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佳子さま「情報の信頼性や発信の意図を考えることが大切」と言及も 引用不正確な記事が出回る

楊井人文弁護士
2015年1月2日の一般参賀で手を振る秋篠宮家の眞子さまと佳子さま(写真:Motoo Naka/アフロ)

 佳子さま(内親王殿下)が大学卒業にあたって記者団に寄せたコメントが、波紋を呼んでいる。

 眞子さま(同)の結婚の儀式が延期になっている問題について「私は、結婚においては当人の気持ちが重要であると考えています。ですので、姉の一個人としての希望がかなう形になってほしいと思っています」と述べた。この発言にネット上で賛否両論があがっているようだ。

 ネット上には、「佳子さま『結婚は個人の勝手』発言に、国民の“怒り”が爆発 『秋篠宮家廃嫡論』も」という記事も出回っている。掲載されたのは「論壇net」という運営者不詳のサイトである。(*)

 しかし、佳子さまは「結婚は個人の勝手」などという発言はしていない。佳子さまのコメントを引用する。

「姉が結婚に関する儀式を延期していることについてですが、私は、結婚においては当人の気持ちが重要であると考えています。ですので、姉の一個人としての希望がかなう形になってほしいと思っています。

出典:佳子さま 大学卒業にあたって(回答全文)(NHK NEWS WEB 2019/3/22)

 これが「眞子さまは、結婚に関する儀式を延期されていますが、家族としてどのように受け止めていらっしゃいますか」という記者団の質問に答えた部分だ。この趣旨は「結婚は個人の勝手」と言えるだろうか。

「勝手」という佳子さまの使っていない言葉で印象操作も

 「勝手」というのは「自分勝手」「勝手気儘(きまま)」という形で使われることが多いように、どちらかというとネガティブな文脈で使われる言葉だ。辞書的にも「他人のことはかまわないで、自分だけに都合がよいように振る舞うこと。また、そのさま」(デジタル大辞泉)という意味だ。

ネット上に出回った不正確な記事(論壇netより)
ネット上に出回った不正確な記事(論壇netより)

 佳子さまが発したかったメッセージは何であろうか。少なくとも本人の意思や希望を尊重してほしい、という意味は読み取れる。だが、周囲の意向は構わずに自分の意思を貫く、という意味での「勝手」な行動を姉に勧めているとまで言えるだろうか。

 百歩譲って、受け手がそう「解釈」するのは勝手だとしても、ただの「解釈」にすぎないものを、実際の発言であるかのような括弧つきで伝え、報じるのはご法度である。括弧は発言を忠実に引用する場合に用いるというルールに反するからだ。もしそのようなルールが守られなければ、発言の引用なのか、書き手の解釈なのか、わからなくなる(日本では、強調の意味で括弧を使うことも多いが、それは文脈でわかる。ここで問題としているのは、発言引用という印象を与える括弧使用である)。

 「結婚は個人の勝手」という見出しをみた第一印象は、その大半が否定的な反応になるのではないか(もちろん、「結婚は個人の勝手」という価値観に賛同し、好印象をもつ人がいることも否定しないが)。「勝手」というワードがそのような感情的反応を呼び起こすために仕掛けられており、印象操作の典型例とも言える。

 この種の、読者の感情を刺激する文言が入った記事を目にしたときに、まずすべきは「本当なのかどうか」と立ち止まって考えることだ。佳子さまが本当に「結婚は個人の勝手」という趣旨の発言をしたのか。筆者の主観的感想に基づいて、事実を捻じ曲げて伝えていないかどうかー。本当に「秋篠宮家廃嫡論」が広がっているのか。いったい誰がどういう目的で書いたものなのか、他にどんな記事を書いているのか。運営者は実名で書いて責任の所在を明記しているのかどうかー。(*)

主要メディアは率先して引用ルールの確立を

 残念ながら、この種の粗雑な引用符の濫用は、低質なネットメディアに限らず、伝統的な大手メディアにも広く蔓延している悪習と言える。新聞やテレビにも、発言内容をメディア側が解釈して文言を改変して、本人の発言であるかのように伝える手法はあとを絶たない。「言い換えた方が読者のためにわかりやすくなるからだ」というのがメディア側の建前なのだが、端的に読者の興味を引きつけたいという商業主義ないしセンセーショナリズムによるものが大きい。引用時の修正は、趣旨を損なわない程度に一部省略するなどに留めるべきだろう。

 特に新聞など大手メディアには「歴史の記録者」という役割があるのだから、率先して、本人が使っていない言葉を引用符の中に勝手に入れるのはご法度だ、というニュース記事のルールを確立すべきではないか。

(参照)'''トランプ「スウェーデン」発言騒動 不正確な引用はメディアの信頼揺るがす'''(2017/2/21)

 

 メディアだけでなく、情報の受け手(であると同時に拡散・発信の担い手)である人々も、記事に対する接し方を考える必要がある。佳子さまは、先ほどのコメントに続いて、メディアリテラシーの重要性を訴えていた。

姉の件に限らず、以前から私が感じていたことですが、メディア等の情報を受け止める際に、情報の信頼性や情報発信の意図などをよく考えることが大切だと思っています。今回の件を通して、情報があふれる社会においてしっかりと考えることの大切さを改めて感じています。

出典:佳子さま 大学卒業にあたって(回答全文)(NHK NEWS WEB 2019/3/22)

 メディアの記事やネット情報に脊髄反射的に反応し、拡散する人々が多い中、しっかりかみしめたい言葉である。

(*) このほかにも眞子さま結婚問題に関する記事を大量に出しており、1月29日から本日までの約2ヶ月間で「特集『小室圭問題』」というカテゴリーに118件の記事も表示されている。

弁護士

慶應義塾大学総合政策学部卒業後、産経新聞記者を経て、2008年、弁護士登録。2012年より誤報検証サイトGoHooを運営(〜2019年)。2017年、ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)発起人、事務局長兼理事を約6年務めた。2018年、共著『ファクトチェックとは何か』出版(尾崎行雄記念財団ブックオブイヤー)。2023年、Yahoo!ニュース個人「10周年オーサースピリット賞」受賞。現在、ニュースレター「楊井人文のニュースの読み方」配信中。ベリーベスト法律事務所弁護士、日本公共利益研究所主任研究員。

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