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水木一郎さんありがとう!感謝を込めて、マジンガーZの「操縦者はロボット酔いしないの?」原稿を公開。

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

水木一郎アニキが亡くなってしまった! 信じられない!

子どもの頃から『マジンガーZ』が大好きで、毎週正座して見ていた。

中学3年のとき、その主題歌を歌っている水木さんが出演するイベントを見に行って生歌を聴き、モーレツに感動した。

それからだいぶ経って、書籍の企画で対談をした。

「羽根木公園で歌って近所の方に叱られたことがある」という話をしたら、「奇遇な! 僕も中学の頃、羽根木公園で発声練習をしてました!」と言われ、憧れの水木さんとの些細な接点に感激したものだ。

とても気さくで、優しい方だった。

繰り返すけど、亡くなったなんて信じられない。

『マジンガーZ』も『キャプテンハーロック』も『超人バロム1』も『コン・バトラーV』も、その歌が大好きだった。

ショックでどうしていいかわからないのだが、水木一郎さんに感謝を込めて、最初の『空想科学読本』に書いた「マジンガーZの操縦者・兜甲児はロボット酔いしないのか?」という原稿を掲載させていただきたい。

元原稿は四半世紀も前に書いたもので、大好きだった作品ゆえに激しいツッコミを入れているけど、その後少しずつ改稿して、辛辣な表現は抑えたりしている。

原稿を読み直すたび、水木さんの歌声がアタマのなかに聞こえてきたものだった。

◆搭乗型ロボットの元祖!

アニメに登場するロボットの多くは、人間が乗って操縦する「搭乗型ロボット」だが、その元祖は、なんといってもマジンガーZだ。

「超合金Z」という特殊金属で作られたロボットで、身長は18m、体重は20t。

主人公・兜甲児がホバーパイルダーに乗って、マジンガーZの上空まで飛んでいき、「パイルダー・オン!」と叫んで頭部に合体する!

いま考えれば、ちょっとムダの多い搭乗方法では……という気もするが、これが実にカッコよかった。

同時に複雑な気持ちでもあった。

人間がロボットに乗り組んで戦うのは、あまりに危険な行為ではないだろうか。

人が出向いては危険だからロボットに任せようという、レスキューロボットや探査ロボットの開発における発想が、そこには一切ない。

ああ、悩ましい。

筆者は兜甲児に「雄々しく戦え」と声援を送ればよいのか、「危険だからやめろ」と諫めればいいのか?

本稿では、実際にマジンガーZに人間が乗り込んだら、どういう目に遭うのかを考えてみよう。

◆乗り物酔いする!

マジンガーZの性能は細かく設定されているから、乗り込んだ兜甲児がどうなるのかも、数字を使ってシミュレーションできる。

まずは、普通に歩くときの様子を見てみよう。

このロボットは、歩幅6.8m、時速50kmで歩くという。

歩くにしては速く思えるが、これはマジンガーZが人間の10倍も大きいからだ。

成人が普通に歩く速度は時速4kmだから、開発者の兜十蔵博士は、身長に比例する速さで歩くように設計したのだろう。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

それでも、かなりの速足である。

時速50kmとは秒速14mだから、歩幅が6.8mなら、1秒におよそ2歩のぺースで歩くことになる。

こんな歩き方をしたら、頭は大きく揺れる。

実際にアニメの画面で測定すると、マジンガーZが歩くとき、頭部は25cmほど上下運動している。

これすなわち、頭部の操縦席に乗った兜甲児も、1秒に2回というハイペースで、上下に25cm揺さぶられるということだ。

車酔い、いやロボット酔いは必至である。

歩くだけでもツラいが、走るとなると苦痛どころか危険だ。

マジンガーZは時速360km=秒速100mで走る、という設定になっている。

これも人間のほぼ10倍だが、新幹線よりも速いスピードだ。

アニメの画面で計ると、マジンガーZは1歩を平均0.24秒で走っている。

1秒あたりの歩数は4.2歩で、つまり甲児は1秒間に4.2回も揺さぶられる!

では、その場合の揺れ幅は?

アニメを観察すると、ややっ、意外にも頭が動く方向は、上下ではなく左右だ。

念のためオリンピックの100m走の動画を確認すると、確かにスタート直後、選手たちの頭は左右に動いている。

スバラシイ! わがセイシュンを支配した『マジンガーZ』の描写は、まことにリアルだったのだ。

感動している場合ではない。

マジンガーZの頭部の動きを測定すると、左右に60cmほど動いている。

これはもう、ムチャクチャ大変だろう。兜甲児は、左右60cmの幅で、1秒に4.2回も揺れる新幹線に乗っているようなものなのだ!

乗り物酔いどころの騒ぎではない。甲児の体重が65kgなら、折り返す瞬間、全身に1.4tの力がかかる。

これを毎秒4.2回も繰り返されたら、全身が複雑骨折するのでは……!?

◆戦ったらどうなるか?

さらに、マジンガーZのジャンプ力は20mだという。

18mの身長よりやや高く跳ぶわけで、まことに躍動感あふれるが、乗っている甲児も同じ動きをしていることを忘れてはいけない。

着地の瞬間、甲児は20mの高さから落ちたのと同じ衝撃を受ける。

彼は操縦席に座って乗っているが、人間というものは、椅子に座ったまま20mの高さから落とされても大丈夫なのか?

兜博士はちゃんと事前に実験したのだろうか? 着地の速度は、時速71kmにもなるのだが……。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

だいぶ不安になってきたが、このうえ戦うのだから、命の保証はまったくできない。

戦いのなかで、敵の攻撃を受けて、マジンガーZが倒れることもある。

身長18mとなると、まっすぐ立った状態から後方へ倒れただけで、マジンガーZの後頭部は時速83kmで地面にぶつかる。

甲児もその速度で、シートの背もたれに叩きつけられるわけだ。

相手を殴ると、どうなるか?

走行速度と同じく、パンチのスピードも10倍、敵の機械獣との間合いも人間の10倍なら、パンチの初動から打突までの時間も人間と同じになる。

空手の突きは、初動から打突までおよそ0.5秒。初期の出力65万馬力なら、この間に放たれるエネルギーは2億4千万Jだ。

もし自分の拳も敵の機械獣も壊れなかったら、体重が同じ場合、2億4千万Jの半分、1億2千万Jずつが両者の運動エネルギーに変わる。

するとマジンガーZは、時速390kmで飛んでいく!

飛距離は150m。地面に突っ込む速さもほぼ同じだ。

兜甲児は、生きた心地がしないどころか、生きているかどうかが心配である。

さらに無謀なことに、自ら全力疾走して敵に体当たりすることもあった。

そしてオソロシイことに、アニメで見る限り、マジンガーZのコクピットにはシートベルトが装備されていない!

それで体当たりなんかすると、甲児は時速360kmで投げ出され、窓をぶち割ってそのまま飛んでいく。

窓の破壊にエネルギーの10%が消費された場合、時速340kmで飛び出し、180m彼方に落下。

地面に激突する速度は、高度18mからの落下のエネルギーが加わって、時速350km。

すべてが終わった後、地球の平和のために戦った若者は、大地に静かに倒れているだろう……。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

◆操縦者の安全のために

マジンガーZの操縦は、想像以上に危険である。

しかし、これでは世界平和のためにこのロボットを作った兜博士も気の毒だし、命をかけて戦った甲児もカワイソウだ。

甲児と地球の平和のためにも、安全対策を講じるべきだろう。

たとえばエアバッグを併用すれば、安全性は高まる。

ただし、一度ぶつかるたびに、あっちからぶしゅー、こっちからぶしゅーとなって、コクピットの内部がエアバッグで埋まり、身動きがとれなくなってしまう。

だったら、操縦席を液体で満たしてはどうだろうか。

兜甲児はアクアラングを着けて液体に潜ったまま、マジンガーZを操縦するのだ。これなら、マジンガーZが敵にぶつかっても、甲児は液体中をスーッと進むことによって、衝撃を受ける時間を長くすることができる。

問題は、コクピットがかなり大きくなることだ。

人間は体重の10倍以上の力を受けると失神する。時速360kmでぶつかったとき、体に受ける衝撃をそれ以下に留めるには、甲児は液体中を50m移動する必要がある。

彼が操縦席の中央に座っているとしたら、必要な操縦席は直径100m。

すなわち、マジンガーZの頭も直径100m。

カッコ悪いのはもちろん、身長18mのロボットにこんな頭がついていたら、自分の頭が邪魔になって戦えたものではない……。

考えれば考えるほど、巨大ロボットに乗り込んで戦うのは難しそうだ。

しかし筆者は、マジンガーZが大好きなのだ。

マジンガーZを建造した兜博士を尊敬しているし、乗り込んで戦った兜甲児に憧れている。

がんばれ甲児くん! でも、出撃したらキミはどうなってしまうのか。

ああ、空想と科学のあいだで、ココロが揺れ続ける。

――改稿したと言いつつ、まだまだ辛辣ですね。すみません。

対談のとき、僕が「アニメの面白いシーンを科学的に検証しています」と言うと、水木さんは明るく笑って「歌にも気になる表現、いっぱいありますよ。でも、歌ってる僕がそれを気にかけるとよくないので、作品のテーマに気持ちを集中させて歌うんです」とおっしゃった。

ありがとうございました。決して忘れません。

水木一郎の歌と魂は不滅です。

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

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