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【体操】“平成の清風コンビ” 三輪哲平と北園丈琉が描く未来~東京五輪まで500日

矢内由美子サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター
三輪哲平(左)と北園丈琉はオールラウンダーの星(写真:田村翔/アフロスポーツ)

 東京五輪まであと500日。加速的に盛り上がっていくであろう体操界に、駆け足で夢舞台への出場を目指している10代の選手たちがいる。

 大阪・清風高校3年生の三輪哲平(4月から順天堂大学に進学予定)と、同1年生の北園丈琉は、体操ニッポンの未来を輝かせる気鋭のオールラウンダーだ。

 清風と言えば、1988年(昭和63年)のソウル五輪に高校3年生で出場し、日本中に旋風を巻き起こした西川大輔&池谷幸雄のコンビが有名。彼らが“昭和の清風コンビ”ならば、三輪と北園は“平成の清風コンビ”である。

2018年11月23日、個人総合スーパーファイナルに出た三輪と北園(撮影:矢内由美子)
2018年11月23日、個人総合スーパーファイナルに出た三輪と北園(撮影:矢内由美子)

■スーパーファイナル2位でW杯出場権を獲得した三輪

 昨年11月23日に行われた個人総合スーパーファイナル。国内の精鋭12人のみが出場したハイレベルな大会で、関係者やファンをあっと言わせたのが、17歳(当時)の三輪だった。

 並み居る大学生やシニアの強豪を上回り、2017年世界選手権個人総合銅メダリストである白井健三に続く2位に入ったのだ。この大会は2019年の個人総合ワールドカップシリーズ(全4戦)の代表選考を兼ねており、三輪は1試合の出場権を獲得。今週末の3月16日に行われる2019個人総合ワールドカップ・ドイツ大会に出場する予定となっている。

 2017年国際ジュニア、2018年高校選抜、インターハイの個人総合を制している三輪は、跳馬と平行棒を得意とするオールラウンダー。高校生ながら非常にレベルの高い構成を持ち、特に跳馬では高難度で知られる「ロペス」や、それよりもさらにひねりが半分多い「ロペスハーフ」にも取り組んでいる。

 目指す選手は「美しく、ダイナミックさもある」という内村航平。目標は「オリンピックで団体に貢献して団体優勝し、個人総合でも優勝すること」だ。そのためには「プレッシャーのかかったところで技を決められる選手にならなければいけない」と意識が高い。

清風高校の体操場で平行棒の練習をする三輪哲平。平行棒は得意種目だ(撮影:矢内由美子)
清風高校の体操場で平行棒の練習をする三輪哲平。平行棒は得意種目だ(撮影:矢内由美子)
寡黙なタイプの三輪哲平(撮影:矢内由美子)
寡黙なタイプの三輪哲平(撮影:矢内由美子)
2018年11月25日の全日本団体選手権に清風高校のメンバーとして出場。左は今春に徳洲会に入る石澤大翔(撮影:矢内由美子)
2018年11月25日の全日本団体選手権に清風高校のメンバーとして出場。左は今春に徳洲会に入る石澤大翔(撮影:矢内由美子)

■ユース五輪5冠の“かわいいモンスター”北園

 北園は昨年10月、15歳から18歳までの若手アスリートを対象としたユース五輪(アルゼンチン)で、男子個人総合、種目別ゆか、つり輪、平行棒、鉄棒で金メダルを獲得し、5冠王となった。身長約150cm。表情にはまだあどけなさも残っており、シニアとジュニアのナショナルチーム合同合宿でともに練習した内村は「可愛いのでいろいろ教えたくなる」と目を細めていた。

 北園も三輪と一緒に昨年11月の個人総合スーパーファイナルに出場した。その際は、ジュニアルールで出場したユース五輪からの間隔が短く、シニアルールでの練習をあまり積めなかったことが響き、ミスが出てしまった。それでも、16歳で12人中8位という結果は立派すぎるほど。北園自身、「僕はまだまだ子どもの演技。スーパーファイナルは悔しかったですが、今後に生かしたい」と結果をしっかりと受け止めていた。

北園丈琉のあん馬。開脚旋回が観客の目を引きつける(撮影:矢内由美子)
北園丈琉のあん馬。開脚旋回が観客の目を引きつける(撮影:矢内由美子)
梅本英貴監督に送り出される北園(撮影:矢内由美子)
梅本英貴監督に送り出される北園(撮影:矢内由美子)

■全員がオリンピックを目指す中で切磋琢磨した2人

 大阪府天王寺区にある清風高校は過去に14人の五輪選手を輩出している。獲得したメダルは32個で、金メダリストも数多くいる。2016年に完成した新校舎の体操場の壁には歴代の五輪出場選手の写真が飾られており、選手たちは毎日その姿を見ながら、いつか自分が夢の舞台に立つ日を想像する。三輪も北園も、この学校を選んだのは「五輪に出たいから」。ピリッと引き締まった雰囲気の中で、全員が自己の最高を目指して練習している。

 清風高校の梅本英貴監督は、2人をこのように評する。

「三輪は、出身の静岡から出て清風に入学するという段階で、何とかオリンピックに行きたいという特別な思いを持っていたと思います。元々、身体のセンスはすごいものを持っていましたが、高校から清風に来て、精神的なものを身につけました。以前は試合で力を発揮できなかったり、勝ちきれなかったり、最後までやりきれないことがありましたが、今では折れることがなくなりました」

 清風ではキャプテンも務めた。それもあって、「周りを見ることができるようになり、すごく成長したと思います」という。

 地元の大阪で生まれ育ってきた北園は中1から清風に入っており、直接指導するようになってからすでに4年がたっている。

「最初から東京五輪を目指すという明確な目標を持って入ってきましたが、とにかく彼は意識が高い。日頃の練習への取り組みでもそれが出ている。その部分に関してはズバ抜けています」

足に重りを付けて旋回練習をする北園。地味な練習を怠らない(撮影:矢内由美子)
足に重りを付けて旋回練習をする北園。地味な練習を怠らない(撮影:矢内由美子)

■三輪「今の勢いを生かしたい」 北園「死ぬ気でがんばる」

  三輪は「今は勢いに乗れて成長していると感じている。満足せずにこの勢いを生かして上までいきたい」と言う。ワールドカップから帰国した後は4月から順天堂大学に進学。まずは今年の世界選手権(10月開幕、ドイツ)の代表入りを目指す。

 一方、年齢制限により、北園は今年の世界選手権にはまだ出られないため、新設大会の世界ジュニア選手権(6月開幕、ハンガリー)で初代チャンピオンになることを目標としている。しかし、見つめるのは東京五輪。

「まだ世界選手権には行けないですが、だからといってのんびりするのではなく、行けるけど年齢が達しないから、というくらいを目指します。東京五輪に間に合うよう、死ぬ気で頑張りたいと思います」と気持ちを奮い立たせている。

 4月からは三輪が大学生になるため、2人が“清風コンビ”として五輪に出ることはないが、ともに新元号の体操界の中心選手となっていくという期待は大きい。

 新元号で迎える東京五輪。楽しみな逸材に注目だ。

「清風魂」が見守る(撮影:矢内由美子)
「清風魂」が見守る(撮影:矢内由美子)
「清風魂」とは、「核心に触れるまで努力すること」。(撮影:矢内由美子)
「清風魂」とは、「核心に触れるまで努力すること」。(撮影:矢内由美子)
サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター

北海道大学卒業後、スポーツ新聞記者を経て、06年からフリーのスポーツライターとして取材活動を始める。サッカー日本代表、Jリーグのほか、体操、スピードスケートなど五輪種目を取材。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。スポーツグラフィックナンバー「Olympic Road」コラム連載中。

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