Yahoo!ニュース

宇宙戦艦ヤマトvsアルカディア号! アニメ史に輝く2大戦艦は、戦ったらどちらが勝つ?

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

1970年代に『宇宙戦艦ヤマト』がヒットすると、一気にSFアニメブームが起こった。

『ヤマト』の世界観を創った松本零士先生の『銀河鉄道999』や『宇宙海賊キャプテン・ハーロック』なども、次々にアニメ化されていった。

筆者はどれも大好きで、毎週欠かさず見ていた。

その頃から、ずっと気になっていたのが、宇宙戦艦ヤマトと『ハーロック』のアルカディア号が戦ったら、どちらが強いのかという問題だ。

ヤマトは、旧日本海軍の戦艦「大和」を改造し、波動エンジンを搭載した宇宙戦艦。

主砲、副砲、艦載機に加え、波動砲という驚異的な威力の武器を装備している。

沖田十三艦長以下114名のクルーを乗せて、はるか14万8千光年の彼方イスカンダル星へ、放射能除去装置を取りにいくのが目的だ。

一方、宇宙海賊キャプテン・ハーロックと40人の仲間たちが乗るのがアルカディア号。

設計・建造は、ハーロックの亡き親友・大山トチローで、中枢大コンピュータには彼の魂が宿る。

主砲、速射砲、艦載機を備え、ときには艦首から巨大なナイフのような衝角を突き出させ、敵艦に体当たりすることも。

侵略者・マゾーンが飛来しても危機感を持たない地球で、アルカディア号だけが敢然と立ち向かう。

――立場も目的も違う2隻だが、戦ったらどちらが強いのだろうか? 空想科学でシミュレーションしてみよう。

◆デカいぞ、アルカディア号

実は、宇宙戦艦ヤマトとアルカディア号では、作られた時代がまったく違う。

ヤマトがイスカンダルへ旅立ったのは西暦2199年。

アルカディア号がマゾーンと戦ったのは2977年。

なんと778年も違うのだ。

この原稿を書いている2022年から778年前とは、1244年。

元寇「文永の役」の30年も前であり、つまりヤマトとアルカディア号の対戦は、鎌倉時代の木造軍船vs現代のイージス艦……みたいな感じなのかもしれない。

でも、そう考えると面白くないので、ここでは時代の違いは無視して、無限に広がる大宇宙で両艦が戦うことになったと仮定しよう。

大きさで勝るのは、アルカディア号である。

史上最大の戦艦を改造したヤマトも全長265.8mと巨大だが、アルカディア号はなんと400m! ヤマトの実に1.5倍だ。

すると重量も違うだろう。

宇宙戦艦ヤマトの重量は6万2千t。

アルカディア号の重量は公表されておらず、艦の形が違うので大雑把な計算でしかないが、全長に1・5倍もの差があれば、重量は3.4倍ほど違っていても不思議ではない。

その場合、アルカディア号は21万tということになる。

これほどサイズが違うと、主砲の威力にも差があるだろう。

ヤマトの主砲は、46cm三連装ショックカノン砲3基9門。

アルカディア号の主砲は、三連装パルサーカノン砲2基6門。

砲数はヤマトが勝るが、アルカディア号は船体がデカい分、主砲も巨大だと思われる。

その口径をアニメの画面で測ると、なんと1.5mもある。46cm砲の3倍以上!

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

両者のビームが同じ威力を持つとしたら、口径が大きいほうが圧倒的に有利だろう。口径3倍のパルサーカノンがヤマトを貫通した場合、断面積にして9倍もの大穴が開くのだから。

――すると、ヤマトのピンチか!? 早くも波動砲の発射態勢に……!?

◆ブラックタイガー発進!

いや、待て待て。ヤマトもアルカディア号も百戦錬磨の宇宙戦艦だ。

いきなり主砲を撃ち合ったり、モノも言わずに最終兵器をぶっ放したりはしないだろう。

偵察の意味も込めて、両艦とも初めは艦載機を発進させるのではないだろうか。

ヤマトの艦載機の主力は、戦闘機ブラックタイガーで、パルスレーザー砲を装備している。

対するアルカディア号の戦闘機スペースウルフも、パルスレーザー砲を搭載している。

艦載機同士の戦いは、パルスレーザー砲の撃ち合いになるだろう。

レーザーは光の速さ(通常の弾丸の30万倍)で飛ぶから、発射時の狙いさえ正確なら必ず命中する。

また、レーザーの威力の源は、当たったときに発生する熱なので、出力が一定のレベルを超えていれば、どんなに頑丈な物質でも、溶けたり蒸発したりしてしまう。

つまり、パルスレーザー砲は一撃必殺なのだ。

となると、戦いの行方は戦闘機の数に左右されることになる。艦載機が多いのはどっちだろうか?

その数は両艦とも不明だが、『ヤマト』のブラックタイガーは、40機ほどではないかと思う。

これは、劇中のガミラス艦隊との決戦(七色星団の攻防戦)において、ガミラスのレーダーが捉えた機影などから推定した数字で、ヤマトの全乗員が114人なのを思えば、そのくらいとみるのが妥当だろう。

一方、アルカディア号の乗員は「ハーロックと40人の仲間たち」だ。単純計算すると41人しかいない。

出撃する戦闘機の数は、乗員の数より少ないはずだから、するとヤマトが有利!?

と思ったら、なんと『キャプテン・ハーロック』において、マゾーンとの最終決戦のとき、彼らはヤッタラン副長1名を艦に残し、残る40名が艦載機で敵の旗艦に突入した!

オドロキの戦術だが、アルカディア号の中枢大コンピュータには大山トチローの魂が宿っており、非常時には彼が操艦や攻撃までやってくれるから、こういう戦術も可能なのだろう。

――だったら、艦載機の数は互角。これでは、お互いに大きな損傷も与えられない。

やがて帰投して、さあ、戦いはいよいよヤマト対アルカディア号ということになる。

◆やっぱり波動砲だ!

宇宙戦艦同士の対戦となったとき、主砲の撃ち合いではアルカディア号が有利なことは、すでに述べたとおりだ。

そうなると、ヤマトに残されたのは波動砲しかない。

リメイク版の『宇宙戦艦ヤマト2199』では、波動砲の使用をスターシャに厳しく咎められていたし、そもそも波動砲を人間40人が乗るフネに、こんな超兵器をぶっ放していいのか……という人道的な問題もある。

だが、そんなことを言っているうちにアルカディア号にやられたら大変だから、ここは心を鬼にして波動砲の発射準備をしよう(スターシャさん、すみません)。

いくらアルカディア号でも、波動砲で撃たれたのではたまったものではない。

だが、それに匹敵するような超兵器は搭載していない。

――では、どうする!?

筆者が思うに、ハーロックは海賊戦艦らしい戦い方で臨むのではないだろうか。

つまり、ヤマトが波動砲を撃つ前に、ヤマトに急接近し、ナイフのような衝角を突き立てるのだ。

ヤマトに乗り込んで白兵戦を挑めば、海賊側がぐっと有利になるかもしれない!

もちろん、英邁なヤマトの沖田艦長は、彼らが海賊戦法で挑んでくることを見抜くに違いない。

アルカディア号の機先を制して、波動砲の発射を命ずる……としよう。

ところが、この超兵器の発射には時間がかかる。

アニメの画面で測定すると、準備を始めてから引き金を引くまで、1分50秒もかかっていた!

1分50秒――。ヤマトにとっては長いが、アルカディア号にとっては、短い時間である。

この時間のうちに、アルカディア号は、ナイフのような衝角をヤマトに突き立てられるのか!?

それは、アルカディア号の速度によって決まる。

マゾーンとの最終決戦で、このフネは地球を発ってその日のうちに木星軌道に達していた。

地球から木星まで、最短で6億3千万kmもある。

これを1日で走破したとすれば、その速度は秒速7300km。地上の音速を基準にすれば、マッハ2万1千だ。

このスピードで1分50秒以内に到達できる距離とは、40万kmである。

これは、宇宙戦艦と海賊戦艦が向かい合う距離として、どうなのか。

地球から月までの38万kmより遠いから、かなり離れている気もするが、パルスレーザーならわずか1.3秒で届く距離である。

宇宙の戦いのスケールとしては、ちょうどいいくらいかもしれない。

――すると、この宇宙海戦の結末は、こうなるだろう。

波動砲の発射準備開始と同時に、アルカディア号が突進した場合、両艦が40万km以上離れていれば、波動砲が命中してヤマトの勝ち!

40万kmより近いところにいたら、アルカディア号の衝角がヤマトにブチ込まれ、壮絶な白兵戦の後にハーロックと海賊たちの勝利!

恐るべき接戦だ。戦ってほしいような、戦ってほしくないような……。

まあ、考えてみたら、どちらも地球のために戦っている、オトコたちのフネ。

ヤマトとアルカディア号が戦う理由は全然ない。

ただ、筆者としてはずーっと気になっていたので、ついアレコレ考えてしまいました。楽しかった。

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

柳田理科雄の最近の記事