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『ワンパンマン』サイタマの「マジ水鉄砲」の威力を計算してみたら、怖ろしい結果が出た!

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。

マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。

さて、今回の研究レポートは……。

モーレツに強い『ワンパンマン』のサイタマだが、「必殺マジシリーズ」となると、さらにすごい。

これまでに、マジ殴り、マジ頭突き、マジ反復横跳び、マジちゃぶ台返し……などを披露して、強大な敵を倒してきた。

そんな「マジシリーズ」のなかから、今回は「マジ水鉄砲」について考えたい。

これまたスゴイですよ!

「水鉄砲」というと能天気なイメージだが、このワザが放たれたのは恐るべき場所だった。

地底で成長していた怪人王オロチは、サイタマを地下深くに導く。

そこには超古代の神殿があり、周囲にはマグマが池のように溜まっていた!

灼熱地獄みたいなこの環境で、オロチが「ガイア砲」を放ち、サイタマが「マジ水鉄砲」で応戦したのである。

――さて、その結果は!?

◆地球のエネルギーに圧勝する

「さて、その結果は!?」などと、思わせぶりなことを書いたけど、サイタマですからね。

圧勝です。

ただ、その展開は驚くことが多かったので、ぜひとも紹介しておきたい。

マグマの池に浸された超古代の神殿を前に、オロチはこの場所を発見したときの体験をサイタマに語る。

神殿の壁に書かれた古代文字を読んで、自分こそが「神になるべき存在だったのだ」と天命を悟り、それ以来「復活のための生贄」を今日まで探し続けてきたのだという。

そして、ようやく見つけた生贄がサイタマだった!

……とオロチが真剣に説明しているとなりで、サイタマはお風呂のようにマグマに浸かって、キモチよさそうにしているのである。

恐るべきヒトだ。溶けた溶岩の温度は800~1200度もあるのに、なぜ平気なのか!?

これにはオロチも「なんなのだ コイツは」と驚いて、全力で攻撃することを決意する。

そして「地球のエネルギーを直にくみ上げてぶつけてやる」と、地球の中心部の「マグマのようなもの」をズズ……と上昇させ始めた。

その影響で地震が起こり、大きな揺れに襲われた地上では建物が倒壊。

火山も次々に噴火した。

やがて、オロチの体から燃え盛る「ガイア砲」が放たれた……!

ところがサイタマは「フロも静かに入れねーのか」と迷惑顔で、マグマに浸かったまま「マジ水鉄砲」を発射!

その手からはすごい勢いでマグマが射出され、簡単にガイア砲を弾き飛ばした。

さらに自らも跳躍して、とどめのパンチをオロチに見舞う。

マグマに沈みながら「貴様 今……何をした……?」と聞くオロチに、サイタマは「フロでさわぐな!」と一喝したのだった。

うはははっ。やっぱりサイタマは強い。笑ってしまうほど強い。

こうなると、なんだかオロチが気の毒だが、実際オロチの放ったガイア砲は、そうバカにしたものではない。

地球の中心部から上昇させてきた「マグマのようなもの」を放ったのだから、相当な威力があるはずだ。

地球の中心部は鉄とニッケルでできていて、温度は6千度。

しかも350万気圧という高圧のために、密度が13kg/Lにもなっている。

オロチはそれを直径10mほどの球体にして、サイタマにぶつけたわけである。

その質量は推定6800t!

もし時速200kmで飛んできたとすれば、運動エネルギーは105億J。

熱エネルギーはさらにすごくて、18兆2千億J。

このガイア砲、爆薬457t分というすさまじい威力をもっているのだ……!

◆すごすぎるマグマ水鉄砲!

そんなスゴイものに、サイタマは水鉄砲で対抗し、粉砕した。いったいどうなっているのか?

手による水鉄砲とは「手のひらのあいだに水を溜め、圧縮して飛ばす」遊びだ。

やり方は主に2種類あり、①両手を水面に浸けたまま、親指の側から真上に飛ばす。②両手を水面から上げて、小指の側から水平に発射する。

サイタマがやったのは後者で、その場合、手のひらに溜められる体積はせいぜい40mLほどだろう。

ところが、作中の「マジ水鉄砲」は、そんな生易しいモノではなかった。

サイタマの手から放たれたマグマは、円錐状の巨大な噴流となって飛んでいき、ガイア砲を粉砕している。

描写から測定すると、手元から斜め上に飛ばしており、筆者の計測では、マグマの先端までの長さは22.5m。先端の直径は4m。その体積を計算すると、337m³である。

これ、不思議である。

前述したように、手のひらのあいだに溜められる水量はせいぜい40mL。これはマグマでも同じだろう。

なのにサイタマが発射したマグマは337m³。実に942万倍もの差がある。

どう考えればいいのだろう?

小学校4年の理科で「空気は縮むが、水は縮まない」と習うが、液体も強い力をかければ、わずかに縮む。

たとえば直径10cmの円筒に深さ1mまで水を入れて、1.8tの力をかければ1mm縮むのだ。

ここから考えれば、サイタマも猛烈な力でマグマを圧縮したに違いない。

その圧縮率は、942万分の1。

これに必要な力は7兆7900億tで、エネルギーは5900兆ジュール。

打ち出したマグマの速度は、マッハ317。

どれもこれもモノスゴイ!

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

これほどのスピードとなると、ただの水をぶっ放しても、ガイア砲を弾き飛ばせるだろう。

水鉄砲でここまでのことができるとは……!

本当に恐ろしい、サイタマの「マジシリーズ」である。

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

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