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【スピードスケート】12年周期の2枚看板への期待。新濱立也&村上右磨はワンツーフィニッシュを目指す

矢内由美子サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター
19年12月のW杯長野大会で優勝した村上右磨(右)と2位の新濱立也(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

 スピードスケートの今季ハイライトとなる世界距離別選手権は2月13日から16日(日本時間同14日~17日)に、標高1400mの高地ソルトレークシティーで行われる。

 小平奈緒&高木美帆のダブルエースが世界記録樹立とタイトルを狙う女子に続き、今季は男子短距離陣にも堂々たる“2枚看板”が誕生している。

 男子500mの日本記録保持者で、世界歴代2位の33秒79を持つ新濱立也(高崎健康福祉大学職員)と、日本歴代2位の34秒10の自己ベストを持つ村上右磨(高堂建設)だ。

 新濱はナショナルチーム入り1年目で初のW杯参戦を果たした昨シーズン、急速な台頭を見せ、世界スプリント選手権で2位になり、3月のW杯ファイナルでは世界初の2日連続33秒台を記録した。ここまでW杯通算3勝を挙げている。

 村上はW杯参戦4年目の今季、一段階上のレベルにステップアップした。昨年12月のW杯長野大会でリンクレコードとなる34秒58を出して初優勝。遅咲きと言える27歳での初優勝で、一気に自信を深めている。 

■12年周期の2枚看板法則

 今季の2人はW杯長野大会でワンツーフィニッシュを飾るなど、男子短距離陣を牽引する立場になった。そして今、かつて12年周期で到来し、五輪のメダル獲得を実現してきた「2枚看板の再現」との期待が高まっているのである。

 振り返ると長野五輪前の96年は、世界距離別選手権男子500mで清水が金メダルに輝き、翌97年には堀井が同種目の金メダルを獲得した。当時は所属チームのライバル心も激しく、両陣営は互いに火花を散らし、刺激し合いながら長野五輪を迎えた。結果は清水が日本スピードスケート界初の金メダルを獲得。一方の堀井はメダルに届かなかったが、高いレベルで競い合ったことが、清水を後押ししたのは間違いない。

 その12年後の10年バンクーバー五輪では、長島圭一郎と加藤条治がしのぎを削り合い、男子500mで長島が銀、加藤が銅を獲得している。2人はともに日本電産サンキョーに所属しながら、それぞれが手の内を見せぬようにバラバラに練習することでフィジカルとテクニックを磨き上げていた。

 北京五輪はバンクーバー五輪から12年後の22年に開催される。前例をなぞれば、新濱と村上が互いに高め合うことでメダルの期待が膨らむのは自然なことだろう。 

■W杯カルガリー大会で高速リンク足慣らし

 ソルトレークシティーでの世界距離別選手権に先駆けて、2人は他の日本勢と一緒に標高1000mのカナダ・カルガリーでのW杯に出場。高速リンクでの足慣らしは済んでいる。

 カルガリーで村上は男子500m34秒25で6位。

「若干力みもあり、上体も高かったことがタイムが伸びなかった原因。ただ、来週(世界距離別選手権)に向けては良い感じになってきている」と手応えをつかんだ様子だった。

 一方、34秒22で4位だった新濱は、第1カーブの出口でバランスを崩すミスがあり、後半の伸びを欠いたという。

「感覚的には、ミスが無ければ優勝は出来たのではないかと思っている。ミスは言い訳にしかならないが、それくらい調子は上がってきている」とこちらも強気だ。

 2人には、そろって男子スケート界を引っ張っていくのだという自覚がある。

 新濱はこのように話している。

「男子短距離が低迷していたところをもう一度引き上げてきたのは、自分と村上さんだと思っている。僕自身の村上さんに対してのライバル心はすごく強いが、世界大会に来たらライバルであり、ナショナルチームのチームメイトでもある。2人で強くなって表彰台に上がりたい。自分は、どちらが1位でも一緒にワンツーで上がりたいという気持ちを強く持っている」

 村上も、新濱を意識しながらも自分にフォーカスし、頂点を狙っている。

「今季はロシア勢がものすごく強いが、自分も新濱もつねにトップで戦える実力はある。世界距離別では複数人で表彰台に上がれればいい。ベストを尽くして滑れば結果はついてくることが分かっている」

 “2枚看板の時代”にはいつもライバル同士が互いに認め合っているからこそのストーリーが生まれてきた。ともにナショナルチームで汗を流している新濱と村上がこれから積み重ねていく日々は、今までにないストーリーにつながっていくのではないかという期待を持たせてくれる。

 W杯カルガリー大会では、1位から3位までをロシア勢が独占した(1位ムラショフ=34秒04、2位クリズニコフ=34秒05、3位ムスタコフ=34秒06)が、世界距離別選手権では自分たちが複数で表彰台に上がるつもり。最高なのはもちろんワンツーフィニッシュ。そこで得た自信を北京五輪につなげていくつもりだ。

 

◆新濱立也(しんはまたつや)  1996年7月11日生まれの23歳。北海道野付郡別海町出身。3歳からスケートを始める。釧路商業から高崎健康福祉大学に進み、卒業後は同大職員。183センチ、89キロ。

◆村上右磨(むらかみゆうま)1992年12月12日生まれの27歳。北海道広尾郡大樹町出身。3歳でスケートを始め、未経験の父の指導を受けて育つ。帯広工業出身。今季から高堂建設所属。177センチ、77キロ。

サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター

北海道大学卒業後、スポーツ新聞記者を経て、06年からフリーのスポーツライターとして取材活動を始める。サッカー日本代表、Jリーグのほか、体操、スピードスケートなど五輪種目を取材。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。スポーツグラフィックナンバー「Olympic Road」コラム連載中。

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