Yahoo!ニュース

まん延防止重点措置の政府方針に明確な反対意見 分科会の議事録で判明

楊井人文弁護士
1月25日の基本的対処方針分科会後に会見した尾身茂会長(NHKライブを筆者撮影)

 1月25日に開かれた政府の新型コロナに関する基本的対処方針分科会で、まん延防止等重点措置の適用範囲を拡大する政府の方針に対し、肺炎の発生頻度について季節性インフルエンザより相当程度高いという条件を満たしているか疑問があるなどと委員から反対意見が出ていた。このほど公開された議事録から判明した。

 尾身茂会長は分科会の後、記者団に対し、様々な議論があったことを明らかにしていたが、委員から明確な反対意見が出ていたことは説明していなかった。

 現在主流となっているオミクロン株の病原性が法令上の要件を満たしているかどうかについては、筆者が1月下旬に内閣官房の担当者に取材した際、比較検討をきちんと行っていなかったことが判明している。

(関連記事)オミクロン株で肺炎の頻度は? 政府、インフルと比較調査せず「まん延防止措置」適用か 特措法違反の疑い(1/20)

2月3日の基本的対処方針分科会(持ち回り開催)の議事録より(筆者撮影)
2月3日の基本的対処方針分科会(持ち回り開催)の議事録より(筆者撮影)

 分科会で、政府の方針に反対を明言したのは経済学者の大竹文雄委員(大阪大学特任教授)。次のように発言していた。

大竹委員の発言内容

私は今回の基本的対処方針の政府の提案には反対です。その理由は、まん延防止措置の実施地域の拡大を主な内容となっていて、今、平井知事からも御意見ありましたけれども、対策についてはほとんど変更がないということです。主に3つの点を申し上げます。

第1に、まん延防止措置の前提として新型コロナウイルス感染症については「肺炎の発生頻度が季節性インフルエンザにかかった場合に比して相当程度高いと認められること」という条件がありますけれども、第6波の中心であるオミクロン株がこの条件を満たしているかどうかについて疑問があります。

日本で感染拡大が始まって1か月近く経過しましたが、肺炎の発生頻度について季節性インフルエンザに比べて相当程度高いというエビデンスが出ているのかどうかという点について、この条件を満たしているということであれば、この実施の前提条件が満たされると思うのですが、そうなっているかどうか疑問に思っています。

第2番目に、発症までの期間が短く、感染拡大スピードが速く、軽症者の比率が多いというオミクロン株の特性に応じた対策になっているのかという点です。

保健所及び医療側の対応をオミクロン株の特性に応じたものに変えることこそ対策の中心だと思います。

専門家がオミクロン株対策として提案した参考資料9に政府提案が対応したものかどうかという点について、私は対応してないのではないかというように思います。

例えば濃厚接触者の隔離期間が10日のままでいいのか、隔離期間の例外措置について社会的機能を維持するために必要な事業に限る必要があるのか、あるいはそもそも濃厚接触者の追跡に感染予防効果があるのかという点について検証して対策を変更すべきだと思います。

もしインフルエンザと同程度のリスクで感染メカニズムが似ているということであればインフルエンザと同等の医療的対応、学校の休校措置等ということが重要になると思います。

今後の変異の可能性がありますけれども、一時的に保健・医療の対応を変えるということが社会経済の維持と医療の維持を両立させる政策だと思います。

第3に、水際対策の継続について、これだけ国内感染が広がっている状況で今までと同じレベルのものを続ける意味がどの程度あるのかという点について疑問を持っています。以上です。

1月25日開催 基本的対処方針分科会議事録より、太字は筆者)

 この日の分科会では、このほかの委員からも「インフルエンザと同じような対応で十分なのではないかという疑問は国民も持っていると思う」(小林慶一郎委員)、「オミクロン株は肺炎を起こす可能性が本当にインフルエンザよりも高いというエビデンスがあるのかどうか疑問」(長谷川知子・日本経団連常務理事)、「症状が異なってきたときにポリシーとしてギアチェンジをするか。議論を求めたい」(岡部信彦委員)などと方針転換についての意見が相次いでいた。

 一方で、従来の対策を大きく転換することについては、感染症専門家の側から異論も出ていた。

 日本医師会の釜萢敏常務理事は「季節性インフルエンザと同等の肺炎の発症率になったから特別扱いする必要はないというエビデンスは得られていないと思う」とし、基本的対処方針の見直し作業は時間がかかるとの認識を示した。

 押谷仁委員も「オミクロンになっても一定の肺炎を起こしていると聞いているので、季節性インフルエンザとの比較で同じという言い方のできるウイルスではない」との見解だった。

 この日の分科会では、尾身会長が各委員の議論を踏まえて「特に反対はございませんか」と言った後、意見を求められた大竹委員が「私個人は反対ですけれども、皆さんの意見には従います」と表明。分科会として政府の方針が了承された形となった。

2月3日の分科会で「反対」明記の意見表明

 大竹委員は、2月3日に同分科会が持ち回り開催で行われた際も、改めて「基本的対処方針の政府の提案に反対する」と明確に表明していた。

 大阪府専門家会議の座長で、感染症制御学の専門家である朝野和典委員も、まん延防止等重点措置自体には反対しなかったものの、基本的対処方針に記された致死率が現状にそぐわず、「この記載をもって、現在の新型コロナウイルス感染症が根拠法である特措法の対象とする考えには反対」と明記。

 「濃厚接触者の待機を行う有効性の科学的根拠を示していただきたい」と注文をつけたうえで、「このことに関連し、分科会に法律の専門家の外部有識者を入れることを提案する」と記していた(2月3日開催の基本的対処方針分科会議事録 参照)。

 こうした異論が相次いだ後も、政府は分科会にインフルエンザと比較検討した資料を提出した形跡はなく、現在も基本的対処方針(2月10日改定)には、コロナ禍当初の致死率が「約1.0%」であったことを根拠に「新型コロナウイルス感染症は、季節性インフルエンザにかかった場合に比して、致死率が相当程度高く」との記述が修正されずに残っている。 

 朝野氏は、1月下旬の筆者のインタビューでも基本的対処方針の記述の問題点を指摘していた。インタビューの詳細はこちらで公開している

関連記事大阪府専門家会議座長、オミクロン株で2類相当は「社会機能を阻害しマッチポンプ」と見直し論議を提起(1/31)

弁護士

慶應義塾大学総合政策学部卒業後、産経新聞記者を経て、2008年、弁護士登録。2012年より誤報検証サイトGoHooを運営(〜2019年)。2017年、ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)発起人、事務局長兼理事を約6年務めた。2018年、共著『ファクトチェックとは何か』出版(尾崎行雄記念財団ブックオブイヤー)。2023年、Yahoo!ニュース個人「10周年オーサースピリット賞」受賞。現在、ニュースレター「楊井人文のニュースの読み方」配信中。ベリーベスト法律事務所弁護士、日本公共利益研究所主任研究員。

楊井人文の最近の記事