Yahoo!ニュース

“奇跡ヘッド”の山形GK山岸「ハイライトはここから」~3・7 Jリーグ開幕~

矢内由美子サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター
モンテディオ山形GK山岸範宏

11年ぶりに2ステージ制とチャンピオンシップが復活したJリーグは、3月7日に開幕する。ステージ優勝やチャンピオンシップ制覇を争う戦いがある一方で、J1残留となる年間勝ち点15位以上を現実の目標とするというクラブもまた、熱い戦いを見せてくれるはず。その中で台風の目となる可能性を感じさせるのが“奇跡のGK”山岸範宏を擁するモンテディオ山形だ。

Jリーグ史上初のGKによるヘディングゴール

昨年11月30日、静岡県のヤマハスタジアムで行われたジュビロ磐田とモンテディオ山形によるJ1昇格プレーオフ準決勝。1-1で迎えた後半アディショナルタイムにCKからヘディングシュートを決めたのが、山岸だった。

Jリーグ史上初のGKによるヘディングシュートは、フィールドプレーヤーでも滅多にない、サヨナラゴール。山岸は「モンテディオ」が意味する「山の神」の称号を得、勢いに乗ったチームは翌週のプレーオフ決勝でジェフ千葉を下してJ1昇格を決め、天皇杯でも準優勝を飾った。

「あれはハイライトではない」

今シーズンから山形に完全移籍した
今シーズンから山形に完全移籍した

あれから4カ月。神がかり的なセービングも相俟って一躍時の人となったプレーオフ時は浦和レッズからの期限付移籍中だったが、今シーズンは山形に完全移籍してのプレーになる。さらに今シーズンは石崎信弘監督からチームキャプテンに任命され、「新たなステージで戦う喜びと覚悟を持っている。自分らしさをチームのために出したい」とモチベーションはマックスだ。

そんな山岸が「よく聞かれる」と言う質問がある。磐田戦でのヘディングシュートはサッカーキャリアのハイライトか、ということだ。しかし、山岸は首を振る。

「キャリアの中でインパクトのある試合であったのは間違いないけど、キャリアハイはまだまだこの先にあると思っている。あれが最高ではない。最高の試合はこれから作ります」

開幕戦はベガルタ仙台、第2節に埼スタで古巣の浦和戦

第1ステージ開幕戦はベガルタ仙台とのみちのくダービーだ。山岸は「仙台には個の能力が高い選手がそろっているし、全員が労を惜しまずにハードワークする。戦っていて嫌な相手だという印象。ただ、僕らとしては相手をリスペクトしながらも、自信を持って戦い、90分終わった段階でみんなで喜び合いたい」と力を込めつつ、「みちのくダービーで開幕ということで特別な感情が出てくるのも自然だと思うけど、肩肘を張らずにやっていきたい」と自然体の必要性を強調する。

そして、第2節は2001年から昨年まで13年半在籍した古巣の浦和戦。2006年には正GKとしてリーグ優勝を飾った思い出の詰まる埼玉スタジアムが舞台になる。

「浦和戦については開幕戦が終わってから考えたいと思うが、長くいたチームなので、特別な感情は当然ある。アウェイの埼スタは自分自身初体験。インパクトの残る試合になるのかなと思うし、勝てたら非常に幸せ」

とにかくJ1残留を、との思いはもちろん強いが、山形としては過去のジンクスを打ち破りたいという思いもあるだろう。プレーオフによる昇格制度が導入された2012年以降、大分トリニータ、徳島ヴォルティスとも翌年のJ1ではホームで勝利を挙げられず、最下位でJ 2に降格しているからだ。

山岸は「歴史を塗り替えるというよりも、僕たちが残留することで新たな歴史だと思ってもらえるようになりたい。今は残留することが一番の目標。その先もJ1に定着していくことがクラブの繁栄にもつながる」と将来までを見据える。

「僕らはJ 2 の6位から上がってきたチームだから、すべての試合がチャレンジになる。まずは1試合1試合の勝利をつかんだうえで、J1に残留していくということが必要。僕らは昇格したことだけでは満足していない」

山岸のサッカー人生の新たな章がいよいよ幕を明ける。山岸にとっても、山形にとっても、ハイライトはここからだ。

サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター

北海道大学卒業後、スポーツ新聞記者を経て、06年からフリーのスポーツライターとして取材活動を始める。サッカー日本代表、Jリーグのほか、体操、スピードスケートなど五輪種目を取材。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。スポーツグラフィックナンバー「Olympic Road」コラム連載中。

矢内由美子の最近の記事