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琉球新報も訂正せず 「海兵隊が損害基準引上げ工作」 3年前からオスプレイ報道で

楊井人文弁護士
海兵隊オスプレイ(MV22)

【GoHooレポート6月3日】琉球新報は5月19日付朝刊で、沖縄の米軍普天間飛行場に配備されている海兵隊のオスプレイMV22に関し、「オスプレイ墜落 危険機種は沖縄から去れ」と題する社説を掲載し、「海兵隊は事故の被害規模を示す『クラスA』の損害額を『100万ドル以上』から『200万ドル以上』に変えて格下に分類し、重大事故の発生率を低く見せるために露骨な操作を行っている」と指摘した。しかし、「クラスA」の損害基準の引き上げは国防総省が指令し、海兵隊だけでなく、米軍機全体に適用されたものだった。日本報道検証機構の調査で、琉球新報は2012年8月以降、「米海兵隊が損害基準を引き上げた」と事実と異なる報道を繰り返していたことがわかった。当機構の指摘に対し、琉球新報社は誤報には当たらず、訂正する予定はないと回答した(対象記事の詳細はGoHooサイトを参照。既報あり=【GoHooレポート】オスプレイの低事故率 「海兵隊が損害基準引上げ”工作”」は誤報)。

琉球新報2012年8月3日付朝刊1面トップ
琉球新報2012年8月3日付朝刊1面トップ

当機構の調査では「海兵隊が重大事故(クラスA)の損害基準を引き上げた」と報じた琉球新報の記事は、少なくとも2012年に4本、2013年に5本、2015年に1本あった(計10本のうち4本が社説、1本は社会部長の署名論説)。これまでにも、沖縄タイムスや全国紙にはオスプレイの事故率の低さに疑問を呈する記事は多数掲載されてきた。しかし、「海兵隊が」クラスAの損害基準を「引き上げた」と誤報したのは、琉球新報と中日・東京新聞の記事=既に指摘した今年5月19日付朝刊のほか、2013年9月15日付社説にも同様の誤報が判明。同社も訂正する予定はないと回答=以外に確認できていない(引き続き調査中)。

米国防総省は、米軍機の重大事故で死傷者が出なかった場合でも政府関係財産に一定の損害が出た場合には、最も重大な事故を意味する「クラスA」に分類。この財産損害の基準額は2009年10月の同省指令で「100万ドル以上」から「200万ドル以上」に引き上げた際、海兵隊の機種に限らず「国防総省の航空機の損壊」すべてに適用されるものとしていた。アシュトン・カーター国防次官(調達・技術・兵站担当)=現在は国防長官=の文書によれば、この損害基準の引上げはインフレ増大によるもので、1989年にクラスAの損害基準を50万ドルから100万ドルに引き上げて以来、20年ぶりだった(詳細はGoHooレポート参照)。

琉球新報が最初にMV22の事故率を低くみせかけるために、海兵隊がクラスAの損害基準を引き上げたと報じたのは、2012年8月3日付朝刊1面トップ「オスプレイA級事故で海兵隊 評価基準かさ上げ 100万ドルから200万ドルに 発生率低く調整か」と見出しをつけたワシントン発の記事。2日後にはオスプレイ配備に反対する県民大会が予定されていた(台風接近で延期され、9月9日に開催)。2011年10月の米誌WIREDに掲載されたオスプレイ事故率の低さに疑問を呈した記事を情報源にしたことを明記し、「次期主力輸送機と位置付ける海兵隊が安全記録を良好に見せ掛けるために事故の評価基準を臆せずに変更する実態が浮き彫りになった」と指摘していた。しかし、同紙が引用したWIREDの記事には、アシュトン・カーター国防次官の文書にも言及したうえで、「2009年10月、国防総省高官はインフレのため『200万ドルまたは死者』に基準を引き上げた」(Then, in October 2009, the Pentagon brass revised the threshold upwards to $2 million or a fatality, owing to inflation.)と書かれており、損害基準変更の事実関係を正確に報じていた。

このWIREDの記事については、沖縄タイムスが2011年10月15日付朝刊で先に取り上げていた。同紙はWIREDの記事を引用し、MV22で「クラスA」の財産損害基準を上回る事故のうち、飛行前点検中に意図しないエンジン推力の上昇で浮き上がり落下した事故=2006年3月発生=などが事故率にカウントされていない問題などを指摘したが、「海兵隊が損害基準を引き上げた」とは報じていなかった

琉球新報は2012年8月25日付社説でも「海兵隊はクラスAの分類を当初は損害100万ドル以上としていたが、09年以降は200万ドル以上に変更し、事故率を低く見積もるよう工作していた。数合わせのようなことをして『安全だ』と言われても誰が信用するだろうか。県民を愚弄するにもほどがある」と批判。松永勝利・社会部長も2013年8月3日付朝刊の「特別評論」で、「事故率の低さには、からくりがある。海兵隊は2009年にクラスAの損害額をこれまでの『100万ドル』から『200万ドル以上』に引き上げていた。…事故率を低くする巧妙な数字の操作が行われていたのだ」と指摘していた。2013年10月28日付社説にも「米海兵隊は09年に被害が甚大なクラスAの損害額の評価基準をひそかに『100万ドル以上』から『200万ドル以上』に引き上げた。オスプレイの事故率は3・98から1・93に下がったが、意図的な事故率偽装である」と記していた。

琉球新報社
琉球新報社

当機構は琉球新報社に対し「オスプレイの事故率を低くみせかけるために、米海兵隊が損害基準を引き上げた」との一連の報道が事実誤認だったかどうか、訂正する予定があるかどうか質問。これに対し、同社編集局は、初報で引用したWIREDの記事を根拠に「米軍側の損害評価基準の引上げにより海兵隊がMV22の事故率を実態以上に下げた可能性があると報じたもの」であり、「ご指摘のような誤報には当たりません」との見解を示した。「損害評価基準の引上げ」をしたのは「海兵隊」ではなく「米軍」であることを事実上認めた恰好だが、この引上げにより「MV22の事故率を実態以上に下げることにつながった」と指摘し、現時点で訂正する予定はないと回答した(全文は後掲)。

なお、当機構の調査では、オスプレイ以外の機種でも、2009年の基準改定により事故率が低下したとみられる例が確認されている。2010~2011年には、海兵隊で損害額100万ドル以上200万ドル未満の「クラスB」事故は、MV22で2件、それ以外の機種で3件起きていた。これらの事故は基準改定前だと「クラスA」に分類されていたとみられ、基準改定によりオスプレイだけでなく海兵隊平均の事故率が低下した可能性がある。

琉球新報編集局の回答

2012年8月3日朝刊1面『評価基準かさ上げ/オスプレイA級事故で海兵隊/100万ドルを200万ドルに 発生率低く調整か』ほか、弊社の評価基準かさ上げの記事について、『海兵隊オスプイMV22の事故率を他機種より低くみせかけるために海兵隊だけが損害基準を引き上げたかのように繰り返し報じた』とのご指摘ですが、当該記事は、雑誌ワイアードの2011年10月号で『ホールデン(海兵隊本部のオスプレイ計画担当官)は、海兵隊が新しくてより高い閾値を古い事故に適用し、事故を再分類していると話した。言い換えれば、海兵隊は明らかに比較的重大な過去の事故を人為的に矮小化している。海軍安全センターが禁止している行為だ』と報じたことなどを踏まえ、米軍側の損害評価基準の引き上げにより海兵隊がMV22の事故率を実態以上に下げた可能性があると報じたものです。ご指摘のような誤報には当たりません。

その記事のリード部分の冒頭で、「垂直離着輸送機MV22オスプレイをめぐり、米軍側が重大事故に当たる事故評価基準(損害額)を引き上げたり、実戦配備の際の危険任務を回避したりして、意図的に安全性を強調する安全記録が作られてきた疑惑が生じている。」と表記し、米軍全体に及ぶ措置であることを踏まえた上で海兵隊のMV22の事故率を実態以上に下げることにつながったと記事化しております。実際に海兵隊機の重大事故に当たるクラスAの事故率を低くする形となって作用しており、影響を及ぼしています。現時点で訂正する予定はありません。

国防次官が発出した文章については、もちろん弊社も確認しております。今後の取材、報道の中で、それを踏まえた形で報じる必要があれば、的確に報道していく所存です。

弁護士

慶應義塾大学総合政策学部卒業後、産経新聞記者を経て、2008年、弁護士登録。2012年より誤報検証サイトGoHooを運営(〜2019年)。2017年、ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)発起人、事務局長兼理事を約6年務めた。2018年、共著『ファクトチェックとは何か』出版(尾崎行雄記念財団ブックオブイヤー)。2023年、Yahoo!ニュース個人「10周年オーサースピリット賞」受賞。現在、ニュースレター「楊井人文のニュースの読み方」配信中。ベリーベスト法律事務所弁護士、日本公共利益研究所主任研究員。

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