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マルセイユに愛された酒井宏樹 エールは海を越えて浦和へ

矢内由美子サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター
浦和レッズでもつねに全力プレーを貫く酒井宏樹(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

 5シーズンを過ごしたフランス1部(リーグアン)のオリンピック・マルセイユから今夏、浦和レッズに移籍加入した日本代表DF酒井宏樹。右サイドバックで見せる攻守にわたって力強く質の高いプレーはもちろん、どんな時も全力を尽くすことを惜しまない姿は、浦和サポーターの心を確実にとらえているだけでなく、今なおマルセイユサポーターの記憶にも刻まれている。

 熱狂的なことで世界的に知られているマルセイユサポーターは、なぜ、酒井を愛したのか。来季のAFCチャンピオンズリーグ出場権獲得にもつながる天皇杯優勝を目指し、12日に埼玉スタジアムで準決勝のセレッソ大阪戦に挑む酒井に“エール”を届けたいと、酒井の大ファンというアレクサンドル・フェフェさんがインタビューに応じた。

マルセイユサポーター歴は生まれた時から28年というアレクサンドル・フェフェさん(撮影:矢内由美子)
マルセイユサポーター歴は生まれた時から28年というアレクサンドル・フェフェさん(撮影:矢内由美子)

■1年目からレギュラーとして活躍

「ヒロキは加入した1年目から良いプレーをしてくれて、私たちの期待を裏切りませんでした」

 酒井が加入した当初のことを、フェフェさんは懐かしそうに振り返った。フェフェさんは両親がマルセイユサポーターという一家に生まれ育った28歳のITコンサルタント。

 フェフェさんが語る通り、酒井は2016-17シーズンにドイツのハノーファーからオリンピック・マルセイユに移籍加入すると、16年8月14日、トゥールーズFCとのリーグアン開幕戦でフル出場デビューを果たし、すぐにレギュラーの座に就いた。加入1年目のこのシーズンは、35試合3012分出場というフル稼働だった。

 当時のチーム事情について尋ねると、フェフェさんはこう説明した。

「マルセイユに酒井選手が来る前のシーズンは、クラブ史上でも最悪に近いリーグアン13位という結果に終わりました。チームは試合結果だけでなく、経済的にも危機状態。酒井選手と同じポジションには、元フランス代表のロッド・フアンニ(Rod Fanni)選手がいましたが、彼は既に34歳でした。ですから、我々サポーターは最初から酒井選手がレギュラーとして試合に出られることを予期していました」

2016年8月14日のトゥールーズFC戦でリーグアンでのデビューを果たした
2016年8月14日のトゥールーズFC戦でリーグアンでのデビューを果たした写真:ロイター/アフロ

■EL準優勝に貢献した2年目。ファン選出MVPになった3年目

 加入2年目の2017-18シーズンには欧州リーグ(EL)でも14試合出場1得点と活躍し、チームのEL準優勝に貢献した。中でも準々決勝2ndレグのライプツィヒ戦では終了間際にマルセイユ移籍後初得点となる追加点を挙げ、勝利を決定づけた。試合があった4月12日は酒井の28歳の誕生日だった。

「ガルシア監督の下、酒井選手がこの年のELで多くの勝利のカギとなったことは明白です。ライプツィヒ戦ではバースデーゴールも決めましたし、本当に期待通りの活躍をしてくれました」

 フェフェさんが選ぶマルセイユ時代の酒井のベストゲームはこのライプツィヒ戦だ。

「多くの素晴らしい試合が思い出されますが、ひとつだけあげるとすればやはりこのライプツィヒ戦でしょうね」

 このようにマルセイユでの地位を確立していった酒井は、加入3年目の2018-19シーズン終了後、ファンが選ぶ「クラブ年間MVP」に選出された。どのようなところが選出理由となったのだろうか。フェフェさんはこのように説明する。

酒井選手はマルセイユサポーターが望んでいるタイプの選手だからですよ。我々サポーターは、選手が少しぐらい技術面でミスをしたからといってそれを責めることはありません。けれども、試合中に100%の力を出さない選手は許せない、という特徴があるのです。

 技術面だけを見れば酒井選手に勝るとも劣らない選手は他にもいましたが、彼にはすべての試合で90分間、全力で戦う姿勢があります。どの試合でも決して手を抜かず、きっちりと戦う安定した実力が、マルセイユサポーターの心を捉えたのです」

マルセイユ時代、ネイマールをきりきり舞いにさせた
マルセイユ時代、ネイマールをきりきり舞いにさせた写真:ロイター/アフロ

■ネイマールとの対峙を制し、マルセイユサポーターを喜ばせた

 ビラスボアス監督の下で戦った2019-20シーズンは、コロナ禍でリーグアンがシーズン途中で打ち切りになり中途半端な結果となってしまったが、マルセイユでプレーした最後のシーズン(2020-21)はビッグマッチでサポーターを歓喜させた。

 それは、昨年9月13日に敵地パリで行われたパリ・サンジェルマン(PSG)との試合だ。マルセイユはリーグアンで9年ぶりにPSGに勝利(1-0)したのだ。

 中でも酒井とネイマールとの丁々発止のマッチアップは見応え十分だった。酒井と言えばネイマールとの1対1が思い浮かぶというくらいこれまでに何度も対戦し、しかも戦うたびに酒井が上回るようになっていった印象がある。柏レイソル時代の2011年クラブワールドカップでの対戦、日本代表での対戦。そして、マルセイユでの対戦。フェフェさんは目を輝かせるようにしながら、この試合の後半8分のシーンについて語った。酒井がネイマールの股抜きを読み、左ひざでブロックしたプレーだ。

「酒井選手がひざを使ってネイマールのドリブルを防いだ素晴らしいプレーは、今も私の記憶に鮮明に残っています。ネイマールは酒井選手に攻撃を防がれたせいで普段の力を出せず、歯ぎしりしたことでしょう!」

2017年11月の国際親善試合、日本vsブラジル戦でネイマールとマッチアップ
2017年11月の国際親善試合、日本vsブラジル戦でネイマールとマッチアップ写真:ロイター/アフロ

柏レイソルに所属していた2011年のクラブワールドカップでサントス所属のネイマールと初のマッチアップ
柏レイソルに所属していた2011年のクラブワールドカップでサントス所属のネイマールと初のマッチアップ写真:アフロスポーツ

■マルセイユの「サムライ」としての地位を確立した酒井

 リーグアンで「ル・クラスィク」と呼ばれる伝統の一戦での勝利で、酒井の評価は完全に定まった。

「酒井選手はマルセイユで『サムライ』としての地位を確立しました。彼は、何シーズンにもわたってぶれることなく真剣に戦い、結果を出し続けるという武士精神を、マルセイユサポーターだけでなく、フランスのサッカーファンに見せつけました。彼がマルセイユでプレーした5年間、リーグアンの右サイドバックとして最高のプレーヤーの1人であったことは揺るぎない事実です」(フェフェさん)

酒井宏樹のネーム入りの日本代表ユニフォームを着るアレクサンドル・フェフェさん(撮影:矢内由美子)
酒井宏樹のネーム入りの日本代表ユニフォームを着るアレクサンドル・フェフェさん(撮影:矢内由美子)

■マルセイユの英雄バジール・ボリもプレーした浦和へ

 フェフェさんは、酒井が現在所属している浦和レッズが、かつてマルセイユの英雄として名をはせたバジール・ボリ(元フランス代表DF)もプレー(1996、97年)したチームであることに、奇遇な思いを感じているという。

「マルセイユサポーターは年齢に関係なくバジール・ボリのことを知っているし、これから生まれてくるマルセイユサポーターも必ず彼のことを知ることになります。なぜならボリは神様のような存在だから。偉大な選手である最大の理由は、1993年5月26日の欧州CL決勝でACミランに勝った時、決勝点を入れたのがボリだったからです。考えてみると、浦和とマルセイユでプレーした選手は世界中に酒井選手とボリだけ。面白いことだよね」

1996年、浦和レッズ時代のバジール・ボリ
1996年、浦和レッズ時代のバジール・ボリ写真:岡沢克郎/アフロ

2021年夏から浦和レッズでプレーする酒井宏樹
2021年夏から浦和レッズでプレーする酒井宏樹写真:森田直樹/アフロスポーツ

■「浦和の酒井」「日本代表の酒井」へエール

 フェフェさんは、来年のカタールでのワールドカップに酒井が出場することも願っている。今夏の東京五輪では、マルセイユ時代に酒井の盟友だったフロリアン・トヴァン(現メキシコ・ティグレス)がオーバーエイジとしてU-24フランス代表でプレーし、同じくオーバーエイジとしてU-24日本代表でプレーする酒井と対戦。この試合では日本が4-0で勝利し、酒井も点を入れた。

 フェフェさんは、カタールワールドカップで日本とフランスが対戦した場合は、前回のロシアワールドカップ優勝チームとしてフランスが貫禄の勝利を飾ることを信じつつ、酒井のことも応援したいという。

「フランスと日本は今年のオリンピックでも対戦しましたね。東京オリンピックのフランスはベストメンバーではなかったけど、トヴァン選手も酒井選手も出ていたので面白い巡りあわせだと思って見ていました。カタールワールドカップでは酒井選手を見るのも楽しみだけど、もちろんフランス代表を応援します。ただ、酒井選手にはカタールでも活躍してほしいので酒井選手のことは応援しますよ」

 フェフェさんは最後に酒井へこのようなエールを送った。

「浦和レッズが日本のトップクラスのチームであることは知っています。欧州で多くの経験を積んだ彼は、きっと日本のこの素晴らしいチームでも活躍してくれていることと思います。フランスサッカーに大きな功績を残してくれたヒロキ、僕は日本での新たな活躍を心から応援しているよ。本当にありがとう

協力(通訳):服部玲子

サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター

北海道大学卒業後、スポーツ新聞記者を経て、06年からフリーのスポーツライターとして取材活動を始める。サッカー日本代表、Jリーグのほか、体操、スピードスケートなど五輪種目を取材。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。スポーツグラフィックナンバー「Olympic Road」コラム連載中。

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