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【ゴーン氏再逮捕】妻「特捜部の聴取に危険を感じた」は誤報 抗議受け、日経が訂正

楊井人文弁護士
3月6日に保釈されたカルロス・ゴーン氏とその妻キャロルさん(写真:つのだよしお/アフロ)
日本経済新聞2019年4月14日付朝刊3面
日本経済新聞2019年4月14日付朝刊3面

 日本経済新聞は4月8日付朝刊1面で、日産元会長のカルロス・ゴーン氏が再逮捕された後、妻のキャロルさんが出国し、東京地検特捜部の聴取について「危険を感じた」とフランスメディアのインタビューに答えたかのように報じた。しかし、「危険を感じた」という発言は東京地検特捜部の聴取について述べたものではなかったとして、14日付朝刊で訂正した。

 誤報は1面に掲載された記事(見出し3段)だったが、訂正は3面で目立たない位置にあった。

 誤りがあったのは「ゴーン元会長妻出国 検察の参考人聴取応じず」の見出しがついた記事で、次のように書かれていた。

 日産自動車元会長、カルロス・ゴーン容疑者の妻、キャロルさんが東京地検特捜部の聴取について「危険を感じた」として応じないまま5日夜に日本を出国し、パリに到着したことがわかった。7日付の仏紙ジュルナル・デュ・ディマンシュがインタビューを報じた。

 キャロルさんは「(ゴーン元会長が)英語で自身の見解を録画した。今回の事件に責任のある人物を指摘したいと思っていたからだ」と語った。

出典:日本経済新聞4月8日付朝刊1面「ゴーン元会長妻が出国 検察の参考人聴取に応じず」

4月8日朝刊1面の誤報記事(左、赤で囲み)と14日朝刊3面の訂正記事(赤で囲み)
4月8日朝刊1面の誤報記事(左、赤で囲み)と14日朝刊3面の訂正記事(赤で囲み)

 これに対し、ゴーン氏の弁護人を務める高野隆弁護士が8日、ブログで「日経新聞の記事は、仏紙ジュルナル・ディマンシュの記事の中のキャロルさんの言葉の一部を切り抜き、不適切な形で引用した上で、あたかも彼女が事件に関与し、事情聴取を受けることを恐れて出国したかのような印象を作り出しています」などと指摘。仏紙ジュルナル・ディマンシュのインタビューの原文を確認すると、事情聴取を求められて危険を感じたとは言っておらず、キャロルさんの名誉を毀損するだけでなく、読者に対する冒涜でもあるとして、日経に対し「直ちに記事の誤りを正し、謝罪をすべきです」と抗議していた。

 日経は12日夜、デジタル版で訂正記事を出したが、謝罪はなく、誤りの原因についても触れていなかった。

 キャロルさんの出国に対しては「やましいからでは」などと匿名の検察幹部のコメントを報道するメディアもあったが、キャロルさんはその後日本に戻り、11日に東京地裁の証人尋問に応じている

 ゴーン氏をめぐっては、日経新聞をはじめ主要メディアの大半が、3月6日に保釈された際「インターネットへ接続できない」という保釈条件が入っていたと報道。これも高野弁護士がブログで、裁判所が決定した保釈条件のほぼ全文を公開し、誤報だったことが判明している。ただ、当時の報道に関する正式な訂正記事は確認されていない。

(参考)【追記あり】ゴーン氏保釈条件で「ネット使用不可」は誤報 条件は「ログの提出」(Yahoo!ニュース個人 2019/4/5)

弁護士

慶應義塾大学総合政策学部卒業後、産経新聞記者を経て、2008年、弁護士登録。2012年より誤報検証サイトGoHooを運営(〜2019年)。2017年、ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)発起人、事務局長兼理事を約6年務めた。2018年、共著『ファクトチェックとは何か』出版(尾崎行雄記念財団ブックオブイヤー)。2023年、Yahoo!ニュース個人「10周年オーサースピリット賞」受賞。現在、ニュースレター「楊井人文のニュースの読み方」配信中。ベリーベスト法律事務所弁護士、日本公共利益研究所主任研究員。

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