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【スピードスケート】小平奈緒の世界記録樹立は?高木姉妹は? 今シーズンを展望する

矢内由美子サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター
2019年世界スプリント選手権で滑る小平奈緒(写真:ロイター/アフロ)

 スピードスケートのシーズン開幕を告げる「全日本スピードスケート距離別選手権」は10月25日に開幕し、27日まで3日間にわたって熱戦が繰り広げられる。今大会は9月にオープンしたばかりの青森県八戸市長根屋内スケート場「YSアリーナ八戸」で行われ、女子は小平奈緒(相澤病院)、高木菜那(日本電産サンキョー)、高木美帆(日本体育大学)、佐藤綾乃(ANA)の平昌五輪金メダリストたち、そして男子は昨シーズン大きく羽ばたいた新濱立也(高崎健康福祉大学)らが出場する。

 今シーズンの日本勢はどのような戦いをしていくだろうか。76年インスブルック五輪、80年レークプラシッド五輪出場の川原正行氏(帯広スケート連盟競技役員)に展望してもらった。

■女子短距離:安定感で群を抜く小平

 川原氏が真っ先に挙げたのは小平奈緒だ。10月上旬に帯広で行ったタイムトライアルでは、昨シーズンの同時期とほぼ同じタイムで滑った。

「小平選手の安定感は群を抜いている。滑りの出力、テクニックとも申し分なく、近年は精神面でさらに立派になっている」

 川原氏は、小平がW杯で連勝街道を歩み始めた17ー18シーズンからの強さに陰りはないと見ている。

 小平に関していえば、女子500mの世界新記録を樹立できるかにも注目が集まるだろう。昨シーズンは、19年3月9日に米国ソルトレイクシティーであったW杯ファイナルで世界歴代2位となる36秒47の日本記録をマークした。李相花(韓国)が13年11月16日に同地で出した36秒36には0秒11及ばなかったが、新記録の射程内に来ている。

 ただ、李の記録はあらゆる条件がそろった中で生まれたとてつもないハイレベルなタイムである。川原氏は言う。

「小平選手には世界記録に匹敵する力が十分にある。今シーズンのチャンスは来年2月のカルガリーW杯(2月7~9日)かソルトレイクシティーでの世界距離別選手権(同13~16日)。さまざまな条件が整えば記録樹立のシーンが見られるかもしれない」

 女子短距離では、昨シーズンの休養から復帰した郷亜里砂(イヨテツスピードクラブ)にも注目している。平昌五輪のシーズンにはW杯の表彰台に4度上がった実力者だが、五輪本番では8位と力を出し切れなかった。しかし、川原氏によれば、帯広での練習では往時の力を取り戻している様子がうかがえたという。

 べテランの辻麻希選手(開西病院)もさすがの安定感がある。34歳になった今も瞬発力は健在で、100mでは小平にも負けない。昨シーズンの最後に36秒99の自己ベストを出した曽我こなみ(日本ハウス・ホテル&リゾート)はやや出遅れている感があるので、ここからどう上げていくか。

 若手の注目株は稲川くるみ(大東文化大学2年)と熊谷萌(山梨学院大学1年)。川原氏は「この二人は台風の目になる可能性がある」と期待を寄せる。

■男子短距離:松井大和(まつい・やまと)の躍進に期待

 男子短距離では昨シーズン、大学3年生で全日本学生選手権スプリント部門で総合優勝を飾った松井大和(日本大学4年)が目を引く存在だ。ナショナルチームで鍛えている新鋭は、ベストの500m34秒96をどこまで縮めていくことができるか。

今年からナショナルチーム入りした松井大和(撮影:矢内由美子)
今年からナショナルチーム入りした松井大和(撮影:矢内由美子)

 また、帯広でのトレーニングでは、今シーズンから高堂建設所属となった実力者の村上右磨の動きに切れがあった。一方で、昨シーズンのW杯ファイナルで33秒79の日本新記録をマークするなど、才能が開花した大型スプリンターの新濱立也は、現時点ではやや苦しんでいる様子だという。

「新濱選手はモンスター級の身体能力の持ち主。外国人にも劣らないフィジカルを持っている」(川原氏)。ここからしっかりと立て直していけるか。新濱の日本記録は同じレースで後に滑ったクリズニコフが33秒61を出すまでは、数分間ではあるが世界記録だった。今シーズンもさらに上を目指したいところだ。

 五輪に四度出場しているバンクーバー五輪銅メダリストの加藤条治(博慈会)の一発の魅力にも注目したい。

↓村上右磨も実力を伸ばしている

今シーズンから高堂建設に入った村上右磨(撮影:矢内由美子)
今シーズンから高堂建設に入った村上右磨(撮影:矢内由美子)

■女子中長距離:体が一回り大きくなった高木菜那

 女子中距離に目を移すと、昨シーズンのW杯ファイナル1500mで1分49秒83の世界記録を打ち立てた高木美帆の牙城は揺るがないが、その一方で今シーズンは高木菜那の充実ぶりも目を引くという。

「美帆選手の安定感は相変わらず抜群だが、菜那選手もかなり良い状態にある。リンクでの滑りを見ていて、体が一回り大きくなり、スケールアップしたように感じる。全日本距離別の1500mと3000mは姉妹でワンツーもあるだろう」と川原氏は話す。

 3番手争いに名乗りを上げているのは酒井寧子(ねね)(富士急行)。平昌五輪チームパシュート金メダルの実力者である佐藤綾乃や、このところ伸びている小野寺優奈(高崎健康福祉大学4年)と競うことになる。

 長距離の3000m、5000mではウィリアムソンレミ(大東文化大学2年)や小坂凛(山形中央高校3年)といった若手が大いに力を伸ばしてきた。進境著しい彼女たちの成長にも期待の目を向けたい。

高木菜那(左)と美帆(撮影:矢内由美子)
高木菜那(左)と美帆(撮影:矢内由美子)

■男子中長距離:高3の注目株・蟻戸一永(ありと・もとなが)

 男子中距離の1000mと1500mでは社会人1年目の山田将矢(日本電産サンキョー)に勢いがある。昨シーズンは全日本スプリントで2位になり、世界スプリントでは6位入賞を果たした。

 得意種目が短距離寄りの山田をはじめ、1500mは争いが熾烈。平昌五輪1000m5位、1500m5位の小田卓朗(株式会社開発計画研究所)や、一戸誠太郎(ANA)、近藤太郎(ANAエアポートサービス)、ウィリアムソン師円(日本電産サンキョー)がしのぎを削る中、一発の強さを持つ三輪準也(フィットラボ)やベテランの藤野裕人(オカモトグループジョイフット)がどう食い込むか。

 長距離では昨年10月の全日本距離別選手権5000mで3位と表彰台に上がって注目され、高校生の大会では長距離のタイトルをほぼ総なめにした蟻戸一永(白樺学園高校3年)の成長が著しい。

5000m、10000mが得意な蟻戸一永(撮影:矢内由美子)
5000m、10000mが得意な蟻戸一永(撮影:矢内由美子)

 平昌五輪で3種目に出た土屋良輔(株式会社メモリード)と、土屋陸(日本電産サンキョー)の“ダブル土屋”の争いにも注目だ。川原氏は「前半型の陸選手とイーブンペースで刻む良輔選手には試合展開に違いがあって、見ていて面白いと思う」と話す。さらに注目株として、川原氏は社会人2年目の伊藤高裕(日本電産サンキョー)の名前も挙げた。 

 今シーズン、日本は男女とも全種目で最大となる5枠を確保している。数年前は枠の確保にも苦労していただけに、この状況をフルに生かして、日本勢全体の底上げにも役立てたい。

◆YSアリーナ八戸(長根屋内スケート場)◆

 住所は青森県八戸市大字売市字輿遊下3。国際規格の400mダブルトラック(16m幅)のスケートリンクのほか、16×16mのサブリンクや、通年で使える多目的コートなどがある。固定観客席は約3000席。リンクを解氷したアリーナ全体の活用時には9000人収容となり、コンサートやコンベンションなど多目的に使用できる。

サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター

北海道大学卒業後、スポーツ新聞記者を経て、06年からフリーのスポーツライターとして取材活動を始める。サッカー日本代表、Jリーグのほか、体操、スピードスケートなど五輪種目を取材。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。スポーツグラフィックナンバー「Olympic Road」コラム連載中。

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