Yahoo!ニュース

久保建英はコパ・アメリカでどれくらい成長したのか。「正々堂々」としたコメントから読み取る

矢内由美子サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター
コパ・アメリカに出場した久保建英(写真:ロイター/アフロ)

 6月8日の国際親善試合エルサルバドル戦の67分から途中出場し、歴代で2番目に若い18歳と5日で日本代表デビューを飾った久保建英にとって、日本代表選手としての最初の主要大会となったのが、日本が招待国として参加した「コパ・アメリカ(南米選手権)」だった。

 大会直前、「正々堂々と戦って、良い結果を出すだけです」と抱負を述べていた久保は、グループリーグ初戦のチリ戦で代表初先発とフル出場を果たし、ウルグアイとの第2戦では2-2だった83分から途中出場。勝てば決勝トーナメント進出となったエクアドル戦では再びフル出場した。

 3戦合計のプレータイムは187分。彼自身が普段から強く意識している「チームを勝たせること」はかなわなかったが、老獪かつインテンシティーの高い南米勢を相手に次々と好機をつくり出す様は、これまた彼が意識している「誰が見ても凄いと分かる選手」への第一歩として、十分なインパクトがあった。

 ミックスゾーンでの取材ではさまざまな位置から繰り出される質問に対し(しかもスペイン語が挟まれたときもある)、しっかりと質問者の方へ顔と体を向け、記者の目を見て答える姿が印象的だった。久保がプロフェッショナルとしての高い資質を見せるのは、ピッチだけではないのだ。そのうえ彼の口から発せられる言葉はいつも「正々堂々」としている。

 6月2日の代表初合流から6月24日(日本時間25日)の大会敗退決定までの3週間余りに18歳の彼がどれほど“成長”したのかを、コメントから読み取ってみたい。

■「劣勢時にリミッターが外れる」

 第1戦のチリ戦は17日(日本18日)にサンパウロのモルンビースタジアムで行なわれ、日本は0-4で敗れた。久保は4-2-3-1のトップ下でプレー。13分に左サイドでボールを受けると、トラップ一つでMFエリック・プルガルを抜き去って前線に運び出した。ハイライトは65分。左サイドでボールを受けて、MF中山雄太とのワンツーでペナルティーエリア内に侵入し、挟みにきた相手DF2人の間を瞬時に突破して左足でシュートを打った。

 このプレーについて、久保は素のままの言葉で振り返っている。

「チームが劣勢になったときに、たまにリミッターが外れるじゃないけど、何も考えずにスルスルと抜けるときがあります。でも、あそこで決めていれば、流れをこっちにググッと引き寄せられたと思うので、後悔しています。本当に悔しいです」

 2-2の引き分けで勝ち点1を手にしたウルグアイ戦については、このように振り返っている。

「自分が入るちょっと前ぐらいから 向こうも勝ち点3を取りに来ていて、ロングボールが増えていました。やっぱり相手には高さがあるので、自分が入ってからは守りの時間帯しかなかった。それでも、みんなで力を合わせて勝ち点1を取れたので、次の試合に望みをつなげられたと思います」

■「最初のタッチで『失敗したら』と…」

 このウルグアイ戦では、後半途中からピッチに立って代表デビューを飾った宮城でのエルサルバドル戦で、「最初のタッチでは『これを失敗したら…』と思いました」と、ファーストタッチでかなりの緊張感に包まれたことを話していたのと同様に、勝ち点1がノルマと言える状況で投入されたため、相当な緊張感を味わっていたことを吐露した。

「緊張していたというか、時間帯が時間帯だったので(監督の指示を)あまり覚えていません。守備をやりつつ、チャンスがあれば攻撃をという感じだったと思いますが、まずは自分が入ってからスコアがマイナスに動かずに良かったと思います」

 胸をなで下ろすような、ホッとした表情を浮かべるあたりには、初々しさも漂っていた。

 エクアドル戦では再びトップ下として先発復帰した。ここでは、1、2戦目と比較すればプレーが洗練されていない相手に対し、久保は鋭いドリブルや自在なパスワークで日本の攻撃を牽引した。久保が持てばチャンスになる。チャンスの前には久保が持っている。それに近いくらいのイメージだった。

■「成長というより、やれることをやれた」

 5月23日に日本代表に初選出されたときに「コパ・アメリカには良い意味での怖さがある」と話していたように、ブラジルに乗り込む前までは、強度やフィジカルの部分でどの程度やれるのかが未知の領域だった。しかし、初戦のチリ戦を終えた時には自分の中ではすでに解決を見ていたのだろう。

 久保は優勝候補筆頭にあげられているウルグアイとの試合の後、「相手というよりも自分たちの出来次第で勝敗も変えられる」ときっぱり言った。エクアドル戦の後に、これぐらいの高いレベルでもやれるという手応えをつかんだか? と聞かれると、「自分が持っているものを出せなかったら絶望しちゃうと思うのですが、そういうのはなかったですね」とサラッと言ってのけている。

 では、キリンチャレンジの合宿スタートからコパ・アメリカ敗退までの3週間で、階段を上がったという実感はあるのだろうか。

 久保は少し考えながらここでも率直な思いを言葉にしていた。

「自分では、階段を上るとかは分からないのですが、試合を90分なり、何分なり、戦うことがもう成長だと思います。後々感じるかもしれませんし、この後、ホテルに帰ってから感じるかもしれませんが、今は成長したなとパッと感じることはないです。どちらかというとやれることをやれたと思っています」

 久保の感触は、大会で成長したというよりも、持っている力を出せたというものだったのだ。

 思い起こせば、6月5日の親善試合トリニダードトバゴ戦はベンチ外。森保一監督は「彼は18歳になったばかりで、シーズンを通してチームを牽引するようなプレーを続けてきた。そして今は移籍報道等、いろんなプレッシャーがかかっている中、少し緊張の糸を緩めながら先に進んでいったほうがいいのかなという思いを持って彼を見ている」と、起用を見送った理由を説明していたが、その時点で指揮官の見立て以上に、臨戦態勢を整えていたのだろう。

6月23日、ベロオリゾンテで地元の子供たちと交流した日本代表(撮影:矢内由美子)
6月23日、ベロオリゾンテで地元の子供たちと交流した日本代表(撮影:矢内由美子)

■「ゴールは、入るときは入る」

 ウルグアイ戦では東京五輪世代の三好康児が代表初ゴールを含む2得点を挙げて、ヒーローになった。久保は三好を祝福しながら、「代表での初ゴールは先を越されてしまった」と負けん気をのぞかせた。けれども、「自分も(FC東京在籍時に)何回か連続でゴールを決めている試合があります。入る時は入るというのは今シーズン証明できているので、そこは 焦らずに行ければいいと思います」と前を向いた。

 久保は今後、レアル・マドリードに行く。代表初ゴールは自分自身が出場チャンスをつかめばいつか生まれるるだろう。その日の到来が楽しみだ。

日本対ウルグアイ戦。柴崎岳と久保建英が共有した“勝機のツボ”

サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター

北海道大学卒業後、スポーツ新聞記者を経て、06年からフリーのスポーツライターとして取材活動を始める。サッカー日本代表、Jリーグのほか、体操、スピードスケートなど五輪種目を取材。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。スポーツグラフィックナンバー「Olympic Road」コラム連載中。

矢内由美子の最近の記事