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【体操】逆襲の2018 山室光史、田中佑典、加藤凌平 コナミスポーツ金メダルトリオの誓い 

矢内由美子サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター
左から田中佑典、山室光史、加藤凌平(撮影:矢内由美子)

 コナミスポーツ体操競技部が1月8日、必勝祈願と新年の初練習を行った。昨年の世界選手権で代表入りを逃した2016年リオデジャネイロ五輪団体金メダリストの山室光史、田中佑典、加藤凌平にとって2018年は逆襲の年。それぞれが燃える思いを胸に抱いている。

■絵馬に「世界一」と書いた山室光史

練習後ににこやかな表情を浮かべる山室光史(撮影:矢内由美子)
練習後ににこやかな表情を浮かべる山室光史(撮影:矢内由美子)

 

 全体練習が始まると、10人の選手たちはおのおののアップメニューに取りかかっていった。ストレッチやジャンプ系などから始める選手が多い中、ひときわ目立っていたのは、チーム最年長でキャプテンを務めている山室だった。

 体育館内の約30メートルの細長いスペースをつかって行う、たった1人のランニング。往復で60メートルの距離を100本、6キロに相当するランニングで汗を流した。長距離走をあまり行わない体操選手としては珍しい練習メニュー。山室はこれを足首の強化と身体全体の強化という目的で昨年から行っている。

 実は昨年10月に三重県で行われた全日本シニア選手権で、右手首を骨折していた。「折れたのは平行棒の演技中。多分、『ヒーリー(後振りから片腕支持1回ひねり支持)』で痛めたと思う」(山室)

 今はまだケガの回復を待っている状況だが、「足は強くなったと思いますよ。毎日走っているから、この時期でも体重も増えません」と表情は明るい。

 東京五輪に向けて、今年から1年間の練習の組み立てを新しいスタイルに変えることにした。

「今までは技をつくる時期と、通し(演技の全構成を最初から最後まで通しで行う練習)をやる時期とに分けて練習していたのですが、これからはベースとなる演技を1年中常に通しながら、そこに技をプラスしていくようにします」

 ベースの演技構成をいつでも使えるようにしておきながら、大会や状況に応じて技を足したり、種目によっては技を減らしたりするというやり方だ。

「ベースに足し算や引き算をしながら試合を行う。ベースを持つことで1年間通じて安定した演技ができるのかなと思います」

 1月17日に29歳になる。これからはいかに気持ちを高めていけるかが大事になる。

「まずは追い込んでもつぶれない身体をつくる。そして追い込む。何も考えないくらいでやっていくのが良いと思う」

 絵馬には「世界一」と書いた。

「そこを目指さなくなったら終わりだと思う」

 山室の哲学だ。

■新しい技にも取り組んでいる加藤凌平

新たな技にも挑戦しているという加藤凌平(撮影:矢内由美子)
新たな技にも挑戦しているという加藤凌平(撮影:矢内由美子)

 絵馬に「熱い1年になりますように」と書いたのは加藤だ。

「昨年は何事もうまくいかず、熱く燃えるような出来事のない1年だった。今年は心が熱くなるような良い出来事を起こす1年にしたい。そういう思いを込めました」

 世界選手権の代表から外れた昨年後半は、一から身体を作り直す時期に充てたほか、新しい技の習得にも時間を割いた。今まで一度もやったことのなかった技にも取り組み、あん馬の「開脚シュピンデル」や通称メリーゴーランドと呼ばれる「ショーン」をものにした。すでに習得していたが大会で使ったことのない技もあらためて磨き上げていった。

「成果としては技のレパートリーが増えたのが一番。それをどう演技に組み込んでいくかですね。種目別で言うと、あん馬以外では平行棒の下り技を前方系にしたいと思っています。跳馬やゆかは現段階の構成をいかに精度を上げるか」

 試合中のメンタルのコントロールにも力を注ぎつつ、勢いを見せることも忘れないようにしたいという。

「試合では力を出しすぎないように、身体をコントロールすることが必要。その中でも勢いを出していきたいと思います」

 落ち着いた物腰は今まで通りだが、心に秘める巻き返しへの意気込みは強い。

■田中の願いは「健康・安全・成功 今年こそコナミスポーツ体操競技部団体優勝」

穏やかさの中に芯の強さを見せる田中佑典(撮影:矢内由美子)
穏やかさの中に芯の強さを見せる田中佑典(撮影:矢内由美子)

「絵馬に書いた言葉は、親がいつも言っていたことでもあるんです」

 体操選手だった両親の下、兄や姉と一緒に体操教室に通っていた田中。今年の絵馬に書いた言葉には、切実な思いが込められていた。

 昨年の世界選手権代表入りをほんのわずかなところで逃した田中は、「昨年は練習のペースを上げすぎていたときにケガをしました。それが原因になって、試合が続いたところでうまく上げていけなかった」と、悔しかった日々を振り返った。

 昨年11月29日に28歳になった。体操界ではベテランの域に入る。これからはケガをしないことが非常に重要になる。

「今年は、日々の基礎トレーニングをどれだけ積み重ねていけるかをテーマに置いています。これからはケガをして思うような練習ができないと、どんどん落ちていく。ここからはケガには要注意です」

 絵馬には目標も書いた。11月の全日本団体選手権で団体優勝を勝ち取ることだ。コナミスポーツ体操競技部は2014年を最後に3年間、優勝から遠ざかっている。この間に勝ったのは日体大や順大。今年は4年ぶりに社会人の実力を見せたいと意気込んでいる。

 1月8日は草加神社での必勝祈願の後、午後に行った3時間の練習では、10人の所属選手それぞれが自身のメニューを黙々とこなしていた。逆襲の1年のスタート。静かな炎が燃えていた。

逆襲を誓う3人(撮影:矢内由美子)
逆襲を誓う3人(撮影:矢内由美子)
練習後ということで3人ともリラックスムード(撮影:矢内由美子)
練習後ということで3人ともリラックスムード(撮影:矢内由美子)
サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター

北海道大学卒業後、スポーツ新聞記者を経て、06年からフリーのスポーツライターとして取材活動を始める。サッカー日本代表、Jリーグのほか、体操、スピードスケートなど五輪種目を取材。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。スポーツグラフィックナンバー「Olympic Road」コラム連載中。

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