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『君の名は。』のラストシーンで、瀧と三葉が奇跡の再会! どんな確率なのか、計算してみた!

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。

マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。さて、今回の研究レポートは……。

何度見ても胸が熱くなる映画『君の名は。』。

魅力はたくさんあるけど、忘れられないのは、エンディングの再会だ。

3年のズレを超えて出会った立花瀧と宮水三葉は、やがてお互いへの記憶をなくし、それぞれの日常に戻っていた。

それから数年後、2人は同じ時間のなかで再会する。

お互いを探しまわり、神社の階段ですれ違ったとき、2人は「君の名は……」と呼びかける。

まことに感動的な締めくくりだ。

2人が再会した神社の階段は、いまや「聖地」として有名だが、具体的な場所がわかると考えたくなる。

お互いの記憶を失った2人が、そこで再会するのはどんな確率なのか?

本稿で計算してみよう。

◆神社は意外と遠かった

この問題を考えるにあたって、筆者は東京四谷の「須賀神社」に行ってみた。

ここが、瀧と三葉が再会した場所といわれているからだ。

神社の近くには階段が二つあって、おお、その一つがまさに2人が再会した階段!

アニメの描写そのままの赤い手すりがあり、階段は全49段だ。

瀧と三葉は、なぜここで再会することになったのか?

劇中、2人は別々の電車に乗っていたが、並走する区間で、窓越しに相手に気づいた。

瀧は中央線快速、三葉は総武線各駅停車に乗っていたと思われ、目と目が合った2人は、それぞれ次の停車駅で降りたようだ。

それが新宿駅(瀧)と千駄ヶ谷駅(三葉)。

2人は駅を出て、懸命にお互いを探す。

探し回った末に、瀧が息を切らして神社の階段の下に来ると、その階段の上に三葉がいた……!

ヒジョ~に胸が熱くなるシーンだが、この再会の確率を求めるために、2人が出発した駅と、須賀神社の距離を調べてみよう。

スマホでルート検索すると、瀧が改札を出た「新宿駅南口」から「須賀神社」まで徒歩での距離と時間を調べてみると「2.6kmで38分」。

一方「千駄ヶ谷駅」から「須賀神社」は「1.4kmで徒歩22分」。

どちらも意外と遠い!

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

◆どんな確率なのか?

筆者は、千駄ヶ谷駅からの道を、ルート検索に従って歩いてみた。

改札を出て左に歩くと、すぐに東京五輪でも使われた国立競技場があり、それを越えると聖徳記念絵画館という趣ある建物もあって、このあたりまでは緑も多くて広々としている。

だが、信濃町駅前の歩道橋を渡って外苑東通りに出ると、急にゴチャッとした都会になる。そこをまっすぐ歩いて、左門町の細い通りを右折すると、今度は神社仏閣の多い静謐な雰囲気で……と、このルートは次々に景色が変わってたいへん魅力的だ。

しかし、ルート検索に従って歩いたので須賀神社にたどり着けたけど、ぶらぶら歩いたのでは、とても行き着けそうもない。

筆者が歩いた1.4kmのあいだに分岐点は28あり、うち5つが十字路(選択肢が3つ)、23がT字路(選択肢が2つ)だった。

仮に三葉が同じルートを歩いた場合、瀧がどこにいるのか、あるいはどこに向かっているのかわからないのだから、三葉は道路の分岐点に来るたびに、どちらに進むか迷ったことだろう。

そして、上記のような28の分岐点で正しい判断をしたわけで、その確率は「3分の1」を5個と「2分の1」を23個かけた「20億3843万1744分の1」となる。

瀧の「新宿南口→須賀神社」のルートについては、机上の計算だけに留めるが、三葉ルートと同じ比率で分岐点があったと仮定するならば、十字路が9、T字路が43。

たどり着く確率は「17京(けい)3133兆4989億5612万分の1」。

そして2人が出会ったということは、上記の現象が同時に起きたわけで、確率は両者をかけた「352杼(じょ)9208垓(がい)2022京1946兆分の1」だ!

これは、26桁の秘密の番号を一発で当てるより3.5倍も困難という激レア確率である。

奇跡の絆といわずして、何といおう!?

◆時間という障壁

さらに考えるなら、2人が会うには、同じ場所に行くだけでは不充分。時間帯も同じでないと、すれ違ってしまうからだ。

それを考慮に入れると、一つ疑問が生じる。

須賀神社は千駄ヶ谷駅から22分、新宿駅南口から38分だから、お互いが最短ルートで向かったら、16分間の時間差がある。なのになぜ、2人はそこで会えたのか?

三葉の足が遅かった、あるいは瀧の足が速かった……などという可能性もあるが、いちばん自然なのは「三葉が最短ルートを選ばなかったため、時間がかかった」ということだろう。

目的地が決まっていたわけではないから、お互いが最短ルートで着くほうが、むしろ不自然かもしれない。

だが、そうなると2人の再会はもっと難しいことになる。

仮に「瀧は最短ルートで行ったけど、三葉は22分で行けるところを38分かけてしまい、結果的に38分後に再会した」としよう。

その場合、三葉も2.6km歩き、9つの交差点と43のT字路で正しい選択をしたことになる。

すると、三葉が須賀神社にたどり着く確率も、瀧と同じ「17京3133兆4989億5612万分の1」になり、2人が須賀神社で会う確率は「299溝(こう)7520穣(じょう)8460杼7888垓分の1」に!

これはもう、34桁の秘密の番号を当てるより3倍も困難だ!

バカデカい数字の連発でアタマがクラクラしてきたけれど、計算すると、三葉と瀧は、こうしたモーレツに低い確率をクリアして再会を果たしたわけである。

おそらく宇宙最強の運命の絆!

新海監督が書かれた小説『天気の子』には、2人がその後結婚したことを匂わせるような描写もあるので、本当によかったなあと思います。

※「杼」の部首は「木」ではなく「禾」が正しい

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

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