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PCR検査3070件すべて陰性。20会場20試合完遂のJリーガーが示した執念

矢内由美子サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター
無観客で行われたJ2京都対磐田(サンガスタジアム by KYOCERA)(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

 COVID-19による“コロナ禍”で2月下旬から4カ月以上も中断を余儀なくされていたJリーグが先週、ようやく再開した。

 6月27日にはJ2の9試合とJ3の7試合がキックオフ。同28日にはJ2の2試合とJ3の2試合が行われた。

 2日間で開催されたのは20試合。出場は40チーム。全国各地に散らばったスタジアムのすべてで無事に試合を終えられた陰には、関わるすべての人々の尽力があった。中断期間にCOVID-19の及ぼした影響が都道府県によってさまざまだったことを思い返せば、土日の2日間で20会場20試合を完遂したことは、努力のたまものだ。

■全国各地のスタジアムで計20試合

 試合を一斉に開催できたのは、他競技にさきがけていち早くリーグ中断を決め、NPB(日本野球機構)との連携プラットフォームを確立させたJリーグのリーダーシップが大きい。それは言うまでもない。

 しかし、決して忘れてはならないことがある。それは、「サッカー観戦を楽しむ日常を取り戻したい」というファン・サポーターの心の叫びと温かい支え、そして、人々の思いに応え、自身の生きる術であり生活基盤であるJリーグを是が非でも再開させなくてはならないと考えたJリーガーたちの、規律に則った行動だ。

 Jリーグの再開案が決まりつつあった6月上旬に、名古屋グランパスの金崎夢生とランゲラックの新型コロナウイルス感染が明らかになったときは、スポーツファン全体に緊張感が走ったが、これも結果的には気の緩みを引き締める材料となったのではないか。

 Jリーグが6月18日から21日までに全選手と審判(※7月2日注記を文末に追加)を対象に行った唾液によるPCR検査で、実に3070件すべてが陰性だったことは、安堵と同時に驚きをもたらした。検査の精度が100%でないことは承知しているが、それでもこの結果は驚異的だと思う。

 症状が出ていない陽性者がいる可能性もあった中、全員が陰性だったのは、Jリーガーはもちろん、その家族、そして関係者の意識の高さの表れだ。愛するサッカーを守らねばならない。Jリーグに関わるすべての人々の生活を守らねばならない。そういった高い意識がJリーガーたちにはあった。

 金崎とランゲラックは6月15日に退院。6月22日にはランゲラックが、6月30日には金崎が全体練習に合流したというニュースが流れた。前述の通り、6月18日から21日までにJリーグが行ったPCR検査は全選手が対象。当然ながら2人も検査を受けている。

 PCR検査で陰性であることはJリーグの試合登録の条件のひとつだ。Jリーグ検査センターによるPCR検査は今後も2週間に一度の頻度で、今シーズンが終了する12月まで継続すると発表されている。

 検査は安心につながる。が、一方では、24時間、気を抜くことができないため、家族も含めて相応のストレスがかかる。しかもリーグ再開後の選手たちは、夏場の超過密日程をこなしながら、感染リスクを極力排除する生活を毎日続けていくのである。

■6月27日、再開初戦のフクアリで

 J2とJ3が再開した6月27日、筆者はジェフ千葉対大宮アルディージャ戦を取材した。取材人数が大幅に制限されていることを含め、会場のフクアリには厳戒態勢が敷かれていた。

 そこで感心させられたのは、スタジアム周辺にサポーターの姿がまったくなかったことだ。サポーターはそれぞれの場所で、できる限りの応援をしようと心を合わせていたのだ。

 フクアリでは試合中に、ファン・サポーターの声を録音した「WIN BY ALL」の応援歌がスタンドに流れ、視聴者がリアルタイムで歓声や拍手を送る「リモートチアラー」という遠隔応援システムを導入していた。

 試合状況に応じて音声も盛り上がるというシステムは、キックオフ時の気温24・9度、湿度85%という、4カ月ぶりの公式戦初戦としては過酷このうえない条件で戦う選手の後押しになったと思う。

 実際にスタジアムで聞こえた音声と、DAZNの映像の両方を確認したが、両方ともほぼ似たような聞こえ方だった。今季から千葉に加入し、キャプテンマークを巻いてプレーした元日本代表MF田口泰士は、「良いモチベーションになりました」と、無観客という条件下での次善策を前向きにとらえていた。実際、ピッチで田口が見せたパフォーマンスはさすがの存在感。試合は1-0で大宮が勝利したが、最後まで両チームの選手が全力で走りきる姿が目に焼き付いた。

■Jリーガーとサポーターにエールを

 今週末(7月4日)にはJ1がリスタートする。J1はミッドウィークの8日にもすぐに試合がある。

 今後も定期的に行われるPCR検査で陽性者がつねにゼロを続けられるかどうかは分からないが、Jリーガーがこの4カ月間と同様に、優先順位をしっかりとわきまえた生活を続ける限り、リスクは最小限にとどめられるはずだ。

 勇気を持ってリーグ再開日を決め、そこに向かってあらゆる努力をし、再開にこぎつけたJリーグ。そして、次のハードルであるリーグ戦の成立へ向けて、ピッチ内のみならずピッチ外でも緊張感を持続させていかねばならないJリーガーへ、さまざまな忍耐を強いられるサポーターへ、心からのエールを送りたい。

※注記(7月2日追加)

新聞各紙の7月2日の報道によると、Jリーグは6月27、28日にJ2が再開、J3が開幕を迎えたが、検査対象だったはずの全審判員がPCR検査を受けずに試合に臨んでいたことが1日、判明した。

J2・J3の全審判PCR検査受けていなかった 検体採取準備間に合わず

サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター

北海道大学卒業後、スポーツ新聞記者を経て、06年からフリーのスポーツライターとして取材活動を始める。サッカー日本代表、Jリーグのほか、体操、スピードスケートなど五輪種目を取材。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。スポーツグラフィックナンバー「Olympic Road」コラム連載中。

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