくった酒井宏樹写真:森田直樹/アフロスポーツ

 クロアチア戦後のミックスゾーンでは聞きたいことがたくさんあった。

 世界でまたやりたいという意欲はいつごろに湧いてきたのですか?

「いつでもですよ。常に上を目指してプレーしているから、浦和で良いパフォーマンスができると思っている。そこは常に責任感持ってやっていきたい。ただ、4年後は(長友)佑都くんと同じ36歳ですからね。僕はあんなストイックにはなれないです。でも、分かりません。誰も明日のことすらも分からないので、4年後のことなんて言えません」

 W杯という大舞台が酒井選手に刺激を与えたのでしょうか?

「普段は全然負けず嫌いじゃないのですが、サッカーに関しては負けず嫌いなんです。浦和で上を目指すなら、チームメートに要求する部分は増えると思います。常にタイトル争いをしなければいけないと思うので、責任を持っていきたいですね」

2023年、浦和の新キャプテンに指名された

 カタールW杯から2カ月あまり。明治安田生命J1リーグの開幕を控えた2月13日、浦和のマチェイ・スコルジャ新監督は酒井をチームキャプテンに指名した。「彼の内に秘めるパワーやエネルギーが、他の選手を彼についていかせると思う」と指名の理由を語った。

 浦和は18日、FC東京とのJ1リーグ開幕戦を行う。相手にはカタールW杯で酒井とともに闘った長友佑都がいる。楽しみな一戦である。

決勝トーナメント進出を決めて喜ぶサムライブルー
決勝トーナメント進出を決めて喜ぶサムライブルー写真:森田直樹/アフロスポーツ

サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター

北海道大学卒業後、スポーツ新聞記者を経て、06年からフリーのスポーツライターとして取材活動を始める。サッカー日本代表、Jリーグのほか、体操、スピードスケートなど五輪種目を取材。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。スポーツグラフィックナンバー「Olympic Road」コラム連載中。

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