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今夜放送『塔の上のラプンツェル』。原作を考察すると、ラプンツェルと王子の意外すぎる関係にびっくり!

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。さて、今日の研究レポートは……。

今夜の「金曜ロードショー」で放送されるアニメ映画『塔の上のラプンツェル』には、原作があるのをご存じでしょうか。

それは、グリム童話の『ラプンツェル』で、こんなお話だ。

身ごもった妻のために「ラプンツェル」という野菜を盗んだ夫が、魔法使いに見つかった。生まれてきた女の子は、その代償に魔法使いに引き取られ、ラプンツェルの名で育てられる。

ラプンツェルは、12歳からは高い塔に閉じ込められていた。魔法使いは、ラプンツェルに窓から長い髪を垂れさせて、塔に登っていた。

ある日、塔の近くを通りかかった王子が、彼女の歌声に魅せられた。王子は、魔法使いが塔によじ登る様子を見て、同じように髪を垂らしてもらうと、それをつたって塔を登った。

王子とラプンツェルは恋に落ち、塔の上で逢瀬を重ねるように……。

だが、やがてラプンツェルは魔法使いに見つかり、塔を追い出される。王子は塔から飛び降りて、木の棘で目を突いて失明してしまう。

――放浪の日々を重ねた王子だったが、やがてラプンツェルと再会。彼女の涙で目も治り、2人はお城で幸せに暮らしましたとさ。

アニメ映画とはだいぶ違った内容で、驚く人も多いだろうが、こちらのほうが元のお話である。

グリム兄弟が童話を集めて本にまとめたのは19世紀のはじめで、つまり『ラプンツェル』はもう200年間くらい、概ね上記のような内容で(時代によって変容するが)、世界の人々に親しまれてきたのだ。

そこで本稿では、グリム童話『ラプンツェル』について、空想科学的に考察したい。

◆髪の毛はどのくらい丈夫なのか?

まずは、ラプンツェルの髪の毛問題である。

彼女は自分の髪をロープ代わりにして、高い塔の小窓まで、魔女や王子をよじ登らせたが、そんなことができるのだろうか?

ポイントは、①髪の毛の強さ、②毛根の強さ、の2つだろう。

そこで、両方ともバネばかりを用いて実験したみたところ、①に関しては「髪は1本で300gの重さに耐えられる」という結果が出た。

②については「毛根1つが耐えられる力は150g」という数値が得られた。

つまり、毛根よりも、髪の毛のほうが強いのであり(自分の髪の毛を引っ張っても、切れる前に抜けることが多いから、ナットクの結論だ)、ということは「魔女や王子の重量に、毛根が耐えられるか」が問題となる。

「毛根1つが150gに耐える」とは、意外にすごい耐久力だ。

日本人の髪の本数は10万本だから、これらをすべて束ねれば、なんと15tにも耐えられる計算になる。

ヨーロッパ人の場合は、髪1本は日本人より細いが、本数は14万本もあるといわれる。王子の体重が70kgだった場合、1本にかかる重量は0.5g。余裕の楽勝である。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

仮に、毛根1つの強度が150gの半分の75gしかなかったとしても、14万本を束ねれば10.5tのモノを吊り下げることが可能だ。

これはスバラシイ。王子が照ノ富士(184kg)や貴景勝(166kg)と同じくらいの立派な体躯だったとしても、10人や20人ぶら下げるのになんの問題もない。

おらおら、ヨーロッパ中の王子ども、まとめて登ってこい!

◆王子はかなりの年上好み!?

ラプンツェルの毛根が強いのはまことにめでたいが、もうひとつ気になるのは、彼女の髪の長さだ。

アニメ映画『ラプンツェル』では、70フィート(=21m)という驚異的な長さになっているが、原作でも相当である。岩波文庫『完訳 グリム童話集Ⅰ』(金田鬼一訳)の記述によれば、ラプンツェルの髪の毛は塔の窓から12mも垂れ下がっていたという。

人間の髪とは、12mとか21mほども伸びるのだろうか?

そこで美容師さんに伺ったところ、人間の髪は1ヵ月に1cmほど伸びるという。ということは、1日に0.33mm。

その一方で、髪には成長期・退行期・休止期があって、3〜7年の成長期を終えると普通は成長が止まる。7年として計算すると、84cmくらいが限界ということだ。

ところがラプンツェルの髪は12m。退行期も休止期もなく毎日0.33mmずつ伸びていったとしても、12mに達するまでの時間は……ええっ、100年!?

魔法使いだけじゃなくて、ラプンツェルもお婆さんだったということ? そういう彼女を好きになってしまった王子は、モーレツな熟女好きだった……!?

――などと、妙な妄想までわいてしまう、ナゾに満ち満ちたグリム童話の『ラプンツェル』である。

今夜放送の『塔の上のラプンツェル』も、そんなお話を元に作られたわけで、皆さまもアレコレ考えながら、どうかゆっくりとお楽しみください。

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

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