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女子W杯制覇から9年。浦和レッズレディースFW安藤梢が信じる「スポーツの力」

矢内由美子サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター
2020プレナスなでしこリーグ第1節に途中出場した安藤梢(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

「7月17日」は、なでしこジャパンが2011年にドイツで行われた女子ワールドカップ決勝で米国を下して初優勝を飾った“なでしこ記念日”とも言える日だった。

 11年3月11日に起きた東日本大震災で打ちひしがれていた日本国民に勇気を与え、再生と復興への活力を与えた歴史的快挙から9年。世界は今、誰もが予期していなかった苦境に直面しているが、そんなときだからこそ、耳を傾けたい人がいる。浦和レッズレディースのベテランFW安藤梢だ。

「9年前の女子ワールドカップ開幕時、私はドイツに住んでいたのですが、日本が震災後の大変な状況の中で、最初は本当に今、サッカーをやって良いのかという気持ちがありました。でも、自分たちにできることは、プレーで日本を元気にさせること。それしかないと考えて初戦に臨んでいたように思います」

 11年の女子ワールドカップで、なでしこジャパンは試合を重ねるごとに成長していった。安藤はチームの中にいてそれを感じ取っていた。強くなっていったのは選手たちが気持ちをひとつに重ね合わせ、今自分がやるべきことに全精力を注ぎ込んでいたからだ。

 誰かが倒れれば、別の誰かが補う。先発もベンチメンバーも互いが結束し合い、「勝利」にまい進したから描けた上昇曲線だった。

 それから9年。今年は再びスポーツ界が何をできるかが問われる1年になっている。

 3月には東京五輪の1年延期が決まり、6月には日本が招致していた23年女子ワールドカップの立候補を、投票の直前に取り下げるというショッキングなことも起きた。同じく6月には、21年秋開幕予定の女子プロサッカーリーグ「WEリーグ」の立ち上げが発表されたが、そこにも困難がつきまとう

 けれども、安藤は言う。

「今は、世の中の人々みんなが不安を抱いていると思うのですが、ここから日本を明るくしていくには、スポーツの持つ力がすごい大事なのではないかと思っているんです」

 中でも安藤が期待を寄せているのは、東京五輪の開催が、世界中を元気にする契機になるのではないかということだ。

オンラインでインタビューに応じた安藤梢(撮影:矢内由美子)
オンラインでインタビューに応じた安藤梢(撮影:矢内由美子)

■日本中の空気を一変させた女子ワールドカップ制覇

 思い返せば9年前の11年は、なでしこジャパンが世の中の空気を一変させた。ただ、一方で安藤は、選手である自分たちが震災の被災者から応援してもらうことが大きな励みになっていたと言う。

「震災で大変な人たちから『頑張って』と言われることがどれだけ力になったか。自分たちが持っているもの以上の力を出すことができたのは、応援のお陰です。あのときは日本中が1つになり、元気になっていったという実感がありました。私はそれを実際に体験しているので、スポーツの持つ力のすごさを信じているんです」

 ドイツでの女子ワールドカップで、日本はそれまで勝てなかったドイツや米国に勝つことができた。

「目の前に対戦相手が現れた時に、絶対に悔いが残らないように全部出し切って戦おうとみんなで決めて臨んだのが大きかった。あの時の仲間は本当に最高でした。試合に出ている選手も、スタメンじゃない選手も1つになって戦っていたと、今も思い出します。全員で体を張って、強豪国に最後まで諦めない気持ちを出せました」

 そういう意味で現在のなでしこジャパンに、多少のもどかしさを感じているのも事実だ。 

「女子サッカーの過去の先輩たちからずっと受け継いできてる、諦めないで最後まで戦う気持ち、ひたむきに戦うというところが、正直、今の代表には少し足りないのではないかと思っています。上手さだけじゃなく、そういうところで人を感動させられる。それがなでしこの良さかなと思います」

 安藤はあえて厳しい言葉で思いを表現した。

■7月18日、なでしこリーグが開幕した

 7月18日(土)には「2020プレナスなでしこリーグ」が始まった。森栄次監督が指揮を執って2季目となる浦和レッズレディースの目標は、14年以来6年ぶりとなるリーグ制覇だ。

 開幕戦の相手はジェフユナイテッド市原・千葉レディースで、浦和は4-2で快勝した。森監督が推し進める戦術は、1人がボールを奪った時に、周りがすばやく連動して各ポジションに動き出し、攻撃に繋げていくというサッカー。しっかりとボールを握り、主体性を持ってゲームをコントロールしていこうという考えは、昨年から変わらない。

 選手たちは自粛期間中も各自がそのイメージを持ち続けていたといい、6月の全体練習開始時から体が戦術にフィットしていくのにはさほど時間は掛からなかったようだ。

 ドイツから古巣の浦和に復帰して4年目の安藤も、頂点を目指してモチベーション高く毎日を過ごしている。

「優勝するためにドイツから帰ってきたと言って、まだできてないので、浦和レッズレディースで優勝したいという思いはすごく強いです。去年は皇后杯で決勝まで行きましたが、結局優勝できませんでした。(※日テレ・ベレーザに敗れて準優勝)今年は絶対にタイトルを獲りたいと思っています。個人としては、プレーでも引っ張っていきたいですし、ゴールを取りたい。ゴールを決めて、サポーターのみんなに元気を与えたい、喜んでもらいたい。それが目標です」

 最後に、1年後の東京五輪をどのように視野に入れているのかを尋ねた。

「高倉麻子監督になってから一度も呼ばれてないので、悔しいなと思っているんです。プレーしている以上は、やっぱり常に頭の中に日本代表はあります。なでしこリーグで良いプレーを見せたら一発逆転というか、可能性があると思ってやっていますよ」

 さわやかな笑顔とひたむきなプレーは健在。元気をもらいたいときは、なでしこリーグを見に行こう。

※なでしこリーグは第3節から有観客試合の実施を予定している。浦和レッズレディースの第3節は8月2日(日)17時から、ホームの浦和駒場スタジアムで日テレ・東京ヴェルディベレーザと対戦する。

力こぶでやる気満々の安藤梢(撮影:矢内由美子)
力こぶでやる気満々の安藤梢(撮影:矢内由美子)
サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター

北海道大学卒業後、スポーツ新聞記者を経て、06年からフリーのスポーツライターとして取材活動を始める。サッカー日本代表、Jリーグのほか、体操、スピードスケートなど五輪種目を取材。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。スポーツグラフィックナンバー「Olympic Road」コラム連載中。

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