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「大阪で50人死亡 過去最多」はミスリード 手抜き発表報道を繰り返すメディアの罪

楊井人文弁護士
NHK日曜討論(5月9日放送)の画面より(筆者撮影)

 大阪府で5月7日「50人死亡、過去最多」と各社が一斉に報じた。大阪府の医療が逼迫し、深刻な状況にあることはまぎれもない事実だが、この「死者数」報道は正確でない。大阪府に限らず、各自治体が毎日報道発表している死者数は「その日までに新たに判明した死者数」であって、「直近1日あたり死者数」ではないからだ。

 コロナ関連死亡者の情報は遅れて報告されることが多い。「1日の死者●人」という速報ニュースは意味がないだけでなく、極めてミスリーディングだ。報道関係者もカラクリを百も承知だから、「発表」という単語をエクスキューズ(言い訳)できるように添えていることが多いが、それに気づいている視聴者、読者はどれくらいいるだろうか。

 人々がメディアの発表報道に惑わされないように、ここで詳しく解説しておこう。

NHK5月7日放送の画面より(NHK関西NEWS WEBより)
NHK5月7日放送の画面より(NHK関西NEWS WEBより)

 具体的に説明しよう。

 5月7日、大阪府が発表した「死者50人」の内訳をみると、4月23日〜30日に死亡した11人、5月1日〜6日に死亡した38人が含まれる(コロナ関連死でない死者1人を除く)。まとめると、次の表のようになる。

筆者主宰「コロナ禍検証プロジェクト」作成
筆者主宰「コロナ禍検証プロジェクト」作成

 5月7日発表情報における直近(5月6日)の死者数は、16人であった。

 だが、これは確定値ではない。5月8日の発表で、5月6日の死亡者が新たに6人判明したので、合計22人となった。

 今後も新たな死者が判明する可能性があり、あくまで現時点での暫定的な死者数だ。

自治体の発表と大手メディアの"連携"

 実は大阪府も東京都も、現在1日2回の報道発表をしている。最近の自治体の「報道発表」とメディアの「発表報道」のルーティンは、次のようになっている。

〜大阪府の場合〜

(1)大阪府が毎日17時すぎ「速報値」を発表する。

 この段階で「新規陽性者数」と「死亡者数」だけ出す。詳細な内訳など一切わからない。

大阪府の速報として発表する情報量はたったこれだけ。わずか2時間後に発表する詳細版より極端に少ない。
大阪府の速報として発表する情報量はたったこれだけ。わずか2時間後に発表する詳細版より極端に少ない。

(2)間髪入れずにNHKなど主要メディアが一斉速報する。ツイート一覧)

(3)しばしばYahoo!ニュースが取り上げ、ネットで拡散する。

(4)大阪府は、約2時間後、19時台か20時台に詳細版を発表する。

 ここで「検査件数」「陽性率」「入院患者数」「重症患者数」「死者の内訳」などの詳細な情報が出される。(例:5月9日の詳細版発表資料

(5)メディア各社は(2)で速報済みのため、(4)で判明した情報を改めて詳報することはめったにない。

〜東京都の場合〜

(1)東京都は毎日15時ちょうどに「速報値」を発表する。

 この段階で「新規陽性者数」「前週比」「65歳以上」「重症患者数(都基準)」などを出す。この段階で「死者数」は発表されない。(例:5月9日の速報値発表資料

(2)間髪入れずにNHKなど主要メディアが一斉速報する。ツイート一覧

(3)しばしばYahoo!ニュースなどが取り上げ、拡散する。

(4)東京都は19時台ないし20時台に詳細版を報道発表する。

 ここで「入院患者数」「宿泊療養者数」「重症者の年齢別」などの詳細な情報が出される。(例:5月8日の詳細版発表資料

(5)メディア各社は(2)で速報済みのため、(4)で判明した情報を改めて詳報することはめったにない。

なぜ死亡日別に死者数を整理することもしないのか

 以上のように、自治体の「速報値」発表と大手メディアの報道は、密接につながっている。

 ここで、筆者が大阪府が発表している「死者数」を死亡日別に整理・集計したデータとグラフをお見せしよう。これくらいのことは、大学生でも短時間でできる作業だ。

大阪府の死者数の死亡日別集計表(横軸が発表日、縦軸が死亡日)

筆者作成。ただし、「コロナ関連死」のみカウントしており、それ以外は除外しているため、速報発表値と一致しない。
筆者作成。ただし、「コロナ関連死」のみカウントしており、それ以外は除外しているため、速報発表値と一致しない。

同上
同上

 5月8日発表時点で、4月以降、1日あたり死者数が最も多かったのは、4月30日の32人だった(※)。4月1日〜30日のコロナ関連死者数は331人、1日平均で約11人となる。

 もちろんこれは暫定値であり、直近2〜3週間分は新たに判明した死者数が積み上がっていく可能性がある。

 逆にいえば、2週間後くらいでないと、1日あたりの死者数はわからないということだ。

 人々がメディアを通じて知る「発表日ごとの死者数」のグラフも、死亡日別と比較できるよう、参考までに掲載しておく。

 また、大手メディアはなぜか年齢別の死者数をきちんと報道しないが、これも人々が知っておくべき重要な情報だ。

 年齢別の死者数を分類すると、次のようになる。

 今後もデータは随時、筆者が主宰する「コロナ禍検証プロジェクト」のページで更新していく予定だ。大手メディアが「本来の仕事」をやるまでは。

 最後にもう一度、忠告しておきたい。

 メディア関係者は「直近1日あたりの死者数」でないことを承知の上で、自治体の広報部隊よろしく、人々をだますような手抜きの発表報道を繰り返すべきでない。

(訂正)5月8日時点での大阪府の死亡日別死者数のグラフに集計ミスによる誤りがありました。以下の通り訂正します。この時点で、1日の死者数として最も多かったのは4月30日の32人となります。(上掲グラフの画像も差し替えました)

・4月10日 8人(+2人)

・4月11日 5人(-2人)

・4月23日 24人(+1人)

・4月30日 32人(-1人)

(追記)今回の誤情報がどのように拡散したのかを以下のページで記録してあります。

「大阪で50人死亡 過去最多」の誤情報 いかに拡散したか

弁護士

慶應義塾大学総合政策学部卒業後、産経新聞記者を経て、2008年、弁護士登録。2012年より誤報検証サイトGoHooを運営(〜2019年)。2017年、ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)発起人、事務局長兼理事を約6年務めた。2018年、共著『ファクトチェックとは何か』出版(尾崎行雄記念財団ブックオブイヤー)。2023年、Yahoo!ニュース個人「10周年オーサースピリット賞」受賞。現在、ニュースレター「楊井人文のニュースの読み方」配信中。ベリーベスト法律事務所弁護士、日本公共利益研究所主任研究員。

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