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都の休館要請を受け文化庁長官が声明 「休止は最終手段であるべき」 「文化芸術活動は不要不急ではない」

楊井人文弁護士
文化庁の都倉俊一長官による声明(右の写真は文化庁提供)

 山口百恵さんやピンクレディーなどの数多くのヒット曲を生み出した作曲家で、今年4月に文化庁長官に就任した都倉俊一氏が5月11日、「文化芸術活動に関わるすべての皆様へ」と題する声明を出した。都倉長官は「感染拡大のリスクをできる限り抑えながら、文化芸術活動を続けていくことは不可能なことでは決してなく、休止を求めることは、あらゆる手段を尽くした上での最終的な手段であるべきと考えます」として、可能な限り文化芸術活動を継続するよう呼びかけ、文化庁長官として全力で支援すると表明した。

 都倉長官の声明は、文化庁が東京都の要請で国立科学博物館などの再開を断念した直後に発表された。そのことに直接言及はないものの、本来、博物館において感染予防策を講じれば「リスクを最小限にしながら開館することが可能」で「実際に、このような感染症対策が適切に講じられている公演や展示において、来場者間で感染が広がった事例は報告されていません」と指摘していた。博物館などを対象とした休業要請の合理性に疑問を投げかける内容となっている。

 そして、「文化芸術活動は、断じて不要でもなければ不急でもありません。このような状況であるからこそ、社会全体の健康や幸福を維持し、私たちが生きていく上で、必要不可欠なものであると確信しています」という言葉で締めくくっている。

 この声明は「文化芸術活動に関わるすべての皆様へ」と題されているが、多くの一般国民が音楽や映画を鑑賞したり、文化芸術に何らかの関わりを持っている。

 この声明に関わった文化庁の担当者は、筆者(日本公共利益研究所)の取材に対し、「都倉長官のメッセージは、文化芸術活動の担い手や生業にしている人だけでなく、鑑賞する人々も含めて、全ての国民に向けて出されたものと理解していただいてさしつかえありません」と話している。

都知事の自粛要請、線引きに疑問も

 東京都は、5月12日から緊急事態措置を一部変更し、それまで「無観客開催」の要請対象だった劇場、テーマパークなどについて、入場制限を条件とした開催要請に緩和した。

 文化庁は当初、緊急事態宣言の延長にあわせて、国立科学博物館など都内にある国立の5つの施設を再開させる方針だった。

 だが、東京都からの強い要請を受け、11日に一転して休館の継続を決定した。都倉長官の声明は、この決定からまもなく、文化庁のサイトで発表された。

 取材に応じた文化庁企画調整課の担当者は、都倉長官の声明について「劇場やテーマパークは開けてよく、博物館や美術館、映画館などは休館という線引きに、理解に苦しむ。こうした思いは都倉長官をはじめ文化庁で共有されている」と話した。

 それでも博物館などの休館継続を決めた理由について「法律に基づく要請だったので、今回は都の意向を尊重した」と説明した。

 萩生田光一文部科学相は、小池百合子知事から自粛を求める正式な要請文書が届いていたことを明らかにしていた。法律(新型インフルエンザ等対策特別措置法)に基づく要請である以上、国立の施設が従わないわけにいかないと判断したとみられる。

拡充された文化芸術活動の支援内容

 長引くコロナ禍で大きな影響を受けている文化芸術活動だが、文化庁は現在、様々な支援事業を行っている(支援事業一覧)。

「ARTS for the future !」事業は、公演キャンセル料だけでなく、固定費や人件費も補助する。予算は250億円で「文化庁としては過去に例のない規模」(文化庁担当者)。4月下旬から申請を受け付けており、今月中旬から交付を始める。

 そのほかにも、文化施設への支援や、18歳以下を無料とする公演を支援する事業なども行われている。

都倉長官の声明全文

 都倉長官の声明全文は、以下のとおり。

文化芸術活動に関わるすべての皆様へ

 本年四月二十五日から開始された三度目の緊急事態宣言においては、対象地域におけるすべての文化芸術関係の公演や施設についても無観客化や休業をお願いすることとなり、大変な混乱と御負担をおかけしました。練習や準備を積み重ねてきた関係者の方々、そして心待ちにされていた皆様のお気持ちを考えると非常に心苦しく思います。皆様のご理解とご協力に改めて深く御礼申し上げます。

 この度、緊急事態措置を延長するに当たって、催物や一部の施設に関する政府の目安を緩和し、業種別ガイドラインに基づく感染症対策の徹底など、新型コロナウイルス感染症対策へご協力いただくことを前提に、宣言下においても一定の活動を継続いただけることとなりました。

 感染拡大のリスクをできる限り抑えながら、文化芸術活動を続けていくことは、不可能なことでは決してありません。したがって、文化芸術活動の休止を求めることは、あらゆる手段を尽くした上での最終的な手段であるべきと考えます。

 皆様におかれては、これからも文化芸術に関する活動を、可能な限りご継続ください。文化庁長官として私が先頭に立って、そのための支援に全力を尽くしてまいります。

 文化庁に設置した感染症対策のアドバイザリーボードの提言では、クラシックコンサート・演劇等の公演は、観客が大声で歓声、声援等を行うものではないため、観客席における飛沫の発生は少なく、感染拡大のリスクは低いとされています。これらの公演については、消毒や換気、検温、マスク着用の徹底はもちろん、観客席で大声を出さないことの周知徹底を行い、入退場時やトイレ等での密が発生しないための措置の実施や感染防止策を行ったエリア以外での飲食の制限、公演前後の練習や楽屋等での対策等を業種別ガイドラインに基づき行えば、リスクを最小限にしながら実施することが可能です。

 また、来場者が静かな環境で鑑賞を行う博物館や美術館、映画館等においても、飛沫による感染拡大のリスクは低いと考えられ、消毒や換気、検温、マスク着用の徹底に加えて、予約制の導入等による入退場の適切な管理を行い、展示の種類や態様に応じて密が発生しないような措置を講じるとともに、トイレやレストラン、カフェテリア等における感染防止策を業種別ガイドラインに基づき徹底すれば、リスクを最小限にしながら開館することが可能だと考えられます。

 実際に、このような感染症対策が適切に講じられている公演や展示において、来場者間で感染が広がった事例は報告されていません。

 これまでの新型コロナウイルス感染症との過酷な闘いの中で明らかになったことは、このような未曽有の困難と不安の中、私たちに安らぎと勇気、明日への希望を与えてくれたのが、文化であり芸術であったということです。

 文化芸術活動は、断じて不要でもなければ不急でもありません。このような状況であるからこそ、社会全体の健康や幸福を維持し、私たちが生きていく上で、必要不可欠なものであると確信しています。

令和三年五月

文化庁長官 都倉俊一

文化庁ホームページより)

弁護士

慶應義塾大学総合政策学部卒業後、産経新聞記者を経て、2008年、弁護士登録。2012年より誤報検証サイトGoHooを運営(〜2019年)。2017年、ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)発起人、事務局長兼理事を約6年務めた。2018年、共著『ファクトチェックとは何か』出版(尾崎行雄記念財団ブックオブイヤー)。2023年、Yahoo!ニュース個人「10周年オーサースピリット賞」受賞。現在、ニュースレター「楊井人文のニュースの読み方」配信中。ベリーベスト法律事務所弁護士、日本公共利益研究所主任研究員。

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