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【スピードスケート】金メダル2つの衝撃から2年。27歳の高木菜那が見せた成長

矢内由美子サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター
今季はコーナーの磨きが掛かった高木菜那(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

■世界選手権オールラウンド部門で自己最高8位

 スピードスケートのW杯最終戦(オランダ・ヘーレンフェーン)が終了し、世界選手権も含めて今シーズンの主要大会がすべて終了した。

 W杯総合では女子500mの小平奈緒と男子500mの新濱立也が優勝、女子1000mの小平と女子1500mの高木美帆が2位に入るなど大活躍だった日本勢。その中で、個人種目での表彰台こそなかったものの、珠玉の滑りで成長をアピールしたのが、27歳の高木菜那(日本電産サンキョー)だ。

 特に、2月の世界距離別選手権(米国ユタ州ソルトレークシティー)では、女子チームパシュートで世界記録を樹立して金メダルを獲得。1500mでは前週のW杯カルガリー大会と合わせて2レース連続で自己ベストを出し、1分52秒72のタイムで自己最高の8位と気を吐いた。昨季までの自己ベストより2レースで約3秒短縮するという目覚ましさだった。また、3月1日に最終日を迎えた世界選手権オールラウンド部門では自己最高にして女子の日本勢最高である8位になった。

27歳でますます成長している高木菜那(撮影:矢内由美子)
27歳でますます成長している高木菜那(撮影:矢内由美子)

■右ヒザの故障が癒えた今季

 14年ソチ五輪でオリンピックにデビュー。妹の美帆とともに出場した18年平昌五輪では、女子チームパシュートと女子マススタートの2冠を達成し、冬季、夏季五輪を通じて日本女子初となる同一大会での複数金メダルを手にした。だが、快挙の裏には数年間にわたって悩まされてきた右ヒザの痛みもあり、個人種目では世界の上位から大きく水を開けられていた。

 ところが、今季は違った。ケガが癒えてオフシーズンのトレーニングを十分にこなせたのが大きな理由だ。平昌五輪シーズンは代表選考会でギリギリのラインを何とか突破して五輪切符をつかんだが、今季は1500mなら美帆、小平に続く3番手あたりの実力をつけ、専門外の1000mでも自己ベストを出した。

 しかし、菜那は気を緩めない。

「1000mも1500mも、前にベストを出してから何年もたっていました。特に1500mはソチ五輪シーズンの記録だったから、もう、6年前。記録は更新したけど、もっと伸ばしていかないといけない。ひとつひとつステップアップしていきたいです」

妹の美帆(右)とはチームパシュート仲間。北京五輪でも金メダルを狙う(撮影:矢内由美子)
妹の美帆(右)とはチームパシュート仲間。北京五輪でも金メダルを狙う(撮影:矢内由美子)

■川原氏「カーブが上達した」

 技術面での改善点はどの部分か。76年インスブルック五輪、80年レークプラシッド五輪代表の川原正行氏(帯広スケート連盟競技役員)は菜那の変化をこのように見ている。

「以前よりスピード持久力(ハイスピードで滑りながらの持久力)がついた。ケガが治って身体にすごくキレが出ていた。以前は体重移動の際に上体がブレて頭が左右に揺れていたが、全然なくなった。今は完全にきちっと体を使えている。特に上達したのはカーブ。コーナーの中盤からスピードを殺さないで出口に出ている」

 菜那自身は1000mでつけたスピードを1500mにも生かせているという手応えも持っており、「ケガをしていた間は、なかなか個人種目に出られなかった。もっと個人種目でもタイムを出すように進化していきたい」と来季に向けても目を輝かせている。

■まずは「世界の5番以内へ」

 自身が成長している一方で、世界のレベルも上がっている。平昌五輪では金メダルを2つ獲得するという日本女子初の快挙を成し遂げたが、「もう、どんどん速い選手が現れていますから」と謙虚な姿勢を崩す様子はない。

「特に3000mは世界全体が上がっていて、自分のタイムは上がっても世界で10番だったりする。もっと上で戦うためにはもっと記録を出していかないといけないです」

 決して満足する様子を見せない菜那が目指すのは、いずれ表彰台を狙うためのあしがかりとなる順位だ。

「世界の5番以内にいけるようにがんばっていきたい。ただ、急には無理なので、ひとつひとつやれることを積み重ねていきたいです」

 男女を通じて日本勢最多の4種目(1500m、3000m、女子チームパシュート、女子マススタート)に出場した世界距離別選手権では、全レース終了時に「1500mのベストは自分をほめてあげたい」と頬を緩めていた。ケガなどで思い通りにいかないときも決して弱音を吐かず、地道な努力を重ねる冬のヒロイン。2年後の北京五輪で、金メダル2つを獲った平昌五輪以上の輝きを見せるべく、確かなステップを踏んでいる。

W杯カルガリー大会で掲げられていた応援バナー(撮影:矢内由美子)
W杯カルガリー大会で掲げられていた応援バナー(撮影:矢内由美子)
サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター

北海道大学卒業後、スポーツ新聞記者を経て、06年からフリーのスポーツライターとして取材活動を始める。サッカー日本代表、Jリーグのほか、体操、スピードスケートなど五輪種目を取材。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。スポーツグラフィックナンバー「Olympic Road」コラム連載中。

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